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平成21 年度第4 回マスコミとの懇談会
「小児救急現状と課題、今後の展望」について

玉井修

理事 玉井 修

平成22 年3月17 日(水)、沖縄県医師会館 において、平成21 年度第4 回マスコミとの懇 談会が開催されました。

医師不足による医療崩壊の波が押し寄せ、小 児救急が崩壊しつつあります。救急医療の充実 は沖縄県における医療の誇りでもあり、これま では充実した救急医療が沖縄県の医療における 様々な矛盾を吸収してくれていたと思います。 しかし、疲弊した小児救急の現場から医師が居 なくなってきています。加えて後期研修に思っ たほどの研修医が残らず、新しい人材の補充が 難しい現状となり小児救急は今や風前の灯火、 いやもしかしたらもっと危険な状況に陥ってい るのかも知れません。

崩壊しつつある小児救急を救う手だてを考え るためには、まずこの危機的状況にある小児救 急の現状を知っていただく必要があると考えマ スコミとの懇談会を企画しました。その日はあ いにく基地問題の緊急会議が県庁であったため、 マスコミの参加者が少なかったのが残念です。

今回の懇談会においていくつかの問題点を挙 げることができました。1)まずは県民レベルで 崩壊しつつある小児救急への理解を深め、コンビニ受診を含めた小児救急の不適切な受診を控 えて頂くような啓発を行うこと。2)#8000事 業など、小児救急を救う何らかの手だてを早急 に実行に移すこと。3)医師不足の解消のため、 新臨床研修医へのアプローチを積極的に行い、 後期研修においても沖縄県に若い医師がたくさ ん残ってもらえるような充実した後期臨床研修 制度の整備を行うこと。

特に1)の問題は社会的に疲弊した小児救急へ の理解を深め、適正な救急医療への受診に関して 問題意識を県民全体で持ってもらわなくてはなり ません。マスコミに期待するところは大きく、こ のテーマでいずれまた具体的な議論をする必要性 があるような気がしました。4 月に入ってから、 県立中部病院小児救急体制の縮小が報道されま した。小児救急は今まさに待ったなし、具体的な アクションを真剣に考えなくてはなりません。

当日は、宮城会長より挨拶の後、県立南部医 療センター・こども医療センター母子センター 長我那覇仁先生より、「小児救急:現状と課 題、今後の展望」と題してご講演いただきまし た。以下に、我那覇先生の講演内容の概要並び に質疑応答を報告致します。

懇談内容

マスコミとの懇談会出席者

挨 拶

宮城信雄会長

宮城信雄会長

皆さん、本日はお忙 しい中、当懇談会にご 出席いただきありがと うございます。

本日は、「小児救急」 をテーマに、現在、本 県に起こっている問題点と今後の展望について 皆さんと共に考えてみたいと思います。

今や医師不足は全国的な社会問題となってお り、沖縄県においても、とりわけ産科・小児科 医が不足し、診療科を閉鎖せざるを得ない事態 が発生しています。

そのような状況の中、本県南部地区では那覇 市立病院、県立南部医療センター・こども医療 センターの夜間救急に子どもの患者が集中し問 題となっております。

当初、那覇市立病院に集中していた救急患者 は平成18 年の県立南部医療センター・こども 医療センターの開院によってその負担が軽減さ れることが期待されておりましたが、実際蓋を 開けてみると那覇市立病院の患者数に変化は無 く、県立南部医療センター・こども医療センタ ーの救急患者数が増えただけという現象が起き ております。

少子化が進む現在、こどもの数は減ってきて いるにも関わらず、救急病院を受診するこども は逆に増えているのが現状です。

しかしながら、受診したこどもの多くは、軽 症患者であると言われており、保護者の皆さん がいざという時に落ち着いて判断し、行動でき るよう普段から知識や情報を提供することも重 要であると考えております。本県でも4 月から 子どもの急な病気の対処法を相談できる小児救 急電話相談事業が開始されることになってお り、その効果に期待しております。

我々医療担当者としても積極的な情報提供に 努めなければなりませんが、そのためには、マ スコミ各社のご協力が不可欠でございます。

マスコミの皆様におかれましては、何卒忌憚 の無いご質問、ご意見をいただき、沖縄の未来 を築くこども達の健やかな成長のためにご協力 賜りますようお願いを申し上げ、挨拶に代えさ せていただきます。

懇談事項

小児救急:現状と課題、今後の展望
県立南部医療センター・こども医療センター
母子センター長 我那覇 仁
県立南部医療センター・こども医療センター 我那覇仁

沖縄県は15 歳以下小 児の人口は約2 5 万人 で、全国都道府県別に みると人口全体にしめ るこどもの割合は 17.9 %であり、全国で 最も多い(第2 位:滋賀 県15.2 %、全国平均: 13.5 %)。また一人の女 性が一生に産むこどもの数(合計特殊出生率) は1.78 でこれも全国一位(全国1.37)である。 沖縄県では小児科標榜をしている医療機関は 237 カ所(図1)あり、小児科医師数は約200 人 である。小児科医一人が診る小児の数は1,337 人(全国1,222 人)でほぼ全国並みと言える。

小児救急医療における医療提供体制は依然と して厳しいものがある。本島には小児救急疾患 に対応する主な医療機関は県立北部病院、中部 病院、南部医療センター・こども医療センタ ー、那覇市立病院と他に私立病院があるが、各 病院とも受診患者は増加傾向にある。こども医 療センターの昨年度の総受診者数は約3 万9 千 人で県立病院では最も多くの人が受診してい る。全患者の中で小児のしめる割合は他の医療機関の30 〜 40 %台に対し、こども医療センタ ーは特に高く64 %をしめている。時間別にみ ると、準夜(16 〜 24 時)が最も多く50 %を しめ、ついで昼間(8 〜 16 時)30 %、深夜(0 〜 8 時)20 %で昼間、診療所が開いている時 間や準夜の受診が目立つ。入院や救急治療を必 要とする2 次〜 3 次の救急例の割合は少なく、 入院を必要とした患者は全体の6 %であり、多 くの症例が1 次の軽症である事を 意味している。

図1

図1 沖縄県医師会に加入し『小児科』を標榜している圏域別医療機関数

表1 小児救急医療の諸問題

表1

表2 救急病院ー小児科の現状

表2

小児救急医療の諸問題と現状を 表1、2 に示した。現在小児救急 医療の最も直面している問題は救 急医療を担う、病院勤務医が減少 している事にある。特に中、北部 地区では、数少ない勤務医で当直 をするため医師の負担が大きい。 本島や離島に持続的に勤務医を確 保するためには、県は医療行政と して抜本的な小児救急医療体制の 集約化を考える事も必要となる。 一方、卒後研修に関しては、多くの初期研修医が本県に応募するが、小児科医と して後期研修に残る研修医が低い事も今後改善 すべき課題である。コンビニ受診に関しては救 急室現場での大きな問題であり、医師会やマス コミを通して一般社会の啓発も必要である。ま た一般小児科診療医はかかりつけ医としての役 割や積極的な救急医療に対する関わり(救急室 の準夜帯の応援、診療時間のシフトや延長な ど)も考える事が必要である(表3)。今年から 当県に於いても小児救急医療電話相談事業 (#8000)が発足するが、行政、医師会、社会 と三位一体となって小児救急医療提供体制につ いて継続して検討する事が重要である(表4)

表3 小児科診療医、病院小児科の役割、課題

表3

表4 社会、行政の役割

表4

質疑応答

○司会(玉井) 小児科医会長の具志一男先 生、今の我那覇先生のお話の中で、「♯(シャ ープ)8000」という言葉が出てきました。この 「♯(シャープ)8000」というのは、どういう ことなのか、先生のほうからご説明できますか。

○具志(医師会)

具志(医師会)

全国で、数年前から 始まっている制度で、 電話のボタンの♯ と 8000 を押せば、どうい うふうな形で受診をし たらいいのかとか、こ ういうときにはどんな 対処をしたらいいのかという相談をする電話と いうのが始まっています。いくつかの県から始 まって、今、46 都道府県がスタートしたよう なんですが、沖縄が最後ということになってい ます。ただ各県でやり方がいろいろ違います。 準夜帯8 時ぐらいから12 時ぐらいまでですと か、12 時以降はなしとか、24 時間やっている ところもあまりなかったかと思います。そうい ったのを沖縄県でも数年前に導入するかどうか という議論がありましたが、県立病院を中心と して救急体制、受診体制がそんなに悪くないん だということで、そういう電話相談をしても逆 にちょっと気になるようでしたら受診してくだ さいという話だと受診抑制にならないんじゃな いかという話になり、沖縄県では今は要らない んじゃないかという話をしていました。ほかの 都道府県で導入されたものですから、1 県残っ てしまったので、そういう意味で、沖縄県も動 かざるを得ないのかというのが、ここ数年の経 緯ではあります。

どう受診するかというところなんですけれど も、まず小児科医の数というのはなかなか研修 に来たりとか、いろいろ若い先生がいろんな力 をつけるということで外の病院に研修に行きま す。これは行くなとも言えないし、やっぱり行 って戻ってくるのであれば、それは沖縄県にと ってプラスになることですから、しっかり研修 をしていただきたいというところはあります。 そうしますとその中で患者さんを診るしかない わけですから、例えば熱が出て、1 時間以内に 診療をしないといけないかどうか、翌日まで待 てないか。逆に患者さんの中には朝方から具合 が悪いんだけど、親御さんたちが仕事があるからというので、ちょっと解熱剤を使って保育園 に預けて、午後からまた熱が上がってきて、そ れから夕方から受診なんていうパターンもあり ますので、いつ受診したらいいかとか、そうい ったことの啓発が必要となります。兵庫県では 県立柏原病院の小児科医が減ってきているとい う状況を、お母さん方がそれをどうサポートし ようかということで、「子どもを守る小児科医 を守ろう」という動きが起こりました。そうい ったような運動も必要かなと思います。

それに関して、もう1 つの側面から言います と、逆に日常、なぜ受診できないのか、なかな か仕事が休めないということがあるわけです が、ただお子さんが具合が悪ければ早めに受診 とか、日中に受診とか、そういうことを社会全 体で推し進めるということも必要なんじゃない か。厚生労働省のほうでは、そういうのを促進 する制度というのはあるというんですけれど も、事業所ごと、小さいところが多いですか ら、なかなか活用されてないということです。 育児休業もありますが、そういう制度がありな がら活用されてないという社会全体の意識、な ぜ休むんだみたいな意識を変えていくというの も必要かなと思います。

そもそも病気になりにくい状況をつくるとい うのも必要で、VPD というワクチンで防げる 病気の案内のパンフレットがあります。定期接 種でいろんな予防接種がありますけれども、日 本は実はだいぶ少ないです。アメリカの半分し かありません。だからアメリカでは罹らない病 気に、日本の子どもたちは罹っているというの がありますので、そういったのを報道機関とし ては、あるんですよということを言っていただ きたいと思います。ちょっと自費で高いのもあ ったりするのですが、逆に言うとそういうのを 定期接種に早く導入して、安く子どもたちが病 気に罹らないで済むと、救急の患者さんも減り ますので、子どもたちも苦労しないし、救急の ほうも苦労しないというウィンウィンじゃない ですけど、そういったことも考えていく必要が あるんじゃないかと思います。

○司会(玉井) 那覇市立病院小児科部長の 屋良朝雄先生、コンビニ受診という言葉が出て きたんですが、コンビニ受診というのは何なの か、先生から説明していただきたいんですが。

○屋良(医師会)

屋良(医師会)

難しいんですが、結 局、今の親御さんが小 児救急に対して最も重 要としているのは、い つでも診てくれるとい うことなんです。時間 は関係ないですよね。 夜の社会に非常に慣れてしまっていることもあ って、いつでも診てくれるのが当然であるとい う訳なんです。

市立病院の急病センターでアンケートをとっ たことがありますが、大体3 割ぐらいは重症で はないが夜間に来院してしまった事に対して申 しわけないという意識をもっているんですね。 ただ、どうしても翌日のことを考えたり、仕事 の関係で昼間には行けなかったりということ で、自分の都合のいい時間帯に来てしまうとい うことがあるようです。結局、社会が社会です ので、これをなくすということはかなり困難で あり、ある程度は受け入れないといけないので はないかと思っております。

那覇市立病院の小児救急医療の現状について お話しします。小児科は3 月現在11 名(うち 後期研修医4 名)のスタッフがいます。準夜帯 は琉球大学小児科の先生方の応援があり、時間 帯は19 時半〜 23 時半です。それから、日曜 日・祝日の一部、月に3、4 回ぐらいですが、 今日出席しています城間先生を始め、開業医の 先生方に休日小児救急を応援していただいてい ます。いわゆるチャンプルー的な体制で小児救 急を維持している状態です。

そういうことがあって、引き続き、開業医の 先生方に応援をお願いしたいと思いますが、今 後はさらに育児に専念している女性医師にも参 画していただけないかなと考えています。

小児救急の一番の問題は、小児科医が少ないということなんです。小児科医が少なくなる と、日常診療は非常に大切ですから、最初に削 られ槍玉にあがるのがやっぱり小児救急なんで す。小児救急というのは時間的なパフォーマン スが非常に悪い。患者は減っても、いわゆる時 間の拘束が非常に長いということで、最初に撤 退するのが小児救急の分野だと思います。やっ ぱり一番の問題は小児科医が少ないこと。これ をどうにかしないといけないと思います。

特に県立病院の小児科スタッフ定員枠はかな り制限があるんですよね。どうにかして行政レ ベルで小児科枠を増やしてほしいと思います。

それから、当院の小児救急患者は一時期 28,000 人までふくれあがっていたんですが、南 部医療センター・こども医療センターが一次救 急もやってくれたおかげで、昨年度は18,000 人まで減少しました。今年は23,000 人とまた 増えてはいますが、小児一次救急の分野で非常 に助かっています。一方では、今回の新型イン フルエンザ流行の際に痛感した点ですが、高度 医療を要す、本当に重篤な患者さんがいても、 バックには南部医療センター・こども医療セン ターがあるという、比較的安心した気持ちで診 療にあたることが出来たということです。やは り住み分けというのは大事じゃないかなと思っ ています。もし、南部医療センター・こども医 療センターが、この人数できついのであれば、 一次救急を減らすような方向にもっていって、 その患者をある程度、私たちももちろん限界が ありますが、市立病院、協同病院、赤十字病院 とか豊見城中央病院などの近隣病院が、もう少 しだけ頑張って受け入れることができたら、ど うにかなるのかなと。南部医療センター・こど も医療センターは、むしろ高度医療に専念して もらったほうがいいのではと思いました。

あとは大学小児科の話が出ていませんが、や っぱり大学は多くの院内/出向医師を抱えてい ます。多分、今後とも大学の医師は増えてくる と思うんです。ですので大学からの人材供給と いうのも将来的には期待して良いのではと考え ています。

○司会(玉井) ありがとうございました。

先日の勤務医部会でも小濱先生の発言があり ましたが、現場はどんな状況なんでしょうか。

○小濱(医師会)

小濱(医師会)

大部分、我那覇先生 がお話していただいた ので、大体そのとおり なんですけれども、特 に中部地区の現状を中 心にお話しさせていた だきます。

中部病院のほうは小児科医が5 人で、中頭病 院が6 人、中部徳洲会が3 人という形でやって おりますけれども、これで大体1 次患者が各施 設で30 %ぐらいづつ診ています。2 次、3 次は 中部病院が60 %ぐらい、中頭病院が25 %ぐら い、残りが中部徳洲会病院と、分担して何とか やりくりしています。ですから新型インフルエ ンザのときも、うまい具合に3 つで分担できた ので、大きなパニックにはならずに何とか過ご すことができました。

ですけど、この4 月からこの3 つの病院のス タッフが1 名ずつ減ります。どちらの病院もか なり厳しい状況に追い込まれてしまうというの が今一番大きな問題です。実はもう1 件、ハー トライフ病院もありますけれども、そこも1 人 減る予定ということで、そうするともう中部地 区の小児救急をやっている施設は、軒並みダウ ンということになります。先ほども我那覇先生 からもありましたけど、4 人でまわるというこ とは、おそらくもうだめだろうと考えていま す。応援がなければ、救急閉鎖ということが一 番迫られている問題かなと思っております。い ろいろ考えてやってみたんですけど、どうして も4 人で月に7 回、8 回当直といいますと、現 状でも大体1 年間のうちの1 人当たり20 %当 直してます。私が最年長で年間20 %当直、超 勤も1 カ月に80 時間近くやっています。とい うことは、ほかの部下は私以上の勤務をしてい る状況で、さらに追い討ちをかけるように仕事 を増やすことはこれ以上は不可能だろうと、考えています。これ以上頑張るということは、お そらく中部地区の小児科医が全部倒れてしまう んじゃないかと思っております。本当に今どう したらいいのかと、中部病院の小児科スタッフ で集まって何度か話し合うのですが、なかなか 解決策がないというのが一番の問題です。

そして、この問題はずっとずっと以前から大 きな問題なんですが、県立病院の小児科は6 名 から7 名のスタッフで、もう30 年近く続いて おります。ということは30 年前ぐらいから月 に5 回から6 回の当直、あるいは重症が入れば 残るので、おそらくひどいときには月に10 回 ぐらいの当直をずっとこなしてきたんですね。 そういう問題の改善をずっと県のほうにもお願 いをしてきたつもりなんですけれども、一向に 解決しない。そうしているうちにスタッフもだ んだん年をとってきて、もうかなりきつい。か といってそれを若い人にお願いすると若い人も モチベーションが下がってしまうということ で、もう本当に八方塞がりの状態です。はたし て本当に小児科医というか、医者はみんなそう だと思うんですけれども、公的な施設で24 時 間救急をやっている病院で、医師の適正な当直 というんですか、勤務体制というのはどういう ふうに考えていただけるのかなというのを本当 に切実に思っております。実際、下手をする と、もう本当に何日も家に帰れない。月の半分 近く帰れない場合もあります。そういう事態も 起こったりしていますけれども、一向に改善で きなくて、そういうことをしていれば当然、公 的な施設にいる小児科医は、本当に残らないん じゃないかなと思います。残ってくれともなか なか言えません。若い先生が勉強に行くのはや っぱりチャンスですので、行っていただいて、 いつか帰ってくるだろうと。でも、帰ってくる ときに同じ体制だったら、また一緒に仕事をや ってもらえるか、わかりません。これがうちの 現状と、それから、今県立病院の小児科がおか れている状況じゃないかなと考えています。

北部は今3 名から4 名でやっておりますけれ ども、北部の医療圏はものすごく広いです。北 部地域全体の救急だけではなくて、小児保健、 子育て支援も含めてかなり任されて、北は国頭 の先まで本当に忙しい中を行っていただいてい ます。本当に足りないんです。そういうところ も、本当にへとへとになっていて、いつ潰れる かなと。みんな綱渡りでやっています。

僕がお願いしたいのは、もうこれ以上頑張ら なくていいよ。沖縄県の子どもをしっかり診て いくためにも、小児救急はもう閉めていいよと 言ってほしいんです。おそらく週に3 回ぐらい閉 めていただければ、僕は十分に1 年頑張れると思 います。そういうことをしないと、おそらく年度 途中で中部病院、あるいは北部病院はどうかわ かりませんけど、同じような状況になって1 年も たないんじゃないかと僕は思っております。

○司会(玉井) かなり厳しい状況をお話し いただきましたが、マスコミの皆さんいかがで しょうか。何か聞いておきたいこととかありま したら。

○島袋(琉球放送)

島袋(琉球放送)

いろいろ聞きたいこと はあるんですけれども、 まず1 点は、♯ 8000 は 始まるんですか。これは 県に聞けばわかるんだと は思うんですが。

○我那覇(医師会) 新年度で予算化されて います。開始時期については現在検討しています。

○島袋(琉球放送) あと、先ほどからコン ビニ受診をやめるようにという、そういう教育 とか普及とか啓発が必要だというお話が出てい て、確かに私たちもそういうことを伝えなけれ ばいけないと思うんですが、本当に小さいお子 さんをもっているお父さん・お母さんからする と、そうは言われても何か子どもがおかしいと なったときに、やっぱり不安だから連れて行き たいと思うだろうし、おじいちゃんもおばあち ゃんもやっぱり不安だから、行きなさいと言う 現状があるので、なかなかこれをすぐに減らす ということは難しいと思うんですね。

例えば、センターで我那覇先生たちもやられ ているとは思うんですが、こういう状況だった らこうですよみたいな、お母さんたちや保育園 向けのプログラムのようなものは今やっている んでしょうか。

○我那覇(医師会) 沖縄県で保育所はどの ぐらいあるかご存知ですか。認可、非認可を含 め全部で800 箇所程あります。これまで小児救 急疾患の家庭での対応について地域別に保育所 の保育士に集まってもらい、話をしています。 また夕方に保育所に出かけ、親が子供を迎えに 来る時間にあわせ保護者に話をした事もありま す。日本小児科学会では、どのような場合に救 急室を受診すればよいか、受診の目安について ‘こどもの救急’という小冊子を発行しています が、今後出生届けをする時に、市町村で母子健 康手帳と一緒に配布する事も一つの方法と思い ます。また、保護者、看護士、保育士、消防隊、 看護学生などを対象に‘こども救急フォーラム’ を開催し、急な発熱や下痢などよく遭遇する疾 患について、対応の方法など情報を提供する場 を持つ事も大切と思います。一人の医師や開業 医のみでは充分ではなく、マスコミも含め広く 社会にこどもの救急に関する認識を広げるには どうすれば良いか考える事が大切と思います。

○玉城(医師会)

玉城(医師会)

子どもは産まれる前、 産婦人科を受診してい るのです。それで以前 に私が医師会で、産婦 人科医会と小児科医会 を一緒にして、生まれ る前から小児科の主治 医を決めてもらうか。ないしは母親学級で産ま れた後に、1 歳、2 歳、3 歳では一般的にこのよ うな病気が出てくるだろうというレクチャーを していけばいいのではないかということを相談 したんです。しかし産婦人科医会と小児科医会 の意見を集約することができず、1 回で終わっ てしまったんです。

結局、社会的な動きというのは、みんな集め て一斉にやるのではなくて、これから産まれる 子どもたちや母親をどう教育していくかという ことから、0 歳から始まるということだと思う んです。そういうパンフレットをつくって、小 児科の先生と話し合いをすると、子どもたちが 1 歳、2 歳、3 歳ぐらいまでにかかる病気という のがほとんどわかってきます。しかも産まれて どのぐらいで罹るということもよくわかってい る。そういうことがある程度、お母さんたちに 理解されていくと、コンビニ受診も減るだろう と思います。私が考えていることは、沖縄の子 どもの居場所は3 カ所あると思うのです。母親 と一緒かおばあちゃんと一緒か保育所か。我々 は外科医でしたから、子どもがブランコから落 ちて怪我をすると保育所の先生はすぐ連れてき て、その後でお母さん飛んでくるんです。だけ ど熱が出た子どもは絶対来ない。そこにギャッ プがあるのです。怪我したときには保育所の先 生もすぐ連れてきて、すぐお母さんも呼んで、 治療することがありました。発熱に関しても保 育園のかかりつけの小児科の先生がいれば、す ぐに対応できるんじゃないかと思います。それ と「病児保育」という言葉がありますが、病児 保育ではなくて、子どもが病気をしたら父親な り、母親が休んで病院に連れて行って看病をす るというシステムができることが理想です。中 頭病院でそれをやっていると聞いて、私のクリ ニックでどうしているかと思ったら、看護師さ んは「子どもが熱出したからきょう休みます」、 ほかの人が必ずカバーしている。私たちのクリ ニックでもお母さんを休ませているわけです。 病気の子どもをどこかに預けるのじゃなくて、 母親なり父親が休んで看病するというシステム が、社会的に少しずつでも広がればいいだろう ということです。こういう会議の場合に一番大 切なことは、だれがどこから始めるかというこ とがいつも問題になります。沖縄県でもいろい ろな議論がされるのですが、だれがどこから始 めて、1 年間で到達点はどこまでもっていくか という議論が1 つもない。これができたら素晴 らしい県になると思っています。

○島袋(琉球放送) もう1 つは、何で後期 研修には残ってくれないんでしょうか。

○玉城(医師会) 後期研修の研修制度の問 題もあります。

実は後期研修医はたくさん残っていたんで す。今年度残らないというのを初めて聞いたも のだから、今慌てています。地域医療再生基金 という全県で利用できる50 億円のお金が平成 25 年までに国から来るんですよ。沖縄県は後 期研修医とさらに専門研修のドクターを残すた めに、これから1 年半、2 年間ぐらいかけて琉 球大学に14 億円をかけて、パイロットのシミ ュレーターのような医療用のシミュレーターを 入れてシミュレーションセンターをつくろうと しています。ですからそこで高度な医療もでき るし、救急医療とか、看護師さんや学生さんの 医療に対するトレーニングができるように考え ています。後期研修を沖縄に残そう、さらに専 門研修の医師も増やそうと、システムをつくり つつあります。去年までの話では後期研修医も 130 名のうちの100 名近くは残っていたのが、 今、半分というのは初めて聞きました。そうだ とスピードをあげてシステムを作り上げなけれ ばいけないと、焦りを感じております。

○具志先生(医師会) 子どもが病気になっ たときのパンフレットの話がありましたけど、 実は日本小児科学会のホームページに「こども の救急」というところがありまして、そこには こういう症状は何歳ぐらいで、こういう症状が 出たらどうしたほうがいいですよ、すぐに受診 したほうがいいとか、もう少し様子みていいで すとか、簡単なのはあることはありますので、 そういうのも報道していただくと助かるかなと 思います。

○安田(NHK)

安田(NHK)

先ほどの我那覇先生 のお話の中で、小児総 合診療科が不在という ふうにおっしゃってい ましたが、小児総合診 療科というのはどのよ うな科で、どのような役割をするのか教えてい ただけますか。

○我那覇(医師会) 小児総合診療科の設置 に関しては難しい問題と思います。例えば心臓 の病気であれば循環器科があります。また腎疾 患、血液疾患など臓器別に専門医がいます。し かし発熱の原因がわからないとか、成長障害や 肺炎、喘息、消化器疾患など一般によく遭遇す る病気やこどもを総合的にみる科がありませ ん。現在では細分化し、より専門領域だけを診 る傾向があり、また専門医になってしまうと、 自分の専門領域以外は診たがらないという傾向 があります。どの科にも属さない小児を診る科 がないのが現状です。しかし総合的な立場で患 者さんをみる事は小児科の研修にはとても大切 です。総合診療科は救急室と直結する事が多い のですが、我が国では小児科救急専門医という のが殆どなく、総合診療科を立ち上げ、教育の 場として救急疾患なども診て行く事が今後の課 題と思います。

○當銘(医師会)

當銘(医師会)

総合診療科に関して、 小児科も内科も殆ど一 緒だと思いますが、医 学の進歩にしたがって 細分化の方向に進んで きました。内科、外科 というふうに先ずは大 きく分かれて、次に内科の中では循環器、呼吸 器、消化器とか色々に専門分化して、医学は進 歩・発展して来ました。ところが、その専門分 化が突き進むと、今度は医師が専門分野にだけ 関心が行き、トータルの診療力が弱くなる、或 いは疎かになる傾向が目立つようになって来ま した。その反省から、今、内科の中でも総合診 療科が非常に注目されるようになって来まし た。例えば内科の中にも10 くらいの専門科が あるのですが、本当にそういう専門科の診療を 必要とするも患者は2 割程度で、7 〜 8 割の患 者は総合診療科で対処できると言われていま す。アメリカでは、「ホスピタリスト」といいますが、入院患者を一手に引き受けて診療し、 必要に応じて専門科にコンサルトするというス タイルが一般化しています。そうすると、病院 医療、救急への対応なども総合診療科がしっか りしていると、非常に効率よくできるというこ とで、いま改めて総合診療科が注目を浴びてい るのです。日本の学会でも「総合診療科」、「家 庭医学」、「プライマリケア」をそれぞれ標榜す る3 学会が統合して、総合診療への取り組みの 強化・確立を目指しているところです。専門分 化と統合化、医学の進歩はその両方がバランス よく発展しない限り効率の良い医療が展開でき ないということで、専門分化に走りすぎた日本 の医療を、総合診療科を軸に組み立て直そうと いう考え方が広まりつつあると理解して頂けれ ば良いかと思います。

○玉城(医師会) 開業している小児科の先 生は総合診療科なんです。そういう人が病院に いたらいいわけなんです。

○大城(エフエム沖縄)

大城(エフエム沖縄)

今日はいろんな説明 を聞いて、本当に先生 方の日々の犠牲の上に 小児科医療が成り立っ ているという現状をよ く知ると同時に、本当 にいろいろと根深い問 題だなというふうに改めて考えさせられたんで すが、先ほど屋良先生がおっしゃっていた那覇 市立病院で、例えば琉球大学の先生の応援をお 願いするとか、また、日曜日に那覇市医師会の 開業医の先生にお願いして小児科の診察をして もらっているというお話だったんですけれど も、やはりそれを中部医療圏や北部医療圏のほ うで実施することで、何とか現在勤務している 先生方の負担というのを軽減するということは できないのでしょうかというふうに、純粋に、 単純ではあるんだけど思ったんですが、そのあ たりの連携というのはいかがなんでしょうか。

○小濱(医師会) 一番問題になっているの は、先ほど申し上げましたけど、夜中なんで す。当直ということが一番大変なんですね。肉 体的にも精神的に一番辛いのは病院にずっと泊 まって診ていかなければいけない。いつ起こさ れるかわからないということをやっていくこと なんです。

近くの先生たちの準夜帯の応援、確かにとて もうれしいです。できたら負担の軽減にはなる と思います。でも、実質的に肉体的に一番辛い ところの月に1/3 以上帰れないというふうな状 況は全然変わらないんですね。あと、病院の中 には重症の呼吸状態の悪いお子さんもいますの で、そういう子たちがいる限りそばにいなけれ ばいけないんですね、急変する可能性が高いの で。それをまわりの応援の先生にお願いするわ けにはいかないんです。ですから診ていただけ るところがあれば、それは可能です。

あと、インフルエンザのときも地域の応援と いうこともお願いしまして、実際、(開業の先 生の皆様に)遅くまで診ていただいたりとか、 いろんなことをやっていただきました。先ほど も話しましたけれども、中部徳洲会病院、中頭 病院が本当に一生懸命みてくださって、うまい 具合に分担してくださった。それで中部病院は 何とか切り抜けてこれたんですね。中部病院の マンパワーを増やすことが何よりも一番確実か なと。開業医の先生も本当にかなり頑張ってい らっしゃる。開業医の先生も本当に診療時間を 延長していただけるとうれしいんですけれど も、そこはそこでものすごい負担がかかるとい うのも、伺いました。そういうのを考えると、 結局それは勤務医は大変だということを解決せ ずに、開業医の先生に、この負担を背負っても らうだけになってしまうんですね。もっと根本 的にこの体制を変えようと思うと、開業医の先 生に時間外診療の一部を応援していただきなが ら、公的な24 時間小児救急をやっているとこ ろのスタッフを増やすことを本当に考えていか ないと、早晩小児救急医療は崩壊します。

○司会(玉井) 屋良先生、実際に新型イン フルエンザのときには、市立病院はいろいろな 応援が入りましたが、そのときの状況はどうだったでしょうか。

○屋良(医師会) 6 日ぐらい小児科の開業 医の先生方に来てもらって、時間帯としては日 曜日の12 時〜 20 時まで手伝っていただきまし た。日勤帯で、通常の2 倍、3 倍の多くの患者 が来ましたが、みなさん、さばきが早くて大変 助かりました。

確かに小濱先生も言ってたんですけど、夜間 のことは僕らも頼んでいません。唯一、琉大小 児科に準夜帯を手伝っていただいていますが、 深夜帯はやっぱり僕らスタッフがみています。 そのへんの負担は厳しいかなと思います。これ を開業医の先生にお願いすることはできません。

ただ、病院で、小児科救急をやっていると、 時に孤独なんですよね。これでいいのかなと。 僕らもサブスペシャリティをもっているわけで すが、それをもっていながら多くの軽症の患者 の診療に追われ、時にはクレームを受けたりし て、結構心が揺れたりするんです。

ただ大事なことは、開業医の先生方が来る ことによって、何か共有しているような感じが あって、それだけでも私たちは非常にうれしい んです。実際に応援に来てもらっている城間 先生が、どのようなお考えをお持ちか教えてく ださい。

○城間(南部地区医師会)

城間(南部地区医師会)

休日の診療応援は正 直いって大変です。わ れわれ開業医も平日の 日勤帯をときには昼休 みにずれこんで十二分 に働いています。それ から休日に診療応援に いくわけですが、診療時間の5 時間半をトイレ 2 回くらいがやっとで、いっぱいいっぱい働く わけです。われわれは一月か二月に1 回のペー スですから勢いでこなせますが、勤務医の先生 方は一月に何回もこなされているんですよね。 よく倒れないな、と思っています。小濱先生の 中部病院のお話を聞いていても、ぎりぎりの線 でやってらっしゃるんですよね。ただこの惨状 を社会に訴えて、「コンビニ受診をやめよう」 と呼びかけてもなかなか解かってもらえないと 思います。両親が共働きのところも多く、子ど もを保育園に預けます。保育園もそんな事情が わかっているので子どもが発熱や嘔吐していて も、重症でないかぎり親を呼び出したりしませ ん。結局は診療時間外に駆け込み受診すること になるわけです。

この時間外受診の受け皿の一部を開業医が担 うことができれば、病院の小児救急の負担も軽 減されると思います。我那覇先生の報告にもあ りましたように、開業医はたくさんいます、む しろ余っているくらいです。その開業医の診療 時間は朝9 時から夕方6 時までと、ほぼ横並び です。したがって冬場を除けば受診者数は限ら れ、4 月からの再診料の切下げもあって、これ からの経営は相当厳しくなることが予想されま す。そこで、この診療時間を、たとえば午後3 時から夜10 時にシフト出来れば、時間外受診 の相当数をカバーできると思います。患者も地 域の医院を受診できるので便利です。ただ、午 後6 時以降を時間外救急診療とみなして時間外 手当を請求できなければ、開業医の誰一人とし て手を上げるものはいないと思います。なぜな ら、かかりつけではない時間外受診の患者数は 予想できないし、スタッフには相応の給料を支 払わなければならず、シフトしても経営が成り 立つ保障がないからです。開業医が安心して診 療時間のシフトのできるシステムを期待してい ます。

○司会(玉井) それでは、皆様、お疲れ様 でございました。これにて懇談会を閉じさせて いただきます。