理事 玉井 修
平成20 年11 月20 日(木曜日)午後7 時より 那覇市医師会館4 階ホールにてマスコミとの懇 談会が開催されました。今回は慢性腎臓病(以 下CKD と略す)と人工透析について取り上げ ました。CKD に関しては、人工透析患者が全 国で6 番目に多いという沖縄県の現状を考えれ ば、医療経済的損失、また個人のADL を低下 させるという社会的損失も大きく社会全体の問 題となっています。週に3 回4 時間以上かけて 行う人工透析治療がその個人に与える生活の損 失は図り知れません。慢性腎臓病に関しては今 回県立南部医療センター・こども医療センター の和氣亨先生に詳しくご説明頂きました。マス コミの関心も高く、多くのご質問が寄せられま した。eGFR の評価が非常に重要であるという 和氣先生のご説明に、マスコミ側からはeGFR という評価方法をほとんど今まで聞いたことが 無いというご指摘がありました。この辺は私た ち医療側にも説明責任があるのかも知れないと 思いました。CKD とeGFR による評価をもっ と積極的に啓発をすべきと思われます。また今 回は、特定検診がこの4 月から開始され、その 検査項目にeGFR が評価できるように健診項目 として血清クレアチニンが沖縄県では特別に採 用されている事を沖縄県国民健康保険団体連合 会事業課長補佐の新里成美様より発表頂きまし た。特定健診に関してはこれまでも多くの機会 を利用して啓発に努めて参りましたが、マスコ ミ側からは特定健診に関しての現場取材がなか なか取りにくいとのお話がありました。今回の 特定健診の運用における立ち上がりの悪さは、 これを取材し啓発しようとするマスコミにとっ ても悪影響を与えていた事が判りました。これ までの健診結果からも沖縄県におけるCKD 患 者は増加の一途をたどり、人工透析の導入率も 高率で推移するであろうとの予測が出ています。特定健診により早期にCKD を発見し、早期に 介入して腎機能の低下をくい止めることがとて も大切です。今後はこれまで健診を受診したこ とのない人たちに如何に意識を高めて頂き、健診を受けてもらうかをもっと真剣に議論しなく てはいけません。各マスコミと協力して、県民 に対する慢性腎臓病の啓発活動を積極的に展開 していきたいものです。
開 会
○司会(玉井) 今晩はお忙しい中、参加し ていただきまして誠にありがとうございます。
きょうの朝刊などを見ておりますと、麻生首 相が「医者は社会的常識の欠落した方が多い」 とおっしゃって非常に淋しい思いがいたします けれども、そういうのを聞くにつれ、医者と患 者の溝を深める言葉がいかに信頼関係を損なっ て、医者と患者の溝を深めているということを ぜひイメージしてほしいと私はいつも思ってお ります。
沖縄県医師会は常にいろんな機会をとらえ て、意思疎通を図る努力を今後も続けていく必 要があると思っています。
きょうはCKD と人工透析ということで、県 立南部医療センター・こども医療センター、腎 リウマチ科部長の和氣亨先生。そして国民健康 保険団体連合会事業課長補佐の新里成美様に、 そのへんのお話を伺っていきたいと思います。
まずは開会の挨拶、当会副会長で沖縄県の医 療関係の政策参与でいらっしゃいます玉城信光 先生、よろしくお願いします。
挨 拶
○沖縄県医師会副会長 玉城信光
皆さん、こんばんは。 マスコミとの懇談会、 毎年させていただいて おります。今回は平成 20 年度の3 回目になり ます。
今回は「慢性腎臓病」ということで、沖縄県は透析の患者さんが多い ということは皆さんも耳にはさんでいるところ です。それがどうしても医療の経済を悪化させ る原因にもなります。
例えば沖縄県医師会は、医師会の会員で医師 国保という国民健康保険組合をつくっているん ですけど、腎臓病の患者さんがいるとその国保 の財源がどんどんなくなっていくんですね。慢 性の重症な疾患があると破綻の危機になるとい うことがありまして、やはり病気は早めに見つ けて早めに治療をする。そうすると医療は経済 的にもお金がかからないということで、きょう は先ほどご紹介がありました和氣先生と新里課 長補佐に「慢性腎臓病」についてをお話いただ きたいと思います。
マスコミとの懇談会は、玉井先生がおっしゃ いましたように、例えば私も診療はしているん ですけど、自分の目の前の患者さんからは信頼 されているつもりだけど、医師会という名前が 出たとたん、なぜ社会は我々を信用してくれな いかという、いつも非常に矛盾があります。日 本医師会も自分たちの利益誘導、沖縄県医師会 も自分たちの利益誘導のために仕事をしている つもりではないんです。今後ともそういうこと を訴えながら、医療というのはどうあるべき か、医師会はそれにどうして対処していってい るのか、それが正しいのか、間違っているのか ということで、常にマスコミの皆さんとも懇談 をしたいし、医師会は県民の皆さんとも懇談を したいと思っています。今回は「慢性腎臓病」 ですが、急遽12 月の18 日木曜日に、今、新聞 紙上を相当賑わせております「県立病院のあり 方について」医師会とマスコミの皆さんと討論 会をしたいと思います。
これはいろんな話題が出ておりますが、県民 にとって県立病院はどうあるべきかということ を本当に真剣に考えるべきですし、一昨日、会 議があったときに、今まで培ってきた議論が覆 されるような発言があったので、県立病院の皆 さんとも議論したいと思うのと、県議会の議員 の先生方とも予算・決算を見ているわりには責 任は何ももっていないんじゃないかと思って、 医師会はそのへんも議論の対象にしようかと思 って、来年に向けていろんなことを計画してお ります。
まず12 月18 日木曜日は、マスコミの皆様と 新しい医師会館で意見交換を行いたいと思って おりますので、各社からお1 人ではなくて複数 が出てきて、本当に県立病院というのはどうあ るべきかということも議論していきたいと思い ます。
きょうは慢性腎不全、沖縄に病気の人が多く なるのは、決していいことではありませんの で、そのへんも含めて和氣先生からいろいろお 話を伺って、身近にある人たちが糖尿病を放っ ておいて腎臓の病気になっていくというのがあ りますので、それを予防することがひいては長 寿沖縄県の将来、今まで長寿日本一だったのが 落ちはじめていて、また、少し復活しましたけ れども、それがダイナミックに前進するための 1 つの議論になると思います。ぜひとも活発な 質疑をしていただきたいと思います。よろしく お願いいたします。
○司会(玉井) ありがとうございました。
早速ですが、まず和氣亨先生からプレゼンテ ーションをお願いします。
懇談事項 「慢性腎臓病」
南部医療センター・ こども医療センターで 腎・リウマチ科を担当 しております和氣と申 します。
これから慢性腎臓病 についてお話をさせて いただきます。本日は首里城下町クリニックの 田名先生や大先輩であるとうま内科の當間先生 もいらっしゃる前で、腎臓病のことをお話しす るのは身に余るんですが、せっかくいただいた機会ですのでしばらくお付き合いください。
スライド1
【腎臓の働き】腎臓というと、単に尿をつくる 臓器と考えられがちで、確かに体の中に溜まっ た老廃物を尿として排泄する、これは腎臓の大 事な働きです。しかしそのほかにも腎臓では赤 血球産生を刺激ホルモンをつくりますし、ビタ ミンD を活性化して骨を丈夫にするといった働 きもしています。さらに血圧を調節する、これ も腎臓の重要な働きなんですね。
スライド2
【腎不全とは】その腎臓が働きを失い、あれが できないこれもできない…というふうになって いくのが「腎不全」という病気です。腎臓が本 来の働きを失った状態とお考えください。そう なるとまず体内に老廃物がたまってきますの で、血液中に溢れてきた老廃物のために中毒状 態つまり尿毒症になる。病気は腎臓に起こって いるんですが症状は全身に現れるのが腎不全。 腎不全の症状は、例えばイラストに示すように 疲労感や筋痙攣、息切れや食欲不振に貧血、高 血圧、心不全etc …とさまざまですが、その原 因は腎臓の働きが失われたというひとつのこと なんですね。
スライド3
【腎不全の治療】腎不全の治療となると、いっ たん失われた機能を元に戻すのは難しいことな ので、腎臓の代わりをする機械を使うことにな ります。これが「人工透析」という治療です。 老廃物、いいかえると尿毒素が血液中に溜まっ てくるわけですから、これを腎臓の代わりに機 械で抜いてやる、これが「透析」です。血管の 2 カ所に針を刺し、1 カ所からポンプで1 分間に 200cc ずつ血液を吸い取って、ダイアライザー (血液を洗う機械)を通します。ここで血液を 洗濯するようなものです。老廃物を洗い出した きれいな血液がここの下から出てきて、また体 に戻っていく。1 分間200cc の速さでだいたい 4 時間ぐらいで体全体の血液をきれいにするこ とができる。こういった治療が血液透析なわけ です。実際に透析をしている様子がこちらで、 写真ではわかりにくいですが血管の2 カ所に針 が刺さっています。この部分がダイアライザー で、ここできれいになった血液がもう一方のこ っちから体に返っていく。1 回の治療が4 時間 です。でも1 回やって終わりではないんです。 いったんきれいになってもまた老廃物は溜まっ てきます。ですから定期的に透析を続けていか なければいけない。ということで患者さんは 月・水・金とか、火・木・土とか、ほぼ1 日越 しに週3 回通ってきては1 回4 時間の透析を生 涯受け続けなければいけません。
そういう透析を受けている方が、私たちの病 院ではこちら側に10 ベッド、この壁の向こう 側に10 ベッドあって、同時に20 人の方が透析 を受けています。午前中の20 人の透析が終わ ったら、午後からまた別の患者さんが20 人来 て、1 日に最大40 人が透析を受けられます。 月・水・金で40 人、火・木・土に別の40 人で すから、最大80 人までは我々の病院で透析で きます。城下町クリニック、あるいは當間先生 のところではもっとたくさんの患者さんをみて おられます。実は沖縄には透析の患者さんがた くさんいるんです。
スライド4
【CKD とはなにか】それでは今日のテーマです けれども、CKD についてお話しをさせていた だきます。この「慢性腎臓病」という言葉その ものは簡単ですよね。もともとあった「慢性」 という言葉と「腎臓病」という言葉の組み合わ せです。ところがこの慢性腎臓病という考えか たは新しく、今から6 年前にアメリカのNKF (National Kidney Foundation)というところ が最初に提唱したものです。
これまで腎臓病は糖尿病性腎症とか、高血圧 性腎症とか腎硬化症とかのように病気の原因ご とに分類したり、あるいは急性腎炎、慢性腎炎 のように進行速度で分類したり、あるいは顕微 鏡でみた形態で分類したりと、いろんな分類が されてきて非常にわかりにくかったんです。だ けど考えてみれば、これを全部ひとまとめにし て慢性腎臓病とくくってしまうと、とても理解 がしやすくなるし、実際のところ治療法もそん なに変わらないので、ひとくくりにしましょう よという提案が2002 年にNKF からなされて、 それを受けて日本でも2004 年に日本腎臓学会 で英語の「chronic kidney disease(CKD)」 を日本語で「慢性腎臓病」と呼ぶことに決めま した。だから、気取って慢性腎疾患と言っても いいんだけども、正しい日本語では「慢性腎臓 病」ということになります。原因も問わない し、重症度も軽いものから重いものまで様々 で、全部ひっくるめて、慢性で経過すれば慢性 腎臓病です。それでは大雑把過ぎるというの で、一応具体的なきまりがこちらです。
スライド5
スライド6
【CKD の診断】
GFR については後で説明しますが、もともと 腎臓というのは1 分間に100cc の血液をきれい にする能力があるんです。これがほぼ正常な値 として、処理能力が落ちて60cc 未満しかきれいにできないよというのが2 番の項目です。1 または2 のどちらか一方または両方が3 カ月以 上続く場合にCKD と診断します。軽いのも重 いものまで全部含めてこの条件さえ満たせば CKD です。
さてさきほどのG F R ですが、正確には Glomerular Filtration Rate という小難しい 用語で、要は正常な腎臓は1 分間に100cc を血 液をきれいにしますので100 点と考えて、100 点満点中のあなたは何点ぐらいの腎機能があり ますよという、そういう評価の仕方です。実際 にGFR を測るのは大変なので、簡単な換算式 がつくられました。採血をしてその人の血液中 のクレアチニン値を測ります。あとはその人の 年齢さえわかれば、この計算式にあてはめて GFR は計算で求めることができるようになり ました。こちらが今年5 月に公開された日本人 向けの計算式です。
しかし実際のところこれは暗算でできるよう な計算式ではないので、我々も換算表や専用の 電卓を使います。それで例えば50 歳の私のク レアチニン値が1.0mg/dl の場合、先ほどの計 算式にあてはめるとGFR60 ちょっととなりま す。女の人だとこれに0.739 を掛けるので50 ぐらいになりますか、CKD の診断基準の2 に 当てはまっちゃいますね。こんなふうに腎機能 の良し悪しはGFR の値によって評価するわけ です。
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【CKD のステージ】CKD の診断がついたら、 今度はGFR の値によって90 以上ならステージ 1、90 〜 60 まではステージ2、60 〜 30 までを ステージ3、30 〜 15 までがステージ4、15 以 下がステージ5 というふうに重症度を分類し、 治療はこのステージに応じて行われます。ステ ージ5 が一番重症で、腎臓の働きが健常者の 15 %しか残っていないという意味です。図で 気づいていただきたいのは、自覚症状が出てく るのはステージ3 つまり中等度以上に腎臓が悪 くなってからで、ステージ1 やステージ2 の CKD というのは、たまたま検査を受けたらた んぱく尿が出たとかでみつかるもので、自覚症 状はまずありません。つまりステージ1 やステ ージ2 のCKD は検査しないと見つからないわ けです。しかもステージ3 でも症状はせいぜい、 夜中の尿回数が増える、血圧が高くなる、貧血 気味になるなど漠然としたものでCKD に特徴 的なものではありませんから、自覚症状がない からと検診も受けずにいると、かなり進行する まで見逃されることになります。いっぽうでス テージ5 となると、これはもう人工透析を準備 をしなければいけません。そこで4 月にはじま った特定検診ではCKD の早期発見にも重点が 置かれているわけです。
スライド8
【CKD の原因】CKD の原因はさまざまですが、 その代表的なものがこれ(スライド8)です。 高血圧、糖尿病、それから脂質異常症これはち ょっと前まで高脂血症と呼ばれましたが今は 「脂質異常症」というふうに名前が変わってい ます。それにメタボリックシンドロームも含め た肥満もCKD の原因で、こうしてみてくると生活習慣病と呼ばれるものはすべてCKD の原 因でもあるわけです。CKD の原因のひとつで ある慢性腎炎(慢性糸球体腎炎)はかつては透 析患者の原因ナンバーワンでしたが、今はだん だん少なくなっています。それから加齢も CKD の原因です。歳を取れば腎臓は悪くなる、 これは当たり前という面もありますがCKD と いう考え方では腎機能低下の原因を問いません ので、高齢化社会になるほどCKD 患者も増え るというわけです。
スライド9
【CKD がなぜ問題か】さてCKD はなぜこうも 問題になるのかということを考えてみましょ う。腎臓病で腎臓が悪くなって人工透析になる というのはわかりやすいストーリーですが、最 近わかってきたことによると、腎臓病は実は心 臓病や脳卒中のリスクファクター(危険因子) であるということです。スライドは福岡県の久 山町というところで住民を対象に調査を続けら れた結果ですが、CKD の人はそうでない人の 3 倍多く心臓病や脳卒中を起こしています。つ まりたんぱく尿が出るとかGFR が低いと、将 来人工透析になる可能性が高いばかりでなく、 その前に心臓を悪くして心臓病で亡くなった り、あるいは脳卒中で倒れたりという可能性が 普通の人よりも3 倍高いということで、CKD を早い時期にみつけて対策することの重要性が 強調されるようになってきました。高血圧や糖 尿病でCKD が起こります。そしてCKD がだ んだん進行して人工透析になります。でもそう いうコースをたどって人工透析になるのは、ある意味選ばれた人たちで、いわばエリートなの かもしれません。むしろ透析になる前にCKD から心臓病や脳卒中になって倒れる人のほうが 実はうんといっぱいいるというわけです。
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もちろんCKD から最終的に透析が必要にな る人も大勢いるわけで、透析患者が年々増加し ている点も大きな問題です。大勢というのがど のぐらいかというと、日本では2007 年末の透 析患者数は27 万人を超えていて、国民の500 人に一人が透析患者です。
ということでCKD に対する対策を急がなけ ればいけないと、最近あちこちで取り上げられ るようになりました。
CKD は数が多く、国民の約2 割がCKD であ るという推定もあるほどですが、CKD である ことに気づいていない人が多いことも大きな問 題です。軽いうちであればたんぱく尿を陰性化 することもできるし、腎不全の進行を食い止め ることも可能な時代ですが、自覚症状がないばかりに治療のチャンスを逸してしまい、発見時 には既に遅いという人が多くいます。ステージ 4 で病院に来ても治すことはできないし、ステ ージ5 で初めて病院を訪れる方も少なからずい て、その日のうちに透析開始ということもしば しばあります。
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スライド13
ここでCKD のステージ5 の治療である透析に ついて医療費の面からお話しましょう。医療費 がどのぐらいかかるかご存知ですか?スライド 13 は今年3 月までの保険制度で計算したもので、 4 月に診療報酬が少し変わりましたのでちょっと 違いますが、1 回4 〜 5 時間の標準的な人工透析 の場合で計算してみます。維持透析医学管理料、 これが月に1 回23,000 円です。この料金に含ま れるのは定期検査として行われる標準的な血液 検査とかレントゲンとかの料金で、全部コミコミ ですから検査してもしなくても定額の23,000 円 です。それから人工透析は1 回につき約23,000 円です。そのとき使うダイアライザーは1,600 円 から2,600 円まで様々ですが1 回きりの使い捨て で、大雑把に2,000 円と計算しましょう。あわせ て透析1 回が25,000 円。これを月に13 回します から、ざっとこれだけでも1 カ月に35 万円で、 それを12 カ月やりますから年間では400 万円ち ょっとです。これにさらに、内服薬の費用や別料 金の検査費用を含めると大体1 人あたり年間500 万円から600 万円ぐらいでしょうか、透析を続 ける限りこれが続くわけです。そのうちで本人が 自己負担する費用は、年に20 〜 50 万円ぐらい で、その差額の分は保険から支払われているわ けですから、透析患者が多くなると保険の財源 を圧迫します。4 〜 5 年前の古い数字で申しわけ ないんですが日本の透析関連の医療費は1 兆円 だったそうです。その年の国民医療費総額が32 兆円でしたから、例えがいいかどうかはわかりま せんけど、500 人に1 人の病気の治療に総医療費 の32 分の1 をかけていたわけです。いったん人 工透析になってしまうと非常にお金がかかるし、 それも1 年限りで終わりではなくて、生きている 限り続けなければいけない治療ですから、医療経 済の面からもこれからはできるだけ透析になる人 を減らさないといけないわけです。
本当に腎臓病の人はそんなに多いのかと思わ れるかもしれませんが、次のスライドは琉大の 井関先生がまとめられたもので、1983 年から 2003 年まで10 年ごとに沖縄で住民健診を受け た方々の検診結果の表です。
スライド14
GFR が60 未満つまりCKD ステージ3 以上 の人が、どの時代にもほぼ15 %ぐらいいます。たんぱく尿が出る人は4 %前後ぐらいですか。 検診を受けた人でこうですから、大雑把に言っ て県民の2 割弱ぐらいがCKD だと思って間違 いはないと思います。
スライド15
そういうことをとらえて、県医師会では一昨 年2 月に沖縄にはCKD が多いんだということ をテーマにシンポジウムを開きました。当日は 700 人ぐらいの方にお集まりいただいて、琉大 の井関先生、豊見城中央病院の潮平先生、すな がわ内科クリニックの砂川先生と壇上でいろん なディスカッションをしたんですね。その模様 は翌週の新聞にも出まして、こんなふうに(ス ライド15)、シンポジウムの内容を紙面でも大 きく扱っていただきました。それに相前後し て、「なぜ沖縄に腎不全が多いのか」というの を、特集としていろんな記事に書かせていただ きました。こういうことはマスコミの力をお借 りして広報・啓発していかないと、県民に伝わ らないので、これからもマスコミの皆様にはご 協力をいただきたいを思います。
スライド16
【CKD のリスクファクター】話を戻して、どん な人がCKD になりやすいのかお話します。先 ほど高血圧や糖尿病や脂質異常とかいろんな原 因があると言いましたが、CKD のリスクファ クターつまり、これがあるとCKD になりやす いというのは、高血圧、糖尿病、肥満、脂質異 常、加齢、喫煙などです。このうち最初の4 つ で気がつきますか?実はこの4 つは田仲医院の 田仲先生がいつもおっしゃいますようにだんご 4 兄弟。メタボリックシンドロームなんです。 県医師会では2 月のCKD シンポジウムに引き 続き、5 月にはメタボリックシンドロームをテ ーマに次のシンポジウムを開きました。このと きは田仲先生に司会進行をしていただいて、県 民にメタボ対策の必要を広く伝えていただいた わけです。
スライド17
メタボは実はCKD のリスクファクターでもあ ります。メタボがあるというだけで2 倍CKD に なりやすくなります。ですからメタボの多い沖縄 県にCKD が多いのは当然といえば当然なんです。
スライド18
高血圧もCKD を起こします。血圧が高いと 腎臓は悪くなりますし、腎臓が悪くなるとさら に血圧も高くなるという悪循環が引き起こされ ます。この悪循環の結果、動脈硬化が進んで脳 卒中が起き、心臓発作が起き、腎不全が起きま す。先ほどCKD が腎不全だけでなく、心臓病 や脳卒中も起こすとお話しましたが、実はこう いう仕組みです。ですからCKD を早く見つけ て対応する、つまり血圧をちゃんと下げて動脈 硬化の進行を遅らせることは、結局は脳卒中や 心不全、心筋梗塞も予防することにつながって いきます。
スライド19
スライド20
そして真打登場。CKD の原因の代表選手は 糖尿病です。スライドでは毎年の透析患者数を 原因別にグラフ化しています。慢性腎炎のため に人工透析になる人は1998 年を境にだんだん減ってきました。つまり慢性腎炎という病気は ある程度治療できる時代になり、透析にならず に済むようになってきたのです。一方で腎硬化 症というのは少しずつ増えていますが、これは 加齢に伴って動脈硬化が進んで腎臓が悪くなる という性質のものですので、お年寄りが増えて いくと腎硬化症が増えていくのは、ある程度や むを得ない面があります。これに対し、糖尿病 性腎不全患者の数はどうなっているかという と、この図(スライド19)の勢いです。98 年 から慢性腎炎が減ったのに対し、糖尿病は年々 増え続けていて、今や透析患者の原因ナンバー ワンは糖尿病性腎症です。日本では昨年1 年間 で16,000 人が糖尿病性腎症のために透析にな っています。
スライド21
【沖縄の状況】全国調査では沖縄の患者の ことはわかりませんので、沖縄については 琉大の井関先生が調べてくれました。毎年 の住民100 万人あたりの患者数をグラフ化 して比べてみると、日本全体の透析患者の 増え方がこっちで沖縄の増え方はこうで す。だんだん離れていっていますよね。人 口当たりで比べると沖縄の透析患者の増 え方は断然早いんです。
それから、2007 年12 月31 日沖縄の透析 患者は3,889 人でした。北は北海道から南 は沖縄まで県ごとに並べるとこんなかんじです (スライド22)。患者が多いのは東京、神奈川、 大阪、福岡ということになりますが、ここは人 口が多いのだから患者が多くて当たり前です。
スライド22
スライド23
スライド24
それじゃダメだよと、県民人口100 万人当た りで作図し直したのがスライド23 です。デー タがちょっと古くなり2006 年12 月 31 日の時点ですが、それでいくと沖 縄は透析患者が全国で6 番目に多い県 です。
これと同じようなことを名古屋市大 の宇佐美先生がやっていますが、透析 患者が多いワースト3 地域は、九州、 四国、沖縄で、沖縄はやっぱり透析患 者が多いんです。
沖縄の透析患者の特徴を少し調べ てみました。これも2006 年のデータ ですので、ちょっと古いんですが。こ ちらの新規導入患者というのは、 2006 年中に新たに透析を始めた人。 沖縄では450 人でしたが、この数を各 県毎に住民100 万人当たりで比べる と、沖縄は全国で5 番目に新規導入患 者が多かったんですね。一方こちらの 全患者というのは12 月31 日時点で透 析を受けていた全患者。沖縄では 3,600 人の人が透析を受けていたわけ ですが、これも各県の住民100 万人当 たりに換算し直すとこうなって、全国 で6 番目です。つまり沖縄は透析患者 が多く、しかも新しく透析になる患者 が多いということで、今は6 番目です が、次の年には5 番目、その次は4、 3、2、1 番目というふうにどんどんラ ンクを上げていく過程の6 番目です。
沖縄の透析患者のもう1 つの特徴は年齢にあります。新規導入患者の平均年齢をみたとこ ろ、沖縄は64 歳。全国平均は66 歳ですから、 沖縄の透析患者は2 歳ほど若いうちに透析が始 められています。それを反映して全透析患者に ついてみても、全国平均64 歳に対して沖縄の 透析患者さんは62 歳、とやっぱり2 歳ほど平 均年齢が若いというのが沖縄の特徴です。これ がいいことなのか悪いことなのかは後でもう一 度お話しましょう。
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スライド26
【なぜ沖縄に多い?】なぜ沖縄に透析患者が多 いのか。これは僕の推測も含んでいて本当に正 しいかどうかわからないんですが、多分こうい うことだろうと思っているということをお話さ せてください。
原因の1 つは、慢性腎臓病(CKD)の数が まず多いんだろうと思います。CKD の原因に 先ほどあげたように、メタボリックシンドロー ムがありますので、肥満者が全国一多い沖縄県 ですから、当然CKD になる人も多いだろう。 まずCKD の裾野が広いだろうということが考 えられます。
それから、CKD は早期発見すれば実は治療 可能なんですけれども、早期発見ができていな いんじゃないかと思います。私は「隠れCKD」 とか、「隠れメタボ」という名前を付けました が、氷山の水面下の部分が大きいんじゃないか と思います。早期のCKD は検診を受けない限 りまず見つかりませんが、沖縄県の場合は健診 受診率が低いので、気づいていない人が大勢い るのだと思います。
そして、CKD の早期治療ができていないん じゃないかということも懸念します。以前新聞 に出ていましたけれども、健診で「要再検」と か「要医療」とされた人たちが、実際に医療機 関を受診する割合というのは、沖縄が全国で最 低なんだそうです。せっかく健診を受けて異常 を指摘されたのに、その後の二次健診に行かな い。つまりは治療につなげていないという人た ちが全国一多いのが沖縄県です。早期発見して も早期治療につながらないのでは健診そのもの も意味がなくなってしまうわけですね。
それから、メタボとか生活習慣病、高血圧や 糖尿病や脂質異常症などという自覚症状がない 病気に対して、沖縄県民はあまり危機感を持っ ていない、適切に治療していないんじゃないか ということも懸念します。実際に臨床現場で見 ているとステージ4 とか5 とか、ある程度腎臓 が悪くなって症状が出て初めて病院に来て治療 を始めている。残念ながらステージ4 ではもう そこから元の腎機能に戻してあげることは難し いし、ステージ5 ではいくら頑張っても1 〜 2 年後には透析になってしまうんです。さきほど 沖縄の透析導入患者は全国平均より2 歳若いと いいましたが、もっと早い時期から治療を受け ていれば、あと2 年ぐらい透析導入を延ばすこ とは十分できるはずです。
若くして透析が始まるからか、実は沖縄の透 析患者さんの生存率は高いんです。腎臓は確か に悪いけど、それ以外のところでは若いのです から沖縄の透析患者さんの予後は非常によく、 長生きができます。しかし、2 年早く透析を始 めてしかも長く透析を受けることができるとい うことは、医療費の面ではかなり大きな損失で す。透析医療費は一人年間500 〜 600 万円です から、全国の平均年齢なみにあと2 年透析導入 を遅らせられると、1 人につき1,000 万円くら いの医療費がおトクになることになりますね。
5 月に沖縄タイムス紙に漫画で登場させてい ただきましたけれども、健診で早期に見つけさ えすればCKD は治療できます。だけど症状が ないばっかりに放置していて進行して病院に来る人が多いので、そこから元に戻すことは難し いんです。漫画にも描いてもらいましたが、沖 縄は日本一の肥満県で、健診受診率が低い県 で、再健診の受診率は全国ワースト1 の県です。 しかも沖縄の人たちは、「長寿の島に住んでいる から」とか、「おじいもおばあも長生きだったか ら自分も長生きできる」という幻想をもってい ます。その結果、検診を受けなかったり、症状 のない病気を放置していたり、ナンクルナイサ (何とかなるさ)のつもりが、結局は危機的な状 況を招いているんだということです。
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これで私のお話しは終わりますけれども、漫 画で啓発するというお話をもってきて下さった のは、タイムスの平良秀明記者でした。彼自身 も紙面で自分のメタボ闘病記を書いていて、マ スコミの側からメタボ対策や啓発に取り組んで おられます。私自身も沖縄の透析患者を減らす には沖縄の肥満を何とか減らさないといけない と、先ほどご紹介した田仲先生らと一緒にメタ ボリックに対する活動もしてきました。肥満が 生活習慣病の根源だという啓発活動はマスコミ の皆さんのご協力もあって県民の周知度も上が ってきたものと思います。
あとはとにかく県民に健診を受けていただか ないといけない。隠れCKD だったり、隠れメ タボだったりする人がたくさんいますから、そ の人たちを拾い上げて何とか治療につなげない といけません。自覚症状のない病気の治療を受 けさせるとか、それを継続させるというのは結 構難しいことで、そのためにマスコミの皆さん の応援というかバックアップがどうしても必要 です。ちゃんと治療しなければいけないよ、と 医者がいくら言ったって人はまず病院に行きま せん。だけど新聞に書いてあったり、テレビや ラジオでそういうことを繰り返し報道される と、なるほど行かなければいけないかなという 気持ちになってくると思いますから、ことある ごとに生活習慣病を治療することの重要性を伝 えていやだきたい。それから少なくとも地元マ スコミは沖縄のことを「健康の島、長寿の島」 とはもう言わないほうがいいということも提案 させていただきたい。検診受診を促し、早期か ら治療を受けるとトクした気になるような、そ んな報道をお願いします。
スライド29
○司会(玉井) 和氣先生、ありがとうござ いました。とてもわかりやすいお話でした。
続きまして、新里課長補佐からお話をいただ きたいと思います。
「医療保険者の実態」
皆さん、こんばんは。
沖縄県国保連合会で 保健師をしております 新里と申します。きょ うは先生方とマスコミ の皆様の前でこのよう な貴重な時間をいただ きましてありがとうございます。
専門的なことは和氣先生のお話を今聞いてい ただきましたので、私のほうからは「医療保険 者の実態」ということで、説明をさせていただ きます。
今年4 月から特定健診がスタートしました。 まず初めに制度について確認をしたいと思いま す。医療制度改革の中で、今回の特定健診保健 指導の位置づけを再度確認します。
平成37 年度、2025 年には医療給付費56 兆 円の見込み額を48 兆円にと国は考えておりま す。その48 兆円にするために、約2 兆円は生活 習慣病で抑制をする。そのために、平成27 年 度には糖尿病等を25 %減少するという政策目 標を掲げております。その政策目標を実現する ために、国は方策を示しております。メタボリ ック・シンドロームに着目した健診の標準化・ 健診データの電子化になります。これを基に今 年4 月から医療保険者が特定健診・特定保健指 導を義務づけ、実施することになっております。
そして生活習慣病対策、病態の進展と客観的 指標になります。医療保険者が健診と保健指導 の実施主体となることで、レセプトだけではな く健診データも医療保険者のほうに集まってき ます。
予備軍から生活習慣病発症、重症化・合併症 の段階が客観的指標に基づき把握できるように なります。
平成23 年にはレセプトが完全オンライン化 されますので、医療保険者は健診と医療保険、 レセプトの実態が医療保険者ごとに明らかになってくるということで、政策目標としては20 年から24 年度の取り組みを「特定健診の実施 率」を市町村国保でいうと65 %まで、「特定保 健指導の実施率」を45 %、「メタボリック・シ ンドロームの該当者予備群の減少率」を10 % というのが指標になっております。この指標で 後期高齢者の支援金の額が決まってきます。医 療保険者としては、国が示した目標値を達成で きるように4 月から実施をしているところであ ります。
次からは沖縄県の実態を統計データを基に確 認をさせていただきます。統計データは全国の 中でどの位置に沖縄県があるのかということ で、多い順から並び替えをしております。平成 18 年度の都道府県別飲食店数では沖縄県は一 番飲食店数が多い。その中でハンバーガー店、 ビアホール、バー、キャバレーが全国一多く、 日本料理、料亭が最下位というのが沖縄の現状 になります。
次は新しいデータになります。都道府県別栄 養素摂取量、平成13 年〜 17 年までの国民栄養 調査の年齢を調整して並び替えをしておりま す。肥満者の割合。脂肪エネルギー比率、野菜 の摂取量、運動量の歩数のデータです。男性の 野菜摂取量が全国平均よりも高いのがびっくり しました。
次は1 人当たりの老人医療費の年次推移にな ります。平成9 年から19 年、昨年度までのデ ータです。平成12 年度に介護保険が開始され て、いったん沖縄県の老人医療費が下がります が、13 年度以降、順調とはいえませんが右肩 上がりに伸びておりまして、平成19 年度1 人 当たり100 万円を超えております。全国第4 位 という順位になっております。
次は先ほど和氣先生のほうからもデータがあ りましたが、1985 年〜 2006 年の都道府県別慢 性透析患者数の推移では沖縄県は2006 年は全 国第6 位。1985 年から2006 年の伸び率は全国 第3 位というのが沖縄の実態になります。
次は年齢を調整した死亡率、死亡のデータに なって1975 年、30 年前、5 年ごとのデータを整理をしております。先ほど右肩上がりに伸び ていた透析患者数があるんですが、腎不全、2 番の糖尿病腎不全は全国平均より下のほうにあ ります。
先ほど和氣先生のほうから説明もありました が、人工透析で腎不全で亡くなる前に急性心筋 梗塞、糖尿病、脳出血で亡くなっているのが沖 縄県の現状です。65 歳未満の死亡の割合が男 性が1 位、若い人が早く亡くなっている。女性 が5 位というのが沖縄の現状です。医療制度改 革の目標を、今年度は重点事業として慢性腎臓 病(CKD)を柱になるということで課題整理 をしております。
次は2006 年の透析患者の状況を全国、沖縄 県と沖縄県の市町村の状況を整理をしておりま す。全国では2006 年、透析患者数が26 万人、 国民人口当たり500 名に1 人です。医療費総額 に占める透析の医療費は4.1 %、沖縄県全体、 国保も社保も含めると、先ほど2006 年度のデ ータで3,678 名、これは県民人口当たり370 名 に1 人になります。市町村国保の状況ですけれ ども、市町村国保としては、今現在2,650 名 で、国保人口当たり234 名に1 人です。総医療 費にかかる割合が医療費の8 %ということで、 全国の約2 倍というのが沖縄の現状です。
参考までに市町村国保の平成18 年度の総医 療費が1,979 億円、透析の2,650 名の透析の費 用額が159 億円、その割合が8 %という形にな ります。1 カ月の費用額は先ほど和氣先生から もありましたように、ひと月50 万円、1 人当た り50 万円かかるという形になります。
次は、市町村のほうで健診を受けている方 で、どれだけの人が先ほど言われているステー ジ3 の方がいるのかというのを全国平均と比較 をしたところ、全国のデータでe-GFR50 未満 が成人の4.1 %に比べ、沖縄県の市町村の状況 になりますが、50 未満は7 %台、多いところで 8 %、一番少ないところで4.5 %という状況で す。ステージ3 の60 未満は全国では19 %です が、沖縄県の市町村の状況は約2 割というのが 沖縄の状況になります。
少し住民の声を拾っております。これは透析 を受けている方がどういう思いで治療をしてい るのか、それを市町村の保健師さんが1 人1 人 に訪問をして聞き取りをした事例、100 例の中 から抜粋して紹介をしていきます。「自覚症状 がなかったから放置」、「目が見えなくなって病 院へ行ったら糖尿病」、「高血糖を指摘されてい るが放置」、「視力低下と高血糖で気を失って会 社を解雇、その後、病院に受診するが、すぐ透 析」という状況になります。
次に本人の透析を受けての思いを聞いており ますので、抜粋して読み上げたいと思います。
「透析の機械につながれて罰されているよう な気持ち」、「健診のときにちゃんと医療にかか っていたら、こんなに早く透析にならなかった はず」、「水分制限がつらいとき死んだほうがい いと思ったりもする」、「このまま生きていくの か…、親にも迷惑をかけてしまう」、「いつ死ん でしまうかわからないから、家にあるものを少 しずつ片付けている」、「仕事を休んで病院なん か行けないというポリシーだった。目が見え ず、1 人で車も運転もできない。妻ばかり働か せて男としてとても心苦しい」、「自分が犯罪者 にでもなったような気持ち」。
現在、市町村の健診の受診率は今現在、平均 15 %、2 割弱になります。未受診者の中に重症 化している方が潜んでいる状況だとすると、ま ずは健診を受けてもらうことが先決となるとい うことになります。
次に特定健康診査項目ですが、今回、県医師 会の協力のもとに沖縄県は独自に健診の中に血 清クレアチニンを入れております。腎機能の血 清クレアチニンは国での方針では項目としてあ がっておりませんが、今回は医師会の協力のも と、沖縄県は全医療保険者、クレアチニンを入 れることができました。それでe-GFR を計算 することができ、早期介入ができるかと思って おります。
次に実際の市町村の事例になります。今回、 沖縄県独自に血清クレアチニンを入れ込んだこ とでGFR を計算できます。先ほど和氣先生のほうからも説明がありましたが、e-GFR100 が 腎臓の機能が100 %、50 というのが50 %しか ないということになります。e-GFR15 まで下 がらないと症状が出ないという本人からの訴え になります。この方はずっとかかりつけ医でみ ておりましたが、e-GFR15 になって専門医の 治療が開始されました。薬剤療法、薬物療法、 食事療法が開始され、少しグラフが右肩上がり になっているのがわかるかと思います。専門医 の先生に2 年は透析導入を延ばせましたねとい うことから、未受診者対策、住民医療の資料と して資料化をしたものです。仮に2 年透析導入 を遅らせることができたとした場合は、600 万 円× 2 年ですので、1,200 万円の医療費が要ら なくなっているという費用対効果の資料とし て、今、市町村のほうでは活用しております。
次に市町村のほうではどうやって解決してい くか、どこを目指して実践していくかのイメー ジを2 事例提示をしております。これはe-GFR のグラフになりますが、左側の事例は、体重を 落とすことでe-GFR がよくなっている事例に なります。右側は専門医へつながって治療が始 まることでe-GFR がよくなっている事例とな っております。ここを目指してやっていこうと 思っております。透析を1 年間延ばせただけで 500 万円の費用対効果があり、CKD は医療費 に直結する疾患であると思っております。
最後になりましたが、国のほうでは昨年度、 今後の腎疾患対策のあり方について20 年3 月 検討会の報告に書かれておりますが、CKD は 予防可能な疾患になっている。医療現場に適切 な予防、治療を普及することによって腎疾患の 発症、進展予防対策を強化することが喫緊の課 題である。診療をしている先生方、管理栄養 士、保健師、地域保健の関係者の意見を集約を して報告書が出されておりますので、これを基 に市町村のほうでは計画をして、今現在実践を しているところです。
以上、私の「医療保険者の実態」の報告をさ せていただきました。ありがとうございました。
質疑応答
○司会(玉井) 新里さん、どうもありがと うございました。
医療費の金額的なものは非常に大きいと思い ます。それと1 人が人生を失うと言ってはおか しいですけど、週3 回、4 時間かけて透析をし て通うということになれば、その方の人生の損 失は非常に大きい。さらに社会人を1 人失うと いうことで就労できる人を1 人失うという社会 的損失もまた大きいということでございます。 透析の問題は大きいんですけれども、まずはマ スコミの方から何かご質問があったらと思うん ですが。所属とお名前を言ってご質問等をお願 いします。
大城さん。
○大城(エフエム沖縄)
エフエム沖縄放送制 作部の大城です。大変 わかりやすい説明を本 当にありがとうござい ました。
説明の中でちょっと 私の素人考えの疑問で 非常に恐縮ではあるんですが、人工透析の開始 時期を何とか最低2 年延ばすことができたと か、1 年延ばすことができたというお話を何度 か説明の中でいただいたんですが、ある程度症 状が進行して透析をするかしないかという微妙 な判断のラインになった場合は、やはり2 年と か3 年という時期でしか延ばせないのか。ある いはやり方によっては、例えば腎臓の機能が回 復して透析というところまで至らずに済むとい うケースもあるのかということを含めて少しお 伺いしたいんですけれども。
○司会(玉井) 和氣先生、CKD は治療に どれだけ反応するものなんでしょうか。
○和氣(医師会) そうですね。例えばステ ージ5 というGFR が15 以下の、そこまで悪く なった人を元に戻すことは、正直できないと思 います。実際に透析になるのはGFR が一桁の 9 とか8 とかまで下がった頃ですが、15 がだんだん減っていって8 になるまでの悪化速度を、 ゆっくりにしてやることはできるんですが、せ いぜい延ばせても半年ぐらいでしょうかね。だ けどもっと早く治療を始めていれば、GFR が 30 ぐらいのところから始めたら、最終的には 透析になるまでの期間を2 年ぐらい先送りでき ます。早く治療をすることで透析導入の時期を 遅らせることはできます。しかし残念ながらか なり悪くなってしまってからでは、どう頑張っ てみても延ばせる期間はしれているということ です。ある程度はもちろん延ばせます。それが プロの腕のみせどころではあるんだけれども。 でも、できないものはできないです。
ステージ5 からでは透析を回避することはで きなくなります。遅かれ早かれいずれ透析が必 要になってくるということですね。
○大城(エフエム沖縄) ある程度という限 られたものなんですね。
○和氣(医師会) 透析を回避することはで きなくなります。いずれ透析が必要になってく るでしょうね。
○大城(エフエム沖縄) わかりました。あ りがとうございました。
○司会(玉井) そのほか何かございません でしょうか。
佐伯さん。
○佐伯(NHK)
NHK の佐伯です。あ りがとうございました。
2 点ありまして、まず 1 つは非常に俗っぽい質 問なんですが、日本地 図では四国と九州と沖 縄が一番高かったんで すけども、これは共通する要因というのは何か あるんですか。
○和氣(医師会) これは名古屋の宇佐美先 生がまとめられて論文になっていて、このとき は各地区の降圧剤の販売量を同じように地図に しているんですよ。それで見ると、降圧剤の売 上が多い地区は透析患者が少ない。降圧剤の売 上が少ないということは要するに住民が高血圧 の治療をしていないということなわけですね。 つまり高血圧をちゃんと治療しているところは 腎不全にならないし、治療が十分にできていな い地域は透析患者も多いんだよということで、 高血圧の治療にからめてこの論文では結論をま とめております。でも、それだけではないだろ うと思うんですけどね。高血圧の治療は1 つの 要因でしかないです。糖尿病の治療についてみ ても多分同じような傾向は出ると思います。
○佐伯(NHK) このテーマだけに限った ことではないと思うんですけれども、先ほどの お話で、沖縄県は血清クレアチニンが検査項目 に入っているというのを聞きまして、私自身も 1 カ月ぐらい前に健康診断を受けていろいろ見 たんですが、そういうことも全然知らなくてな かなか診断を受けた患者さんにここまで説明は できないじゃないですか。ここまで聞くと初め ていろんな数値が悪化しているのを改めて見な ければいけないなと思うんですけど、その説明 の部分で県内の医療機関とかで何か工夫してい るような事例とか、もしあったら教えていただ けないでしょうか。
○司会(玉井) 特定健診をやったらe- GFR は必ず出てくるんです、計算してですね。 ただ、そのe-GFR が何なのか、これが何を意 味しているのか、ということはちゃんと告知し ていないんです。これは我々の責任もあるんで す。和氣先生、どうですかね。これもっとちゃ んと言わないといけないんじゃないですか。
○和氣(医師会) GFR を本気で説明しよ うと思ったら1 時間ぐらいかかりますね。実際 に問題になるのはGFR が50 未満の人たちで す。60 未満がCKD ステージ3 なんだけれども、 60 未満の人を対象にしてしまうと、さっき言 ったように国民の19 %が引っかかってしまい ますので、これではあまりにも対象が多すぎて 対応できません。そこで50 未満の人たちがと にかく要注意だと。ですからGFR50 未満の人 については、検診結果の通知のときにこれはこ ういう意味ですよというのを知らせてあげる必要があるかもしれません。あなたの腎臓の働き は半分以下ですよという意味ですから。その通 知のときにちょっとひと工夫は必要だとは思い ますけれども。田名先生がこのへんお詳しいと 思います。
○司会(玉井) 田名先生、那覇市医師会で 健診センターを担当されていますよね。那覇市 ではどういう取り組みをしていますか。
○田名(医師会)
今、ご説明がありま したように、e-GFR と いうのは血清のクレア チニンと年齢と性別か ら腎機能を正確にわか る非常に有用な方法と いうことなんですが、 実際にはこのCKD の啓発というのは実は一般 の方だけではなくて、医療関係者にも今一生懸 命やっているところでして、従来は血清クレア チニンという値に私たち医療者もこだわってい たところがあったんですが、e-GFR でみます と、例えばクレアチニンが1 から2 に上がった だけで先ほど和氣先生がおっしゃったように 50 %切ったりするわけで、その数値のわかり やすさがe-GFR の特徴なんですけれども、残 念ながら医療関係者の間でもまだ十分には浸透 してないという現状があります。
それで医師会のほうでは、今、各地区医師会 で糖尿病ですとか、腎臓病の治療の連携を今促 進しておりまして、その中で開業医の先生方を 含め、たくさんの先生方にe-GFR の解釈、意 味をわかりやすく説明して、もう少し、以前は これぐらいだったら自分たちのところでみてい た患者さんを早めに専門科につなげることによ って、先ほどご質問がありましたけれども、尿 たんぱくが陰性になれば腎機能としては、たと えクレアチニンが2 でも将来ずっと透析を受け なくて済む場合もありますので、そういう啓発 を医療関係者でも今やっている段階でして、和 氣先生もおっしゃいましたように、これを一般 の方に説明をしていくにはまだちょっと時間が かかるかなと思うんですが、まずはこういう CKD をきょうのお話を通すなどして、医療関 係者、そして一般の方に広く知らしめていくと いうのがこれから重要になってくるのではない かなと思います。
○司会(玉井) あとe-GFR は50 未満はピ ックアップしまして、その方に「あなたは腎臓 はかなりまずいですよ」という案内を那覇市医 師会ではやるようにしています。ですから、健 診さえ受けていただければ「あなたはまずいで すよ」ということは告知されるんですね。とこ ろが今沖縄県は受診率が17 %ですか。全国は 40 %ぐらい受診しているんです。健診受診率 が全国の半分以下なんです。e-GFR の趣旨徹 底とか、もっともっと知ってほしいというもの ももちろんあります。その前に健診を受けてい る人が半分以下というものが非常に大きな問題 だということです。受けていない人たちはずっ と受けないわけですよね。だから受けていない 人たちをどうやって掘り起こすのかというのが これからの課題なんです。そういう意味でも 我々が「受けなさい、受けなさい」ということ はもちろん大事ですけど、マスコミの皆さんが しきりにそのへんを問題意識を高めていただく ということは非常に重要です。
何かほかに質問がありますか。
○照屋(医師会)
てるや整形外科の照 屋と申します。「CKD」 の話もそうですけれど も、基本は「メタボ」 対策という話になると 思います。そこで、整 形外科医の立場から、 「ロコモ」という言葉をぜひマスコミの方々に 認知して頂きたいと思っています。運動器の障 害により介護のリスクが高まった状態を「ロコ モティブ・シンドローム」といいます。高齢化 により、バランス能力や移動・歩行能力が低下 し、閉じこもりがちになり、転倒するリスクが 高まった状態の「運動器不安定症」も、この「ロコモ」に含まれます。ロコモティブ・オル ガンというのは運動器という意味ですけれど も、「ロコモティブ・シンドローム」、「運動器 不安定症」という新しい概念を、整形外科医は 一生懸命アピールしているのですが、なかなか 全国民的に浸透していないのが現状です。「メ タボ」という言葉は、全国民的に認知されてき ていますが、「ロコモ」と「メタボ」をぜひと もセットにして、運動もしなさい、食事療法も しなさい・・・という流れをつくっていってほ しいと思います。「メタボ」では、肥満をベー スとして、高血圧・糖尿病・高脂血症のそれぞ れが低リスクでも、全体として高リスクになる としています。「ロコモ」で は、骨粗鬆症・ 変形性の関節症・脊椎症性の脊髄・馬尾・神経 根障害の三つ症状が相互に関連して、移動・運 動の障害になるとしたわけです。この3 つを対 比させながら、「メタボ」対策と同様に、「ロコ モ」対策を・・・ということで、整形外科医会 を挙げて講演会や新聞紙上座談会など積極的に 啓蒙活動をしているところです。
ところで、沖縄県の肥満が大きな問題になっ ております。40 歳からの特定健診(通称: 「メタボ」健診)というのをぜひとも25 歳から にして欲しいと、前々回のマスコミの懇談会で も話をさせて頂きました。20 歳ぐらいの卒業 したてのフレッシュマンは、本当に安い食べ放 題・飲み放題の店に行って、どんどん「メタ ボ」になっていくんですね。その若者達に、25 歳からの「メタボ」健診に出向いてもらい、肥 満対策の大変さをわかって頂く必要があると思 います。25 歳の食欲旺盛で運動不足の若者達 は、15 年後、限りなく「メタボ」になっている と思うんですね。ですから、健診も勧める、食 事療法も勧める、運動療法も進める・・・「メ タボ」対策と「ロコモ」対策・・・、そういう 流れをぜひマスコミのほうでも大々的に取り上 げてもらい、県民にアピールして頂きたいと切 に願っております。
○司会(玉井) 沖縄県は世論調査をすると 全国的で一番歩かない県ですね。そして全国で 一番自分は健康だと思っている県なんですよね。 そして、全国で一番外来に行かない県。病院に 行かない県。ということはそこまでこじらせな いと病院に行かないということですよね。この へんが沖縄県の県民性なのかどうなのかわかり ませんけど、阿佐慶さん、何かありませんか。
○阿佐慶(沖縄テレビ)
今年の8 月ぐらいに 沖縄テレビのニュース の中でも「脱メタボ」 というキャッチフレー ズで何本か企画ニュー スをつくったんですけ れども、例えば那覇市 とか浦添市、南城市とか、何箇所か健診の情報 をほしいとアプローチをしてきたんですが、な かなかあがってこないと。それは市ですとか、 自治体と健診の契約をしている病院からデータ がなかなか上がってこないので、情報をあげた くても今あげられない状況なんですというのが 8 月ぐらいだったんですね。あれから2 カ月ぐ らい経っていますので、今の状況はちょっとま だ聞いてないですけれども、なかなかやっぱり 数字としてあがってこない。だからマスコミも できることはやりたいという思いはあってもな かなかうまくいかない部分がありました。
○司会(玉井) 非常にご迷惑をおかけしま したけど、新里さんデータが出なかった理由を ちょっとご説明を。
○新里(沖縄県国保団体連合会) 実は4 月 からの特定健診で今まで紙でも請求ができたん ですけれども、国で電子化という形で標準で全 部統一されたんですね。XML という本当に新 しい形式でデータを請求をしないといけないと いうことで、医師会の先生方もとてもご苦労さ れたと思うんですけれども、それを標準システ ムに入れたときにデータが不具合という形で何 回か返される。それで現場の市町村までデータ が2 カ月も3 カ月も遅れる状況になり、市町村 のほうでは、保健指導が入れず困っている状況 で、マスコミの皆さんから依頼されても、情報が提供できないということになったと思うんで すが、9 月以降は少しずつ順調になっているの が現状です。
○司会(玉井) 特定健診はそのあと特定保 健指導というのがあるわけですね。実際にデー タを基に介入していくという作業があるんです けれども、そこまでうまく結び付けられていな いんですよ。市町村もそれを把握できない。だ から特定保健指導のリストアップができなかっ たんです。
○阿佐慶(沖縄テレビ) 現在も続いてるん ですか。保健指導が遅れているというのは。
○司会(玉井) 現在も特定保健指導が非常 に低調です。特定健診は今までの健診と違って 介入をする。ちゃんと指導をするというのが1 つのうたい文句だった。受けっ放しにしない。 そこまでは今のところまだ結びついていないで す。ただ、リストアップは徐々に市町村ででき ていきますので、今やっと出るような段階にな っています。
○阿佐慶(沖縄テレビ) 実は夏にシリーズ で企画をやったときに、本当は保健指導の場面 も撮影をさせていただく計画ではあったんです が、データがあがってこないので保健指導が進 まないと。これは努力次第でもあるんですけれ ども、テレビとなると「いや、自分は映りたく ない、こんな叱られるような場面を撮影される のはちょっと勘弁してくれ」ということも多い ので、なかなかそれが実は進まない現状だった ので、保健指導が順調に行われるようになった ら教えてください。
○司会(玉井) はい。ぜひこういうのはど んどん私たちを突っついていただいてほしいと 思います。
玉城先生、何か。
○玉城副会長(医師会) 医師会の仕事でも あると思うんですけれども、今、皆さん考えて いるのは健診という項目で考えているけど、人 は調子が悪いと病院に行くんですよ。そのと き、開業医とか、病院のみんなが整形外科でも どこでもいいです、調子悪いときにどの項目を 検査するか。今の特定健診の項目でいいか。僕 も乳がんのフォローアップをするときに、腎臓 の検査、糖尿、コレステロール、中性脂肪等、 みんな検査します。
例えば乳がん健診というのがあります。乳が ん健診の受診率は低いんですが、同じぐらいの 数が実は人間ドックで受けて、また、同じぐら いの数が一般の診療所で症状をもって受けてい る人がいます。総合すると結構、沖縄県の半分 ぐらいは乳がんのマンモグラフィーでチェック を受けている可能性があるんですよね。そして 今、特定健診の受診率が低いんだけど、この人 が風邪をひいたり、お腹の調子が悪いと病院に 行く。その病院でどういう検査をしてチェック をかけるかということが、実は我々開業医とい うか、医師の仕事でもあるんじゃないかと。そ ういうことをすると健診率が低くても、この人 は1 年のうちに何らかの形で病院にかかるチャ ンスがあるんですね。そこに項目を、今、特定 健診の項目なのか、何をターゲットとしてそれ を説明するかどうかというのは、また、反面、 市町村じゃなくて医師会の仕事でもあるかなと 僕はいつも思っていて、1 年間のうちのどこか でその人が引っかかってチェックを受ければい いんじゃないかという気がするので、そのへん の考え方も医師会としてもっていくべきだと思 います。
だから地区医師会が整形の先生だから糖尿病 をみないわけではなくて、みんなそれぞれでみ てはいますよね。眼科とか耳鼻科になると特殊 かもしれないけど、一般的に産婦人科の先生で も何らかの異常があるとチェックして血液検査 をするときにチェックできる項目。そしてそれ に対する説明を地区医師会でやっていくという ことが必要だと思います。そうするとおそらく 沖縄県の半分の人は1 年間どこかで血液検査を 受けている可能性があるんですね。だから今、 特定健診とか縦並びでみるけど、面で見たとき に何かをチェックされるチャンスがある。それ をどう生かしていくかということは大切な気が しますね。
○當間(医師会)
今の玉城先生のお話 は非常に面白いと思う んです。ただ、それは 制度上可能なのかどう かということが1 つ問 題あると思います。風 邪ひいて来たときに片 っ端から全部やっていいのかどうか。それが認 められればいいと思います。1 年に1 回だけそ れをやっていいということにして、その報告書 を我々は書いて特定健診だということで出して しまえばいいわけです。それでその人は1 年に 1 回は終わる。やればやれないことじゃないだ ろうと思う。その代わり我々の側にはそういう 書類がいつもあって、それを書いて出し、本人 に渡せば本人がどこか然るべきところに送れば いいだけですから。
○司会(玉井) 小磯誠さん、何かありませ んか。
○小磯(ラジオ沖縄)
いろいろと自分なり に勉強しているつもり ではいたんですけれど も、怖いということを 本当に改めてわかりや すく教えてくださいま して、大変感謝してい るのと、きょう見ていると何だかメタボは僕だ けで僕のために講演会を和氣先生がやってくだ さったのかなと、そんな気持ちになったのです が、メタボでいろんな基準があるのですが、隠 れ肥満というのもよく言われています。うちの 友人でも結構いるんですが、内臓脂肪が多いで すとか。そのあたりと、それから見た目に僕の ような完全にメタボというか、そういった人 間、そんなに差はないんですか。こういう発症 するというか、それもちょっと簡単に教えてい ただけますか。ちょっと疑問に思った部分もあ るんですけれど。
○和氣(医師会) メタボはもともと内臓脂 肪症候群といわれる病気なので、本当は内臓脂 肪が多いのか、少ないのかを調べなければいけ ないんですね。お腹のCT を撮っておへその位 置での内臓脂肪面積が100c u以上の人は確か に高血圧も多いし、中性脂肪が高い人が多い し、いろんな病気になる人が多いので、これを 測るのが一番いいんですが、現実には検診など で内臓脂肪を測るのは大変だから、それに代わ る簡単な方法としてウエストサイズを取り上げ たんですね。100c uにあたるのがウエストサ イズでいったら何センチなのかというので、た くさんの人を調べてみたらそれが85cm だった ということなので、実際はウエスト80cm の人 でも内臓脂肪が100c u超えている人はいるし、 皮下脂肪が厚くて実際のウエストは90 あるん だけども、内臓脂肪はそんなにないよという方 もいらっしゃいますね。だから本当はウエスト だけでものを言わないほうがいいんですが、簡 便さという点から、今はウエストを代表値とし てとらえているだけです。ウェストは85cm 以 下でも、内臓脂肪が多ければやはり高血圧や高 血糖、脂質異常症が起こりますのでメタボと考 えてよいでしょう。
○小磯(ラジオ沖縄) 意外と健診を受け て、やっぱり数値は全部入っている、普通とい うふうに出るものですから。ただ、さすがに健 診では肥満という文字はかなり力強く躍ってい る部分はあるので、それがちょっといろいろと 今まで疑問にあった部分があるんですけれど。 ありがとうございます。
○玉城副会長(医師会) 実は私も昔から太 っていて、今、人間ドックに入って血液検査は 1 つも引っかからないんですよ。全部正常なん ですけど、確かに60 歳を超えて最近当直して 夜勤をすると、血圧が上がるようになってきま したね。若いうちはおそらくあまり響かないん だろうけど、年齢がいってきてストレスではな いけど、疲労が重なってくるとやはり異常値に 入るようになってきたなというのは自分自身で 考えますね。それでやっぱり体重を落とさない と。体重が2 キロ落ちると多少疲れても血圧が上がらなくなるんですね。そういう微妙なとこ ろは年齢からくると思います。
○小磯(ラジオ沖縄) 玉城先生を参考にし ながら頑張っていきたいと思います。
○司会(玉井) タイムスの儀間さん、何か。
○儀間(沖縄タイムス)
沖縄タイムスの儀間 です。いつもお世話に なっております。
肥満を減らすのがと ても難しいのはすごく 痛感しております。こ の腎臓病というイメー ジだと、すごく昔の考え方なんでしょうか、こ こにCKD の主な要因の中に腎炎というのがあ るんですが、腎炎ではなくて今はメタボリック とか肥満の部分での透析のほうが増えていると いうことなんですよね。それは動いてきている のか、それとも腎炎も残っているんだけど、生 活習慣病のほうが増えてきたかという。
○和氣(医師会) 慢性腎炎自体は今でも透 析導入の原因の2 位なんです。数が多いのは多 いんですが、98 年を境に糖尿病に1 位の座を明 け渡したんですね。98 年以降、慢性腎炎で透 析になる人は少し右下がり、だんだん減ってき ています。慢性腎炎の発生そのものはそんなに 変わりませんが、腎不全にならないような治療 がうまくできるようになってきたので、透析に なる人が減ってきているということです。
一方、糖尿病性腎症のほうは、糖尿病そのも のは確実に治療できる病気ですけれども、透析 になる人は増えています。糖尿病になる人自体 が増えていて、何しろ患者の裾野が広がってい るので、そのなかには十分な糖尿病治療ができ ずに糖尿病から透析になってしまう人もいるわ けで、今やどんどん・どんどん増えていて、全 然減る勢いがないですよ。
○田名(医師会) きょうは男女差の話はあ まり出ていなかったんですが、実際に透析が右 肩上がりになっている中で、慢性腎炎は和氣先 生がおっしゃるようにIga 腎症という病気がス テロイドの治療と扁桃腺の治療で、最近は早く 見つかるほど治療で透析にならなくなった分だ け全国的に下がりだしているんですね。ところ が問題なのは男女でみたときに、これは女性に ついては例えば腎炎と言われたり、糖尿病と言 われたらきちんと治療を受けてくださるので、 男女差でみると女性は今、透析の患者さんは頭 打ちになってきています。伸び方が横ばいにな りつつありますが、男性は右肩上がりです。男 性は女性と違って異常を言われてもあまり危機 意識が薄いのか、仕事を優先するのか、どうし ても透析になる寸前までいって病院に行くとい うことがありますので、私としては、本来、も う少し男女差と言いますか、男性に対して血圧 の治療を含めて、先ほどのメタボもそうですけ ど、もう少し危機意識をもってもらって、そう いう取り組みというのは本当は大事かなと思い ます。メタボについても基本的にはやっぱり男 性がターゲットだと思うんですね。女性はかな り意識する人は意識していますので。この違い をいかに一般の人に知ってもらいながら、男性 が病院に行く機会をいかにつくるかというのが 大事なのではないかなと思っております。
発言の機会が限られているものですから、も う1 つ言いたかったのが、先ほどから特定健診 の受診率の話が出ていますが、私も現場で見て いて明らかに去年よりも低くなっています。健 診制度が変わったことが市民に動揺を与えてい ると思うんですけど、この特定健診の受診率を 上げることに関しては、医療のほうも、那覇市 とか県とも今月、来月話し合いがあるんです が、なかなか1 月の締め切りまで、多分、数値 はもう限界が見えているんですね、絶対に上が らないだろうなというような。ですから、もう 少しこのあたりもマスコミの皆さんと一緒にな って、1 月の末日までに何とか健診の受診率を 上げましょう。そのためには先ほども話したよ うに、病院に行かない男性をいかに健診の場に 連れて行くか。特に中小企業の人たちというの は、組織的に会社で健診してもらえませんの で、ほとんど簡易健診しかやっていませんから、クレアチニンすら測られていない方がほと んどです。そういう沖縄の中小企業の人たちを いかに特定健診の場で受診させるかというの は、マスコミも一体となって特定健診の受診率 を上げる意味でとても大事なのではないかなと 思いますので、ぜひ検討していただければと思 います。
○司会(玉井) それでは、一番最後に那覇市 医師会の会長の友寄先生からどうぞ。
○友寄(医師会)
きょうのお話の中で、 私は新里さんが報告さ れた透析患者の思いに ついてびっくりという か、感心いたしました。
私は卒業して46 年に なりますけど、学生時 代は慢性の腎臓病はもう不治の病、もう絶対治 らないというふうに教わりましたので、この人 工腎臓透析というのは大きな福音だと思いま す。今でも確かに大きな福音ですけど、それを 受けている人たちがこんなつらい思いをしてい るというのは、やっぱりちょっと考えさせられ ますね。もっとやさしく励まさないといけない なと思っておりますので、この医療経済のお話 なんかは、聞いたらますますつらくなるんじゃ ないでしょうか。
これを上回る治療は、今のところは腎臓移植 しかありませんので、腎臓移植を普及させるこ とと、それから透析に行かないように予防する 努力をもっとしなければいけないなと強く感じ ました。どうもありがとうございました。
○司会(玉井) どうも長い時間ありがとうご ざいました。お疲れ様でした。