沖縄赤十字病院院長 髙良 英一 先生
病院の理念である「赤十字の博愛の心が伝わる病院をめざして」
を念頭にたゆまず前進していきます。
ご指導よろしくお願い致します。
Q1．昨年の7 月に那覇の旧県立那覇病院跡地 に新築移転されてから早半年が過ぎますが、 医療スタッフや患者さんからの反応はいか がでしょうか。
新病院移転前日の平成22 年6 月30 日まで旧 病院で診療し、それまでの間に7 月1 日の新病 院業務開始に向けて患者移送準備、各種診療機 器の移送などを行い、入院患者は1 日当日よ り、外来患者は5 日より新病院にて診療を開始 しました。5 月31 日に新病院建物の引渡しを受 け、6 月は放射線などの大型医療機器の設置、 病室のベットなどの整備で大忙しの一ヶ月間で した。最大の懸案事項である入院患者の移送 は、救急車対応、車いす対応、独歩移動可能な 患者などと区分し、7 月1 日には全職員が旧病 院での送り出し、搬送時の付き添い、新病院で の患者受け入れ担当とそれぞれに役割を分担 し、約5 時間で無事搬送を終えました。看護部 と医局を中心に病態に応じた移送方法、搬送順 番を綿密に計画し全職種の職員が患者移送に協 力したことがこの大課題を成功させた要因で す。患者移送の際、各救急隊や多くの病院より 救急車、車椅子搬送車などを貸していただきま したことに、この紙面を借りましてお礼を申し 上げます。新病院では放射線機器を中心にその 多くを新機種へ更新した都合上、職員はその操 作に習熟することに熱心に取り組み、7 月1 日 その日から何事もなかったかのように稼動させ たことには感心させられました。電子カルテの 操作は苦労していますが若い職員は日々上達し ている様子で、看護師さん達は端末を患者さん のベットサイドで操作し情報入力を済ませてい ます。外来患者さんからは開院当初は手順の不 慣れ等から来る待ち時間など多くのクレームが ありましたが徐々に少なくなっています。幸い 入院患者さんから大きな苦情はありません、入 院医療環境は大きく改善されたと思います。
病院移転の大事業は全職員がそれぞれの分野 において多くの協力があり無事成功させること ができました。そのことに職員の底力を実感さ せられ、将来多くの困難にも対処できると確信 しました。
患者さんや家族を含めた医療関係者以外の人 達に病気のことをよく知ってもらう目的で、 NPO 法人「医療の質に関する研究会、理事長 日野原重明先生」の支援を受けた患者図書室 （健康への架け橋）があります。図書室は“医 療は病を克服するための患者と医療提供者の協 働のいとなみである”と同法人が提唱する考え 方のもとに選択された図書が寄贈され、司書が 利用する人達をサポートできる体制で、利用者 に喜ばれています。
那覇市民会館側から臨む新病院
Q2．新病院になるにあたって、新しい診療科 の増設や新しいスタッフの登用など病院組 織そのものや何か新しく変わった事などは ありますか？
新病院は急性期病院医療の実践ができる工 夫、将来の医療技術の向上・変化で内部改造が できる工夫、スタッフの充実で現在の機能をさ らに向上させる施設整備を念頭に設計しまし た。ICU6 床、HCU10 床（平成23 年4 月オー プン予定）をつくり重症救急患者や難度の高い 手術の術後管理等が十分行える体制になってい ます。ICU 看護師の養成は2 名を移転前1 年 間、日本赤十字社医療センターに派遣し研修さ せ、彼らを中心に看護チームを編成し各科医師 と協働してICU を運用しています。現在ICU は90 ％以上の利用率であり、日によってはベ ットのやりくりに苦慮することもあり可能であ れば早い時期にHCU をオープンさせたい思い があります。
今後増加が予想される悪性腫瘍症例に対して 施設、設備を充実させました。診断部門は CT2 台（64 列と16 列）、1.5 テスラMRI、内 視鏡検査室にはハイビジョン対応カメラを備え た装置がありその詳細な画像はわずかな病変部 の診断を可能にしています。放射線治療は高精 度と高効率の治療を実施できるようにバリアン 社放射線システム（CLINAC － iX）を導入し、 琉球大学放射線科と協働して運用しています。 外来通院で化学療法を安心して受けられるよう に1 階外来部門に10 床の独立した化学療法室 を設置し、そこには患者さんの悩み、不安、疑 問などに対応できる緩和ケア認定看護師が配属 されています。
6 階東病棟には独立した無菌室が8 床ありま す。そのうち2 室はNASA 基準のクラス100 の無菌室であり、将来は骨髄移植が行える体制 を作ることをめざしています。現在は親川副院 長を含めて2 名の血液内科担当医で頑張ってい ますがさらに増員を計画し、各方面に協力を求 めているところです。
フラットパネルを備えたフィリップス社製血 管撮影装置の導入により各診療科は診断能力、 治療技術の質を大きく向上させました。脳外科 もその機器を利用して血管内治療の技術を十分 に発揮することができるようになり、脳動脈瘤 の大多数の症例は現在ではこの血管撮影装置を 使用した血管内塞栓術で治療されており、しか も治療成績は開頭術の成績と比較しても遜色は ありません。また今後高齢化とともに増加する と考えられる頸動脈狭窄症例のステント留置術 など血管内治療の適応症例がさらに拡大してい くと推測しています。同様に循環器内科も冠動 脈疾患の診断と治療がより安全に施行できるよ うになり紹介患者の受け入れが拡大するものと 推測しています。
病診連携、病病連携は知花副院長を中心に 病診連携室に専任の看護師、スタッフを配置し 地域医療連携の再検討をしたところであり、医 師会の先生方と協力し紹介患者のスムーズな受 け入れ、逆紹介の推進を図ることを意図してい ます。
Q3．沖縄赤十字病院は、災害時の拠点病院と して、又地域の中核病院として重要な役割を 担っております。病院が新築移転され更にそ の期待が高まっておりますが、今後どのよう な特色を発揮して近隣病院・診療所との連携 を図っていかれるお考えでしょうか。
赤十字病院の基本的役割の中に災害救護があ り、沖縄赤十字病院も積極的にその役割を担っています。今回の新病院建設に際して1 階、2 階の外来部門の待合スペースに酸素と吸引の配 管を行い、災害時に発生する大勢の被災者のト リアージ、救護所として利用できる工夫を設計 に取り入れました。
病院は医師1 名、看護師3 名、事務職2 名の 計6 名からなる救護班を5 チーム常設し、災害 時にはチームで派遣しています。阪神・淡路大 震災や新潟地震にも日本赤十字社・本社と連携 のもとに救護班を派遣しました。県内では那覇 空港の航空機火災の際も出動、また平成16 年 8 月13 日、沖縄国際大学に米軍のヘリコプタ ーが墜落した時も唯一赤十字救護班が事故現場 近くで県民の被災者が出た場合を想定して出 動、待機していました。平成21 年8 月19 日ガ ーブ川の鉄砲水による人身事故の際も直ちに出 動し必要があれば救出現場で緊急蘇生に対応で きる体制をとりました。台風や土砂崩れなどで 避難された方々に対しては必要に応じて心に受 けたダメージをケアする「こころのケア・チー ム」を派遣しています。この様に県内外の災害 に救護班を中心に行っている救護活動をこれか らも充実を図ります。また、今後の救急活動に 対し発生直後の超急性期に対応できるDMAT 要員の研修を積極的に進め2 チームが組める人 員の養成が終了しています。現在は装備を充実 させDMAT チームが安全に活動できるシステ ムつくりに努力しているところです。
離島の救急患者搬送を行うヘリコプター等添 乗医師等確保事業や沖縄近海の船舶内で発生す る急患に対応する洋上救急業務にも積極的に参 加しています。洋上救急に関してはその実績が 評価され県内で初めて日本水難救済会より名誉 総裁表彰を平成22 年5 月に受けました。
海外救援に関してはケニア・戦傷外科病院へ の難民救護活動、パラオ赤十字社への救急法等 の普及支援事業、フィリピンへの地域医療支援 事業、等々と専門的に訓練を受けた看護師を派 遣しましたが、将来は医師、コメディカルなど 多くの職員を海外救援、特に沖縄県に近い東南 アジアに派遣できる状況を造ることが夢です。
これら救急・救護業務は今後さらに充実させ たいと考えています。与儀地区に移転し赤十字 支部、血液センター、病院が同一敷地にあるこ とにより、これら救護活動の赤十字組織内での 連携はよりスムーズになりました。また佐々木 救急部長を中心に病院内の体制もより充実され つつあります。
現在の病院の位置的条件、病院の構造は県内 での大災害時の救護活動に十分対応できる状況 にあり、今後は行政機関、地元医師会とも積極 的に災害救護の在り方を協議したいと考えてい ます。
Q4．本会または日本医師会へのご意見・ご要 望がありましたらお聞かせ下さい。
県医師会の事業の一つである南部保健医療圏 における脳卒中医療連携の委員長を仰せつか り、県内での脳卒中連携の組織つくりとその普 及に取り組んでいる中で感じたことは、県医師 会のアクティビティーの高さです。今後も積極 的な活動を期待しています。
Q5．最後に日頃の健康法、ご趣味、座右の銘 等がございましたらお聞かせ下さい。
学生時代はボート部に籍をおき、合宿所から 授業にでるような学生生活で運動は嫌いではあ りませんがここ数年は運動から遠ざかっていま す、また歩くことから始めるつもりです。
「
湯湯
この度は、インタビューへご回答いただき、 誠に有難うございました。
インタビューアー：広報委員 玉井修