みやぎ内科循環器科ファミリークリニック 院長 宮城 淳
平成21 年7 月、医師となって20 年目の節目 の年に浦添市に「みやぎ内科循環器科ファミリ ークリニック」を開院した。その頃はちょうど 新型インフルエンザの流行とも重なり、その対 策に追われながら、慣れない経営、人事や診療 体制を整えていくのに必死であった。インフル エンザの鎮静化と共に診療所業務にも慣れ、何 人かの職員の入れ替わりはあったが、何とか落 ち着いた状態で一周年を迎える事が出来た。本 稿では開業から1 年までを振り返っての感想を 本音も交えて書いてみたいと思う。少しでも若 手医師の進路や日常診療の一助になれば幸いで ある。
私の場合、開業までに要した期間は着工から 五カ月、準備期間を入れてもわずか十カ月とい う超過密スケジュールであった。開業予定日に は薄氷を踏む思いでなんとか間に合った。勤務 の合間を縫って建物の設計や医療機器の選定な ど打ち合わせをしながら出来上がっていく過程 は充実した時間であったが、もっとゆとりを持 って計画すべきだったと反省している。開業当 時、先輩医師から「開業して1 年目はどうせ外 来は暇だからどうやって暇をつぶすか考えてお いた方がいいよ。」とアドバイスを受けた。最初 は他人事のようでピンと来なかったが、しばら くすると身につまされる思いがした。朝から張 り切って準備をしても院内が開店休業のように 閑散としている時はさすがに落ち込んでしまう が、その先輩の言葉を思い出し何度も救われた 気がする。
私の勤務医時代の経歴で良かったと思えたの は、公立病院退職後、診療所勤務を経て開業し た事だ。10 年間那覇市立病院で循環器内科医と して勤務した後、開業までの5 年間を「こくら 台ハートクリニック」(大城康彦院長)で副院長 として働かせて貰った。そこでは循環器診療の みならず、内視鏡検査や透析診療も経験をする 事が出来た。また、外来では小児から老人まで 色々な科にまたがる多彩な疾患を診る事ができ、 開業医に必要なプライマリケアを学ぶ事が出来 た。大城康彦先生には開業に必要な知識を教え て頂きこの場をお借りして感謝申し上げます。
私のクリニックでは外来診療と並行して在宅 医療をやっている。開設と同時に在宅支援診療 所の申請を行い、今は平日午後の休診日を利用 して訪問診療に出かける。在宅医療は具合の悪 くなった患者に対して行う往診(臨時往診)と は異なり、計画的に月に二回の定期往診(訪問 診療)を行い、さらに患者の急変に対して24 時 間対応するというものである。行政が療養型病 床を減らし在宅を推し進めているため、今後も 在宅医のニーズが高まると予想される。在宅医 療に参入するメリットとしては、地域医療に貢 献できる、安定した収入に繋がる(在宅の診療 報酬は高めに設定されている)などである。し かし、24 時間対応となるとどうしても抵抗があ り尻込みしてしまう。当院が本格的に在宅医療 を開始したのは開業後3 ヶ月経過してからであ るが、その頃から診ているT さんを紹介したい と思う。T さんは高血圧と軽い脳梗塞の既往を 持つ認知症の進行した95 歳の女性である。娘、 孫夫婦と同居し、娘が介護の中心で介護サービ スとして週に5 日のデイサービス、2 ヶ月に1 〜 2 回のショートステイを利用している。最初の 頃、往診に行くと、バイタル測定や診察を拒絶 し、噛んだり唾を吐いたりすることがあった。 しばらくして、自宅で転倒して大腿骨頚部骨折 で入院。保存的治療で何とか退院したのも束の 間、今度は腸閉塞で緊急入院し手術を受けるこ とになった。最初の入院時、病室を訪問した事 があったが、呼びかけにも無表情でリハビリも 拒否、食事もあまり摂らないような状態であり、 在宅での療養は厳しいのではないかと考えた。 しかし、家族や周りの強いサポートのおかげで 二度の困難を乗り越え、再び在宅に戻ってきた。 隔週で、デイサービスから帰った頃に訪問して いるが、家にいると表情も豊かで曾孫が一緒だ と機嫌がよくなるらしく、最近は血圧も素直に 測らせてもらえる事が多くなった。認知症のた め言葉には出せないが、T さんは体全体で自宅 で生活できる喜びを表現しているように思う。 このような体験が在宅医療へのやりがいを感じ させてくれる。浦添市には医師会を中心とした 在宅医療ネットワークがあり、情報交換会や一 人の在宅患者を複数の医師でカバーする(主治 医副主治医制)診診連携の構築が進められてい て、在宅医の負担軽減に繋がる事が期待される。 しかし、在宅医療を実践している診療所が少な く、ネットワークが広がっていくためにも既存、 新規を問わず開業医の先生方に外来診療、往診 の延長として在宅医療にも目を向けてほしいと 思う。研修医の皆さんには積極的に在宅医療を 体験する機会を持ってほしい。そして将来、在 宅医あるいは連携医として在宅医療を支える医 療者が増えていく事を強く願う。
クリニック全景