沖縄県医師会 > 沖縄県医師会の活動 > 医師会報 > 1月号

保険のひろば(2)

平安明

理事 平安 明

【はじめに】

前回、保険診療とは「保険者と保険医療機関 との間で交わされた公法上の契約に基づく“契 約診療”」であり、医療機関が医療を患者に提 供した場合、その対価としての診療報酬を請求 するには契約に基づくルールを満たしていなけ ればならない、と述べた。

ここで今一度保険診療の流れについて確認し ておきたい。既に理解されている先生方には釈 迦に説法で申し訳ないが、研修医等にも目を通 してもらっていることを想定して進めさせてい ただく。また、保険指導の種類や法的根拠も含 めて再確認しておきたいと思う。

【保険診療の流れ】

被保険者が病気に罹り医療機関を受診する と、医療機関は診察、検査、処置、投薬などの 治療を行う。治療を受けた患者(被保険者)は 加入している保険によって定められている割合 で医療機関が請求する医療費の一部を一部負担 金として医療機関に支払う。医療機関は一部負 担金分を除いた医療費を審査支払機関に請求 し、そこでレセプトの審査を経て保険者に請求 が行われる。

下図のように4 者がルールを遵守して保険診 療が成り立っているのであるが、医療機関が保 険診療として診療報酬を請求するには、当り前 のことだが、まずは保険医療機関として届け出 ていなければならない。

病院、診療所を開業する際は、医療法等の基 準を満たしているかを保健所が確認し開設許可 をもらうが、保険診療を行うに当たっては、厚 生局(当県の場合は九州厚生局沖縄事務所)に 届出申請を行い受理された後、はじめて診療報 酬の請求が可能となる。

例えば、美容形成や代替医療等を専門で行う 医療機関で保険診療を行わず全て自費(保険 外)診療であれば、厚生局へ届出る必要はな い。もちろん、保険外診療と別に保 険診療も行う医療機関では、保険医 療機関としての届出が必要となり請 求のルールを満たしていれば当然診 療報酬の請求が可能である。

【指導の根拠】

以上のように保険医療機関あるい は保険医として保険診療を行う上で は、健康保険法等(他に船員保険 法、国民健康保険法、高齢者の医 療の確保に関する法律)に定められ たルールを遵守する必要がある。

健康保険法においては、第73 条、 78 条に医療機関が指導を受ける根拠があり、これらを受けて厚労省保険局長通知 の「指導大綱」「監査要綱」で具体的な指導・ 監査の実施内容が定められている。また、第70 条、72 条に基づいていわゆる「療養担当規則」 が定められており、保険診療を行う上でのルー ルが示されている。請求に関しては、第76 条 第2 項に基づき診療報酬点数表が告示されてお り、これに則って請求することが義務付けられ ている。繰り返しになるが、保険診療は“契約 診療”であり、そのルールは上述のような根拠 に基づいていることをまずは認識してほしい。

但し、どんな領域でも言えることだが、規則 にはグレーゾーンがあり、解釈の違いが生じる 可能性がある。我々医療関係者は当然のごとく 患者のために日々診療を行っており、悪意を持 って診療報酬の請求をすることはないのだが、 青本の解釈の違いから算定要件や請求方法等に 誤りが生じることはあり得る。個別指導等の場 ではそのような場合も含めて“不当請求”と括 ってしまうため納得いかないことも多い。しか し最終的にはきちんとした診療が根拠にあるこ とが担保できれば、後に尾を引くようなペナル ティーとはならないはずである。

【指導の種類】

1. 集団指導

新規開業、指定更新、診療報酬改定時などに 一定の場所で講習会形式にて行われる。

新規に指定された医療機関の全てが対象。指 定後、概ね1 年以内に行う。

2. 集団的個別指導

診療所を11、病院を4 タイプに類型区分し、 区分ごとに1 件当たりのレセプト平均点数が各 都道府県平均(沖縄なら沖縄県における平均) と比較し、診療所で1.2 倍、病院で1.1 倍を超 える医療機関のうち上位8 %が対象とされてい る。集団的個別指導後2 年は選定対象から外さ れるが、高得点が続くと“個別指導”の対象と される。

講義形式で行う集団部分と、個別面談の個別 部分があるが、九州は全県とも集団部分のみで 一見すると集団指導と大差ないように見える。 しかし、高点数が続くと“個別指導”にステッ プアップになる点で集団指導とは決定的に異な るものである。また、指導当日に無断欠席など も個別指導の選定理由となるので注意が必要で ある。講義内容は個別指導でも指摘される事項 なので、資料等は保管し保険診療の一助とした ほうがよい。

3. 個別指導

1)新規個別指導

指定を受けて6 か月を超えた医療機関の全 てを対象とする。

個別面談方式で、1 医療機関につき60 〜 90 分をかけ、九州厚生局沖縄事務所が指定 した患者10 名程の診療録とレセプトを突合 審査する。

沖縄県の場合、自主返還が命じられること がある。但し、一般個別指導と異なり、返還 金が生じるのは、持参した患者のレセプト分 に限られている。

2)一般個別指導

選定対象となるのは、以下のケースである。

1)支払基金、国保連合会、保険者等からの情 報提供。

2)過去の個別指導で「経過観察」となってい たが改善が認められない。

3)過去の個別指導で「再指導」となっていた 場合。

4)集団的個別指導を受けた医療機関のうち、 翌年の実績においてもなお高点数医療機関 に該当(この場合、上位4 %とされてい る)。

5)正当な理由なく集団的個別指導を拒否した 場合。

6)医療監視の結果、問題があった医療機関。

7)会計検査院の実地調査の結果、指導の必要 が生じた場合。

8)検察、警察の情報。

9)他の保険医療機関の個別指導または監査に 関連して指導の必要が生じた場合。

10)その他必要と認められるとき。

対象医療機関は、前年度の3 月頃に厚生局で 選定作業が行われるとのことだが、様々な情報 に基づき指導が組まれることもあり、詳細は不 明である。当該医療機関や医師会には指導日の 3 週間前にはじめて知らされる。

当日持参するカルテは新規個別指導と違い 30 名分程に上り、しかもその対象者は前日に しか知らされない。

一般個別指導で診療報酬の返還を命じられた 場合、持参した患者分に止まらず、同様のケー スがないかを過去1 年間に当該医療機関を受診 した全患者において自主点検し、保険者への返 還および患者自己負担分の返還が命じられるた め、医療機関にとっては程度の差はあれ物理 的・心理的にかなりのダメージを受ける。

指導側は「レセプト請求の根拠は診療録」と 最終的に言ってくる。カルテに書いてないこと は保険診療として行ったとは見なされないた め、記載がないものを口頭でいかに説明しても 虚しいだけである。日頃からカルテ記載と請求 が一致しているか確認しておく必要があろう。

3)共同指導・特定共同指導

都道府県と厚労省が共同で行うもの。前者 は都道府県個別指導でも改善されない場合や 集団的個別指導後も特に高点数である場合な どが対象。後者は、臨床研修病院、大学病 院、特定機能病院、複数の都道府県にまたが る同一開設者の医療機関等の比較的大規模な 病院が対象である。

【おわりに】

今回は、保険診療の中で特に医療費支払いの 流れと保険指導について再確認した。限られた 保険財源の中から医療費が支払われるため、各 保険者ともそのチェックは年々厳しくなってい る。そういった医療保険財政の厳しさが後押し するかのごとく、保険診療に対する指導も厳し くなりつつある印象を受けている。医療機関の 個別指導・監査は平成20 年9 月までは各県社 会保険事務局が担当していたが、周知の通り昨 年10 月からは厚生(支)局各県事務所が担当 することになった。これを機に厚労省は各厚生 局に対し、医療機関に対する指導を強化するよ うにとの通知を出したとも聞いている。

我々医療機関側としては、一部の不正行為を 働く医療機関があるからといって指導で過重な 負担を掛けられるのは不愉快であり納得できな いが、指導側の言い分によると、第三者の情報 提供等がない限り不正な請求を行っている医療 機関を選別するのは困難で、客観的な指標とし て、平均的な診療報酬に比べて高額となってい る医療機関の中から対象医療機関を選別してい るということらしい。そういうことからしても、 保険指導の実体が医療費抑制を目的としている ことは明らかではないだろうか。

とは言っても、保険診療の流れは医療機関 (特に診療の最終責任者である医師)としては 把握しておく必要があり、実際に臨床の場で行 っている医療がどのような流れで保険請求され ているのかを日頃から確認しておくとよいでし ょう。