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古川明 著「切手が語る医学のあゆみ」 医歯薬出版1986

金城忠雄

沖縄県総合保健協会 金城 忠雄

切手収集にさほどの素養はないが、この本は 切手による医学史の話である。膨大な医学に関 する切手を示し、著名な医学者の人物像を中心 に豊富な話題を提供し、楽しみながら医学の歴 史が理解できるようにまとめられている。切手 の話としてではなく、医学史として実に面白 い。世界には、こんなにもたくさん、医学医療 に関する切手が発行されているのかと驚くばか りである。

著者は、外科医、国立大蔵病院副院長、医学 切手友の会、日本医史学会員。切手から医学の 歴史を詳しく解説している非常に興味深い本で ある(写真1)。

(写真1.切手が語る医学のあゆみ)

まえがきに「戦争でおくれをとった日本の医 学界は、進歩したアメリカ医学を吸収しようと 懸命な努力を重ねていた。日比谷のアメリカ文 化センターに各分野の新刊雑誌を供覧してい た。たまたまある日、書棚にMedical history in philately(切手のなかの医学の歴史)を見 つけた。戦災で収集切手の全てを失いあきらめ ていたが収集熱が再び沸き起こった。切手を活 用して医学の歴史を系統立てて記載したのがこ の本である」と。

たまたま、全国公私病院主催で青梅市立病院 星和夫院長の案内「医学のルーツを尋ねてギリ シャの旅」に同行する機会があった。その旅 で、西欧人の文化の基盤が聖書のほか、なかで も医学や医学用語の起源の多くがギリシャに求 められることが理解できた。その旅が病みつき になり、現在も「医学の歴史旅」に可能なかぎ り参加している。

コス市立博物館には、医聖ヒポクラテスの像 の他、医学のシンボル・アスクレピオスの杖や 保健の女神ヒギエイアの像がある。博物館の近 くに「ヒポクラテスの木」と称するプラタナス の老木があり「医学の木」とも言われている。 ヒポクラテスは若い頃、ギリシャ本土での医学 研修、武者修行の後コス島に戻り、この木かげ で弟子たちに医学を講じたと伝えられている。

私が、かねてより何時かは訪ねてみたいと思 っていた現場である。

写真2 はそのプラタナスの木である。前に立 っている人物がちょっとじゃまですが。

その他、産褥熱のセンメルワイス、ライデン 大学の臨床医学教育家ブールハヴェー、ウィー ンの大外科医ビルロート、特にミュンヘンの 「衛生学の父ペッテンコーファー」は地下水汚 染がコレラの原因だと自説を曲げず、コレラ菌 を飲んでしまって死にそうになった逸話など医 学者の苦労話しに興味が尽きない。

一線で診療している頃は、患者のことが気に なり思い悩み眠れぬ夜もあったが、現在はそれ から解放され気分的に余裕がある。そうはいっ ても、医学の歴史を尋ねる旅の計画をしても、 2 週間の休みを確保するのは大変ではある。

「切手が語る医学のあゆみ」は、580 ページ の読み応えの有る面白い本ではあるが、欠点は 字が小さく老眼には読むのに少々苦労すること である。

歴史に残る業績、著名な医学者の苦労とその 足跡を訪ねることができるのは、感動的であ り、切手収集に興味があれば尚のこと、何時読 んでも楽しさと感動を与えてくれる本である。

(写真2.ヒポクラテスの木)