理事 玉井 修
平成20 年9 月5 日那覇市医師会館4 階ホール においてマスコミとの懇談会が開催されまし た。今回は沖縄県の平均寿命に大きな影を落と している自殺について取り上げました。年々沖 縄県の自殺者は増加の一途をたどり、ついに 2006 年には年間400 人に達しました。沖縄県 の自殺の特徴は極端に男性に多いという事と、 全国と比較して20 代男性に小さなピークが存 在するという事です。そして近年、女性の自殺 者が僅かずつではありますが増加の傾向を見せ ています。癒しの島沖縄で自殺者が多いという 意外な事実はマスコミにもよく認識されている ことで、今回の懇談会にもマスコミ関係者10 名の参加があり、懇談会は活発な意見交換があ りました。琉球大学医学部精神病態医学分野の 近藤毅教授の解説によれば、自殺対策は、生活 苦、病苦、多重債務、アルコール依存、家族不 和、孤立といった様々な要因が背景にあるとの 事です。男女差、年齢、職業の有無によって非 常に複雑に絡み合った背景があって、うつの状 態が進行し、やがて死ぬしかないという発想に 至ってしまいます。多様な背景に応じた、きめ の細かい対策が求められ、自殺対策の難しさを 感じました。そのような中でも、自殺について 話すことをタブー視せず、むしろ自殺願望をう ち明けられたらどのように対応するべきかを職 場や家庭で堂々と話しあう動きが出始めていま す。自殺に対する相談窓口も非常に多彩に用意 されてきました。癒しや、ゆいまーる精神をこ れほど声高に言いながら、一方では年間400 人 もの自殺者を出している沖縄の問題点も、もう 一度見直す必要があると思います。自殺者の遺 骨は門中のお墓にも入れず、死亡広告も出さな いという対応がなされると聞きます。職場で自 殺者が出た場合、皆がそのことに関して口を閉 ざし、触れないようになるそうです。残された 家族や職場の同僚は、自殺者を救えなかったと いう悔恨の念に苛まれ続けなくてはなりませ ん。自殺について語る事を決してタブーとしな い社会の共通理解が自殺予防にはとても大切で あると思いました。自殺予防対策に多くのセー フティネットワークが整備されつつある現在、 その利用を思いとどまらせてはいけません。自 殺についてむしろオープンに語り合う素地が無 くてはならないと思いました。『自殺を防ぐに は個人自身を社会集団と結びつける以外に方法 はない』というディルケムの言葉を考えてみれ ば、沖縄のゆいまーる精神が何かしら表面的に上滑りし、むしろ個人と社会集団との心理的乖 離を生じさせている気がしてならないのです。 過干渉な社会がむしろ個人の心情的孤立を産ん でいるのではないでしょうか。余りに近すぎる 他人、常に感じる他人の視線、そしていつしか 外見ばかりを取り繕う自分が、ついに心理的孤 立へと発展しているのではないかと想像してしまいます。近藤教授からマスコミの皆さんに特 に自殺報道に関していくつかの提言がありまし た。硫化水素自殺に限らず、自殺報道は自殺の 連鎖反応を惹起する可能性があることを常に意 識して報道して欲しいという事です。自殺報道 においては常にセーフティネットワークの存在 を併記して欲しいとのご要望がありました。
開 会
○司会(玉井) きょうは給料日ということ で、実際、給料日の後に外来が増えます。へぇー っと思われるかもしれませんが、これが現実でご ざいます。1 週間血圧の薬を切らして、180 とか 200 とかという血圧でいらっしゃって、「これは 自殺行為だよ」とか話をしますけれども、本当に これは緩やかな自殺なんじゃないかなと思ったり することもあります。生活習慣病という名前を借 りた緩やかな自殺みたいなこともあるんじゃない かなと、少々寒々とした気持ちにもなりました。
初めに本会を代表いたしまして、小渡敬副会 長よりご挨拶をさせていただきます。
挨 拶
○沖縄県医師会副会長 小渡敬
皆様、こんばんは。 県医師会の小渡でござ います。本来なら宮城 会長が皆さんにご挨拶 をするところですが、 所用があり、私が代役 を務めさせて頂きます。
今回のテーマは自殺問題で、「沖縄の自殺をど う食い止めるか」が副題であります。もう皆さん ご存知のように、自殺については大きな社会問 題になっており、ここ10 年で約3 万人以上の方 が自殺されています。それに対して交通事故で 亡くなる人が8,000 名〜 9,000 名であり、自殺で 亡くなる人がかなりの数に上っているというのは ただならぬ数であります。国際的にみても日本のような先進国が、このような状況になっているこ とに疑問があります。本日は琉球大学精神科の 近藤教授をはじめ、県福祉保健部の垣花課長、 上里主任に出席して頂いて、沖縄県の自殺の現 状や、その対策について、行政や専門家の立場 から有意義なお話が聞けると考えております。
現在、県では9 月1 日から自殺予防キャンペ ーンを行っております。従来は1 週間だったも のを今年からは1 カ月間に延長し、取り組んで いるところであります。自殺に関しては、それ を予防するのになかなか決定的な対策を図るの が難しいと思います。その辺をどうしていくの か、今日は色々な角度からお話して頂きたいと 思います。今日はマスコミ各社の方も参加して おられるので、活発な意見交換が出来れば良い と考えております。宜しくお願いいたします。
○司会(玉井) それでは、早速懇談に入ら せていただきます。
本日のテーマである「自殺〜沖縄の自殺をど う食い止めるか〜」については、琉球大学医学 部精神病態医学分野教授の近藤毅先生。
そして沖縄県福祉保健部障害保健福祉課の垣 花芳枝様。
同じく沖縄県福祉保健部障害保健福祉課主任 技師の上里とも子様にもお話を伺いたいと思い ます。
それでは、早速、近藤教授からお話をお願い いたします。
懇 談
自殺〜沖縄の自殺をどう食い止めるか〜
スライド1
どうも皆さん、こん ばんは。
私の話は「自殺をどう 食い止めるか−増加への ポテンシャルを有する沖 縄県−」ということで題 を選んできましたけれど も、主に医療・保健学的にどうやって自殺を予防で きるかという話を中心にしていきたいと思います。
スライド2 沖縄県の自殺者
ある意図をもって2006 年までのデータで止 めていますが、全国の状況と同じように1998 年を境に自殺者数が沖縄でも増えています。 2006 年(平成18 年)の時点で合計400 名に達 しており、ついにここまできてしまいました。 実はこの後の年度で少し下がるのですが、沖縄 の状況を考えますと、いつでもこの人数に達す るポテンシャルがあると危惧しています。
スライド3 人口動態統計
沖縄県は人口動態的にも特徴のあるところ で、婚姻率が高い一方で離婚率も高い。また、 出生率は非常に高い一方で、死亡率が非常に低 い。そうするとそれに見合った形で自殺率も低 いのかと思いきや、この平成18 年のときに全 国で13 位になってしまい、上位県に位置して しまいました。死亡率が低いにもかかわらず、 なぜこのようなことが起こったかについて検討 されるべきでしょう。
スライド4 都道府県の失業率
1 つには、沖縄の経済的基盤が弱いところが あります。これはやや古いデータですが、2003 〜 2005 年の間で失業率が連続して1 位を占め ており、なかなか仕事に就けない男性の方が多 いことが容易に予想されます。
スライド5 年齢別
これは平成18 年の年齢別にみた全国の自殺 率と沖縄県の自殺者数です。比率と絶対数です から、単純な比較はできませんが、全国と同様 に50 代を中心にピークがあります。沖縄の場 合、特に男性と女性の格差が非常に大きいのが 特徴です。このため、効率を考えた自殺予防対 策においては、男性層を重点的なターゲットと 捉える必要があるでしょう。
スライド6 職業別の割合
自殺者を職業別に分類し、2004 年〜 2006 年 の平均データをみますと、全国と沖縄ではその 分布に大きな差は見えませんが、強いて言うと 沖縄では無職者層の方が若干多いという特徴が あります。
スライド7 原因・動機別の割合
次に、自殺者の原因・動機別の割合(2004 年〜 2006 年)ですが、これも沖縄では経済・ 生活問題を背景とした自殺が全国よりもやや多 いようです。
自殺の背景について、沖縄県の特徴を挙げて みました。これは本県の特徴というよりは、日 本の中の地方における特徴でもあるかもしれません。特に男性の場合は職がないことから発し て、次第に生活苦ですとか、アルコール、さら には借金・多重債務といった関連する背景因子 が連鎖することが多く、女性の場合は身近な家 族関係や養育上の問題などが自殺の背景になり やすいようです。高齢者の場合は2 大背景因子 とされる病苦および孤立の問題が重視されま す。沖縄の場合、お年寄りが敬われ、家族と同 居をされる文化があり、北東北の自殺高率県と 比べると、高齢者の孤立の問題に関しては背景 因子として軽減されているところがあるのでは ないかと考えております。
スライド8 自殺の背景にあるもの
スライド9 自殺減少に向けて実効性の高い対策は?
自殺減少に向けて実効率の高い対策というの は、一言で言うと、やはり男性向けの自殺予防 対策が重要です。苦境時に男性は孤立しやす く、サポートを求めるのが苦手であり、どうや って孤立させずにサポートにアクセスさせるか が鍵になると思います。
男性一般の自己表現能力の問題もあります し、普段の人間関係から、はたして自分が苦し くなった時に気付いてもらえるような、あるい は、相談できるような、そういった関係が構築 されていることが重要となるでしょう。それ と、特に退職された高齢者の方が、社会サポー トを受けたり、あるいは逆に自ら社会参画した り、という双方向性の社会的つながりも必要か もしれません。
最も気になる40 代後半から50 代の男性です が、やはり、経済生活問題への対策が主になり ます。医療保健関係の我々からすると、不況・ 倒産・失職・借金の問題はいかんともし難いも のがあります。これらは、経済・雇用政策と連 動しないと私たちの力だけではどうにもならな いでしょう。ただ、過労の問題に関しては、過 労とストレスなど、産業メンタルヘルスの観点 から我々が切り口をもてる可能性があります。
それと、高齢男性の病苦と孤立への対応です が、慢性的な身体疾患を抱えていらっしゃる方 がどれだけ家族からの心理サポートを得られて いるか、また、常時診てもらっているかかりつ け医でも果たして異変に気づいてもらってメン タルケアしてもらえているか、そういった点を 強化することが対策になると思います。孤立と いう問題を考えますと、配偶者を喪失された方 や、社会的な関わりに乏しい方に対して、地域 保健の観点からどのような関与ができるのかと いうことが大事になってくるでしょう。
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さて、日本全体として時代的背景を振り返り ますと、昭和の時代は右上がりの好況・発展・ 安定が保証される幻想を持てる社会にあり、そ の中で、各個人が様々な不安とか希望・期待、 将来性ですとか、社会に対して割と振幅の大き い生命感情を持てる状況にありました。しか し、平成の時代は不況が続き、閉塞感や格差意 識が非常に強くなってきており、それらを危惧 しながら、あまり安易に未来への幻想を抱けな い厳しい社会になってきています。そうする と、生命感情の振幅は乏しくなり、空虚感や諦 めなどの虚無的な感情が全体の空気を支配する ようになりますし、逆に、大きく負の方向に感 情が振れていくと、絶望や社会に対する憎悪と いう否定感情が生まれてきます。
そうすると、絶望からは「追い詰められた 死」という視点が出てきますし、一方の虚無か らは「もういいや」といった感じの「退却とし ての自死」を選ぶという方向性も出てきます。 また、それと対極的に社会に対する逆恨みのよ うな反逆的な形で、次々と衝動的な殺人事件が 起きていますが、こういう形で社会病理が表れ やすくなっているのではないかと考えられます。
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自殺予防の観点からは、「追い詰められた死」 という考え方が強調されますが、一方で、「自 ら選んでいる死」もあるのではないのかなと私 は考えています。
まず、「追い詰められた死」というのは、現 実と密着している中高年らの中間世代層にみら れる死です。本当は生きていたかった、無念で ある、などの思いを残し、本来は避けられる死 ではないかとする観点が持たれており、自殺予 防促進のスローガンとして機能しているわけで す。自死に至った原因や自殺に追い込む社会病 理を考えながら、現在活用できる社会資源をサ ポート材料として対策を立てるという方針へと 結び付きます。
一方、「自ら選んでいる死」というのは、若 年者と高齢者の両極層にみられると想定してい るのですが、現実との関わりが薄く、社会に対 するある種の諦観があって、すべてもう先が読 めた、底が見えた、という感じを持っている群 も存在し、先行きに期待を抱けない現代社会と いう問題を提起しているような感じがします。 これは社会システムがいろいろな夢とか希望と かを提供することができなくなっているために 起こっているという考え方で、そうなると今度 は新たな社会構造を創出する必要が生じ、前向 きに予想される展望を抱いての何らかの戦略が 必要になってくるというわけです。
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前者の「追い詰められた死」を防ぐためには 「様々なセキュリティ・ネットワークが用意され ていなければならない」という結論になります。
これはLife Link(2008 年)の1,000 人実 態調査から見えてきた自殺の経路ということ で、実際に亡くなられた方たちの家族から聴取 された様々な背景因子を関連付けた非常に重要 なデータです。最も自殺に近い直近の大きなファクターとしては、家族の不和、生活苦、うつ 病の3 つが挙げられています。特に、うつ病は 他因子との相関が最も集中しており、最終的に 自殺を後押しする危険要因となっています。
スライド13 自殺の危機経路
自死家族の調査から、自殺に関連する10 大 危険要因が抽出され、それらの危機複合度が示 されました。初期の発生段階では過労・事業不 振・職場環境の変化などが見出されますが、こ の時点ではこれらがすぐ自殺につながる危険性 は低いようです。ただ、これらを放置しておく と今度は別の危険因子に連鎖し始め、身体疾患・過労・職場の人間関係・ 失業・負債といった少し大き な問題が同時に複合化してき て、最終的に決定的な危険要 因(家庭不和・生活苦・うつ 病)にも連鎖が及び、深刻な 自殺リスクへと直結していき ます。
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自殺時に抱えていた危険要 因は平均4 つの複合要因から なり、先ほど申し上げた10 大 危険要因に7 割が集中してい ます。最終的に一番複合度が 高いのがうつ病であり、自殺 予防に向けてうつ病対策を行うことが重要であることは言 うまでもありません。
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それと先ほど申し上げたよ うに、危機の進行度は発生、 連鎖、深刻化の3 段階があっ て、それぞれの段階で介入の 仕方がちょっと違ってきます。 発生の段階でもし取り上げる ことができるのであれば、 個々の少ない要因に応じたシ ンプルな対策で対処が可能だ と思うのですが、それらが連 鎖して複合化してしまうと、 今度はいろいろな他分野の専門家の連携でサポートするということが必要に なってきます。しかし、このような連携・サポ ートが得られない場合には、1 人で深刻化の段 階に入っていってしまう。そうすると様々な複 合要因に一人で対処しなければならなくなり、 すぐにも自殺リスクが増大していく状態に陥 り、危機介入という形での問題の対処を迫られ ます。
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自殺というのはここに挙げたような包括的で 実に多方面からの対応を必要とされます。その 中で我々医療保健関係者ができることというの は、この丸で囲んだところに限られるかもしれ ません。これらの医療保健モデルとしての対策 は集約化され、実行の焦点が絞られる必要があ るでしょう。
「国家的な自殺対策」、「経済政策」、「コミュ ニティー再構築」に関しては、やはり政策です とか、あるいは行政がかなり力を発揮しなけれ ばなりませんし、「多重債務対策」に関しては 法律の専門家のサポートが必要になってきま す。「自死遺族の関わり」に関しては、NPO 主 体で行われていることが多いと思います。
ハイリスク領域への重点対策として沖縄県に おける現状と評価を現時点で総括しました。実 は、最も影響がありそうな「無職・失業」の方 たちには、なかなかアクセスしづらいんですね。 どういう形でこれらの方々に予防の手が届くか ということは非常に難しい問題になっていま す。職業安定所にアクセスしながら心理サポートを行うという考えもあるのですが、実際問題 としては職業安定所には職を求める方に対し て、心理サポートは第一義的に求められている ことではないため拒絶される可能性が大きいで すし、職業安定所のほうでも「心理サポートま では…」とか、あるいはそういった部外者がサ ポートに入ってくることへの違和感を覚えると ころもあるようです。
スライド17 ハイリスク領域への重点対策
「多重債務」の問題に関しては、司法書士会 が債務整理に関して大きな力を発揮してくれる ようになってきましたが、借金を繰り返してし まう方や債務による強い心理的重圧を抱えてい る方々にはやはり心理相談が必要になります。 再発防止には、債務を繰り返し、ある意味で嗜 癖傾向のある方、あるいは背景にそういった病 的な借金を繰り返さざるを得ない生活状況です とか、病的な賭博の問題、に対する対策が不可 欠と思われますが、ここをどう心理相談につな ぐかというネットワーク作りが非常に重要にな ってきています。
「過重労働」に関しては、まず普段のメンタ ルヘルスを向上させるということと、労働環境 をどういうふうに改善させるかということが必 要になってきますけれども、当然メンタルヘル スプロモーションという形で産業精神保健的に 介入できる余地はありますし、我々もいろいろ な職場に対して介入調査を始めている段階です。
「高齢者」に関しては、孤立・病苦などハイ リスクをもっていらっしゃる方に対する地域保 健活動が重要になってくると思います。
「うつ病」ですが、これはもう特別な病気で はありません。風邪の症状や治し方くらいのレ ベルで、一般の方達が知識や対応を十分理解で きるよう浸透させていく必要があります。そして うつ病というのは困ったことに、なり比較的初 期の病状が進行していく過程で病識を失いやす く、自身の考えに閉塞して固まってしまい、相 談しなくなってしまうところがあるので、周囲の 人が発見して声を掛けてあげなくてはいけませ ん。その役割を果たせるのは、保健師のような 方がゲートキーパーとなるか、あるいは、ご家族 や民生委員など一般の方々でも結構なのですけ れども、メンターとしてつなぎ役をするなど、そ のようなサポーターを養成するための啓発が重 要と考えています。一方、受け手の側である医 療機関の啓発も重要です。患者さんはまっすぐ精神科に来ないことが多いので、かかり つけ医レベルでまず発見して治療的対応 をしていただくことが必要で、うつ病プ ライマリケアの促進、これも非常に重要 な眼目になってきます。
スライド18 うつの家族・知人を前にして 125 名のデータ
地域住民125 名のデータですが、もし 自分のご家族や知人がうつと分かった 時、自殺のリスクをどう捉えているか、 また、それに対する心構えを聞いたもの です。アンケート結果では、希死念慮の 可能性を想定して、話題にする必要性を 感じており、自ら聞き出す姿勢もみられ ます。ただ、「聞き出し方がよくわから ないので抵抗感がある」という部分は残るよう です。したがって、一般の方に対してもためら うことなく、希死念慮を聞き出す手法を共有す る段階にきているのかなとも思っております。
スライド19 死にたい気持ちを打ち明けられたら 125 名のデータ
今度は、実際に知人や家族に死にたい気持ち を打ち明けられて時の対応ですが、予想を越え て、一般の方たちは「話題をそらさない」、「楽 観を押し付けない」、「励まさない」、「説教はし ない」、「叱責しない」といった原則的対応への 意識の高さが目立ち、少し安堵できるデータで す。ただ、一般の方ですから、対応しながらど のぐらいの危険性があるのか評価・判断するの は難しいようであり、こういった点も伸ばして 危機察知能力を高めて、それで医療につなげる モチベーションも持ってもらうべき時代なのか なという気もします。
スライド20 一般医におけるうつ病の認識・対応
受け手の一般医のうつ病への認識や対応につ いてみたものです。我々が独自の啓発講演+ロ ールプレイの2 回シリーズのセミナーを行い、 その前後でうつ病の疾患イメージや治療対応の 変化をみたのですが、疾患イメージは講演後に 改善するものの、治療対応に関しては伸びが悪 く、「問診はしてもいいけれども、自分で治療 対応するのはちょっと…」といったレベルに留 まりがちです。啓発後もサポーティブなフォロ ーアップが必要なのかもしれないと考えており ます。
スライド21 死を選びたくなる社会にしないためには?
今度は後半の死を選びたくなる社会にしない ためにはということで、少し医療モデルから離れ てしまいますが、私が期待している領域で、か つ、マスメディアさんにも期待するところが大き い分野なのでお話させていただきます。やはり、 希望や生きがいを未来展望できて、お互いに助 け合えるシステムが機能する社会でなければな らないと思うのですが、そういったものは受動的 に与えられるものではなく、地域単位あるいは 世代単位でつくっていく必要があると思います。
デュルケムの「自殺論」では、「人々の拠り 所となる集団や人間関係との結合により自殺率 が異なる」としています。カトリック信仰者や 既婚者においては、おそらく対人的な関係が密 な個人、集団、環境にあると思われますが、実 際にこのような方達の自殺率は低いことが昔か ら言われております。ですから、「自殺を防ぐ には社会的集団を十分強固にして、個人をしっかり掌握する」とともに、「個人自身を社会集 団と結びつける以外に方法はない」という風に 言い切っています。これは今日の自殺予防対策 の指針にもよくあてはまるところです。
スライド22 デュルケム自殺論
スライド23 地域づくりを主眼とした対策
まず、「地域づくり」という概念が浮かんで きます。これは高齢過疎地域の保健・行政ベー ス予防モデルです。北東北の自殺高率県では特 に対策が進んでおり、過疎地域の予防モデルと して機能しています。そのような地域は、うつ 病対策が遅れており、非常に偏見が強く、住民 も援助を求めようという姿勢が乏しい環境にあ ります。対人交流も閉鎖的ですし、社会資源も 限られており、サポートを得にくい状況に置か れているのです。地域の風土として、個々が心 理的にひきこもりやすく、問題を持つのは恥で あるという固定観念があり、非生産者であるこ との無価値感が存在し、世代間の価値観にもズ レが見られ、家族内の否定感情の鬱積が生じやすいとされています。北東北では同居老人ほど 自殺するという逆説的現象があるようで、それ はこうした風土が原因のようです。
ただ、このような問題に対して改善すべき課 題として、スティグマですとか、生活の問題です とか、対人関係、社会資源などいろいろあるわ けですが、実際に効果的であった対策としては、 うつ病スクリーニングを保健活動として行った り、相談サポートをできるようにしたり、集いや 行事の場を作ったり、ということだったようで す。また、若い世代との交流機会も高齢者のメ ンタルヘルスに対して好影響を与えたようです。
スライド24 生きがいづくりを主眼とした対策
次に、高齢者の「生きがいづくり」を主眼と した対策が考えられますが、これは沖縄の場 合、地域よりも世代を対象として、特に社会と これからつながりを失うかもしれない退職世代 への予防モデルとして必要になるかもしれない と考えています。既に東京の一部地域における 都市型モデルとして様々な動きが出てきている ようです。これは医療モデルでは全くなく、ど ちらかというとメディアやボランティア・ベー スでムーブメントを盛り上げていく必要がある かもしれません。
退職世代の男性は生きがいを喪失しやすい世 代です。仕事を辞めてしまうと、すっかり社会 参画の機会が乏しくなり、これから団塊世代を 中心にそのような高齢の方が増加していくわけ です。しかし、日本の高齢化社会に対する見識 は、概してネガティブな捉え方が多いような気 がします。財政上の負担になる、生産性のない 対象とみられるならば、そういった世代の方々 は罪悪感や無価値感を持ってしまうでしょう。 社会における受け皿の不在というか、もう一度 その世代の人たちを社会に再び取り込むことに 無策である日本においては、高齢世代が孤立感 や不適応感を抱きやすいわけです。
この世代の方々には、「モノ」の充足から自 分たちの「ココロ」の満足をどういうふうに得 ていくかとか、引退・隠居としての老後の捉え 方ではなく新たに自由な出発と交流をどのよう に獲得するか、という視点を持っていただきた いと思います。また、これまで職場や社会に受 動的に集団帰属していた方たちには、今度はも うそういう縛りもなくなるので、むしろ自主的 な社会貢献をできるチャンスがあるのだ、とポ ジティブに捉えていただきたいですし、社会責 務とか仕事人間という形できた人達も、もうそ ろそろ退職されたら個人裁量を持つ生活者であ るという視点に切り替えていってくだされば、 と考えます。
実際に退職世代の参画が期待される領域とし て交流拠点づくりがあり、その世代のためのホ ームページを作ったり、場所を確保したり、あ るいは事業を始めたりという動きが一部で起こ っています。退職世代の社会貢献スキルや起業 スキルを高めるための自主セミナーを企画した りして、自主的に社会参画していこうという動 きです。その他、自主サークルを運営したり、 ボランティアバンク、あるいはコミュニティ・ビ ジネスを行ったり、いろいろなチャンスはあると 思うのですが、どなたかが、あるいは、何らかの 外部組織かが起爆剤となってくれないと、なか なかこういった活動には進展しないところがあ ります。私個人としては、メディアやボランテ ィア組織へその役割を期待したいところです。
最後に、メディアと自殺の取り扱いについて お話しして終わりたいと思います。
やはり、非日常的な事件というのが一番メデ ィアとしては取り上げたい話題になるのでしょ う。それは、一般の関心も引きますし、報道の価値もあるからです。また、事実を伝えるとい うことに対して、メディアは社会的使命を持っ ていますし、報道する権利も持っています。
スライド25 メディアと自殺の取り扱い
ただ、自殺という問題は適切な形で取り上げ られなかった場合に、特に若年者を中心として 模倣・連鎖・群発といった現象を生むのは皆さ んよくご存知のことだと思います。逆に、報道 の仕方によっては自殺抑止効果を持ったり、あ るいは、社会病理への警鐘を鳴らす効果も持つ ため、私達も非常に大きく期待しております。
WHO のSUPRE2000 年(suicide prevention) から、マスメディアに対して様々な要望 が出されました。写真・遺書を公開しないのは 過剰な感情移入を防ぐためですし、手段の詳細 を報道しないのは模倣させないためです。原因 を単純化して報道することは、自殺における多 様な要因を見逃すことにつながります。もちろ ん、感傷・美化を避けたり、あるいは、社会文 化的理解で解釈し断定してしまわないことも大 事です。それは、ある意味、自殺が社会の問題 であるため仕方がない反応だと許容・支持して しまう方向に働いてしまう可能性もあるからで す。それと、安易に責任の所在を割り振らない ことも重要であり、これは悪い人探しで終わる ことがないようにするためです。
むしろ積極的なマスメディアの役割として、 確実で信頼性の高い情報源を使用する、家族や 遺された人々に配慮する、自殺行動の危険信号 を公表して周知を図る、あるいは、自殺以外の 選択肢があることを強調すべきでしょう。たと えば、自殺直前にうつ病に罹っていた可能性が ある場合には、治療の手段があることをアピー ルしていただきたいですし、自殺予防に向けて 様々な支援・介入組織があり、そのような社会 資源へのアクセスの仕方についても情報提供を していただきたいと思います。
最後に、皆さんの手元にもお渡ししましたけ れども、日本自殺予防学会で硫化水素自殺の頻 発に対して声明を出しましたので、ご参照して いただければと思います。この問題は単に個人 が自殺を試みてひっそり亡くなられるばかりで なく、周囲に非常に迷惑を掛けてしまうことに なり、さらに、幸い生存された場合にも重大な 後遺症を残す可能性があるため、報道の中に未 遂後の身体後遺症や他害的影響に対する警告も 必要なのではないかと考えています。
どうもありがとうございました。
○司会(玉井) 近藤先生、どうもありがと うございました。
引き続きまして、沖縄県福祉保健部障害保健福 祉課長の垣花さん、よろしくお願いします。
ただいま近藤先生の ほうからいろいろと自 殺の原因、それに対応 する環境、統計も含め て非常に詳しく、どう いう取り組み方をした ほうがいいのかという ことでご説明をいただきましたので、私ども行 政としましては、本来であればこのことを1 つ 1 つ実践しながら自殺の対策を強化していくこ とが一番大事なのかなということを、お話をお 聞きしながら非常に感じておりました。
私どものほうからは資料をお配りしてありま すが、原因等は先ほどご説明がありましたの で、簡単に沖縄県の取り組みの状況についてお 話しさせていただきます。
まず資料1)の19 年の沖縄県の自殺の状況について示してあります。
資料1)
先ほど近藤先生のお話しにもありましたよう に、やはり原因としましては精神障害を中心に した健康問題、これが一番高く、その次が経 済・生活問題というのが高くなっています。こ れは18 年も19 年も同じような状況になってい まして、やはりそれらが連鎖して自殺に至って いると言えると思います。
警察統計では18 年には400 名という過去最 多の自殺者数になりましたけれども、19 年は 若干改善されまして347 名となっています。資 料1 の3)年代別自殺者の推移をご覧下さい。 30 代、40 代、50 代が19 年には改善しており ます。
ただ、一方で沖縄県の特徴として実は全 国との比較であるのですが、20 代の自殺数 が沖縄県は非常に多いということがありま して、昨年度と比べまして19 年も増えてお ります。
その資料2)をご覧いただきたいのですが、 そういうふうなことを背景にして20 年度を どうするのかということで、20 年の沖縄県 の取り組みについて提案をしてあります。 20 年度は経済問題、それから精神の健康問 題が多いということがありましたので、「壮 年の自殺対策」ということを重点項目にい たしまして、メンタルヘルスと多重債務とい うテーマを選択しまして取り組みを進めてい きたいと考えております。
それは400 名から347 名に改善した年代 が30 代から50 代になっておりますが、しか し、全体的にはそちらの方が依然として高 い比率を占めております。30 代から50 代で メンタルヘルスや多重債務が大きな原因か どうかということのクロスの分析はまだ結果 が出ておりませんけれども、やはりその部分 を強化することが自殺対策のポイントでは ないかということで、今年度はそこを中心に して進めていきたいと考えております。
事業を大きく7 つに分類しておりまして、 1 番の実態把握ですが、圏域ごととか職域と かの自殺の状況、それから心理の状況をいろい ろと関係者の方にもご協力をいただきながら実 態調査をまず進めていきたいと考えております。 特にメンタルヘルスの部分につきましては、各職 場、沖縄県は零細・中小企業が多いんですけれ ども、やはりそこにおいて心の健康相談をする 産業カウンセラー的な職員が配置されているの か、体制があるのか。それから日常的に過重な 労働、疲れ、そういうものに対する相談体制は どうなっているのかというのが非常に気になると ころですので、そういうことについて雇用労働者 に対してはそういうことについて労働組合とご 協議いただきながら調査ができればいいかなとい うことで相談をしていきたいと考えております。
資料2)
ただ、自殺者の中で無職者というのが実はか なり高い比率を占めておりますので、そちらの ほうへの切り口方をどうするかということがあ りまして、そこは次の多重債務の生活相談のと ころから調査できないかと考えております。そ の関係もありまして、普及啓発、それから相談 事業のところにおきましては、今年度9 月10 日から3 日間、多重債務を中心にした司法書士 会の皆様の相談事業を集中して展開していきた いと考えております。
適切な医療対策というところで、先ほどの近 藤先生のお話にもありましたし、またライフリ ンクの調査からも自殺をする方はう つ病の状態にあることが多いという ことであり、やはりうつ病対策を強 化していく必要があります。
その中においても、かかりつけ医 のうつ病対応研修を強化していく必 要があるのではないかと考えており ます。
今年度も別添の資料にありますよ うに、年度末にはかかりつけ医研修 をしていきたいと思っております。
今年度は講演会スタイルでやりま すが、今後は圏域毎にかかりつけ医 研修をして、圏域でのうつ病対策の 体制がとれる方向で取り組みが進め られたらと考えております。
さらに、県の精神保健福祉セン ターで、慢性のうつ病の皆さんを対 象にして、認知行動療法を取り入 れたうつ病デイケアを実施しており ます。それにつきましては、今年度 から民間の医療機関を含めて、うつ 病デイケアの実施ができないかと、 アンケート調査を実施いたしまし た。そこの技術移転、技術の推進 に向けて取り組みを進めているとこ ろです。
かなり関心の高さを示されており ますけれども、いざ実施となります と、いろいろと人材の問題ですとか、それから 場所の問題ですとかまた実際にうつ病の方が診 察を受け、治療を続けるという方はまだ少ない というふうに聞いております。
やはり、必要な方は医療や相談につなげてい くという活動が重要であり、そこも、精神保健福 祉センターを中心に進めたいと考えております。
そのほか5 番目、連携事業ですが、平成20 年3 月に沖縄県自殺総合対策行動計画を策定し ております。その中で示してありますが、いろ いろな関係者が連携し、相談のネットワークを 組み、地域の中でどういうファクターで相談があったとしても相談をつなげていけ る、次の支援につなげていける体制を とっていくことが肝心なのではないか ということで自殺対策連絡協議会を設 置しております。
それから、県の中において県機関の 例えば多重債務の担当、それから心の 健康の担当というふうな諸々の担当の 連絡会議も設置して情報を共有し、連 携できるよう進めているところです。
また、各地域におきましては、福祉 保健所を中心にして、相談の態勢、環 境を整えていくという取り組みを進め ているところです。
6 番目、7 番目なんですが、6 番目 の未遂者の対策につきましては、一番 最初に消防や警察・救急病院が関わり ます。ですから是非、それらの機関か ら相談機関や専門の医療機関につなげ ていく、そのケアや協力をお願いして いるところです。
さらに、遺族の支援につきまして は、「分かち合いの会」が3 月に結成 されまして、ボランティアが現在対 応しています。精神保健福祉センター の職員はそのボランティアを育成して 支援する役割をしており、将来は自死 遺族の方々が自ら分かち合いの会を運 営していけるよう支援しているところです。
その次に、今年度(20 年度)の自殺予防キ ャンペーン、先ほど小渡副会長からお話しがあ りましたように、国の方では9 月10 日から1 週 間を自殺予防週間として啓発活動をしておりま すが、県におきましては、諸々の取り組みをい ろいろな皆さんに参加をしていただく機会を多 くつくっていきたいということもありまして、 9 月1 日から30 日を自殺予防月間の設定をして 取り組みを進めていきたいということで、今、 途中でございます。進めたばかりで9 月1 日に 開始式を行いまして県民の皆様に、シンポジ ウムや多重債務とこころの相談、講演会や電話相談などのキャンペーン事業や各種相談窓 口についてチラシを配布いたしました。電話 相談につきましては、これはもちろん通年で 行っておりますが、集中して強化する形で実 施しております。
資料3)
さらに、年間を通していろんな機関で、諸々 の自殺対策を行いますけれども、そういう取り 組みを通して、ぜひ1 人で悩まないで必ず悩み は解決できると。一緒に解決していきましょう という呼びかけを強化していきながら地域で、 誰もが相談できる体制、環境をつくっていきた いと思っております。
以上、私どもの20 年度の取り組みの経過で す。自殺総合対策行動計画にもデータを示してありますし、先ほど近藤先生からもお話しがあ りましたように、男性は自分の体調がおかしい なと思ってもなかなか相談しないという傾向が あります。女性はすぐ相談をして、きついと か、例えば借金で困っているとか、うちの県民 生活センターでもやはり女性のほうが相談が多 いというふうに聞いております。相談をすれば 何かの解決の糸口がつかめるということですか ら、男性の皆さんにもぜひそこらへんを進めて いけるような体制がとれたらいいんじゃないか というふうに思っております。以上です。
○司会(玉井) 垣花様、どうもありがとう ございました。
続きまして、上里とも子主任技師にお話をい ただきたいと思います。
時間も超えておりま すので、私のほうから は資料の説明だけをさ せていただきます。
皆様のほうに「いの ちを大切に」というパ ンフですとか、それか ら「地域のきずなで守ろう尊いいのち」という ふうなものをお配りをしてあります。「いのち を大切に」のほうは、各医療機関ですとか、社 協ですとかいろんなところで自殺を食い止めよ うということでチラシとしてお配りをさせてい ただいています。
「地域のきずなで守ろう尊いいのち」は、中 のほうに相談機関が書いてありますので、どこ を窓口としてもみんながつながっていって、ど こかで相談ができるというふうなことを目指し ております。
それから、課長から説明がありました自殺対 策シンポジウムですけれども、全県的な展開と していくために、今回は離島のほうでもという ことで宮古でも計画をしております。
今日、皆様にお願いなんですけれども、白い チラシのほうですが、近藤先生のほうからもあ りましたように、経済的な問題で自殺が多いと いうこともありまして、今回、「多重債務と心 の相談」ということでの同時相談会を計画して おります。3 カ所で6 日間連続して行いますの で、ぜひピーアールしてご参加いただけたらと 思います。よろしくお願いいたします。
質疑応答
○司会(玉井) どうもありがとうございました。
マスコミの皆様、何かご質問があればお受け したいんですけれども。所属とのお名前をお願 いいたします。
○稲福(琉球新報)
琉球新報の稲福とい います。お伺いしたい のですが、自殺の原因 でいろいろ生活苦だっ たり、健康問題だった りという統計をとられ ていると思うんですけ れども、これは1 件1 件確認されてやられてい るのですか。どういった方法でふり分けている のかなと思いまして。平成19 年度からは2 つカ ウントしているということですよね。それ以前 はどうやってまとめてやられていたのかという 点も含めて聞かせていただければと思います。
○司会(玉井) 近藤先生、いかがでしょうか。
○近藤教授 自殺の動機に関するデータは県 警からの情報だと思います。県警の方では従来 は健康問題と一括していたのを、精神障害の有 無についても確認するようになり、より細分化 がなされるようになってきたようです。
ただ、警察では、自殺の原因を解明すること が本務ではないので、主因を取り上げて分類す る傾向があり、大まかには本日のデータのよう な形で表れますが、実際に先ほど提示したLife Link のデータのように、詳しくご家族から聴 取すると、もっといろいろな問題が背景にあ り、複数の要因が重なっているのが本当の実態のようです。警察の調査は、まず自殺であるか どうかの確認に焦点が置かれ、理由の聴取は付 随的情報になりますので、絞られた情報しか入 ってこないというところがあると思います。
○司会(玉井) よろしいでしょうか。
増田先生。
○増田(医師会)
琉大のがんセンター の増田と申します。
県の垣花課長さんに お伺いしたいんですが、 一昨年に「自殺対策基 本法」が制定されて、 去年に大綱ができまし たけど、それと県のつくられた行動計画との関 係をちょっとお話していただければと思います。
○垣花課長 一昨年「自殺対策基本法」がで きまして、翌年策定しました、国が発表しまし た大綱を踏まえて、各県ともそこの中での対策 の柱、そういうことを各県で行動計画をつくっ て、10 年間で20 %の自殺率を削減するという ふうなところの目標値を定めて各県でやってい るところです。
例えば、沖縄県の自殺の実態、実施の状況で すとか、そのへんにつきましては、独自に19 年度に、近藤先生とか、いろいろご協力いただ きながら分析をしているところでして、その中 で最も重要なことがスクリーニングを重要視し ながら、1 次対策、2 次対策、3 次対策というふ うなところで自殺の予防をしていこうと進めて います。関連とすることは、国の基本法、それ から大綱を踏まえて、県としても策定していっ たというところが経過になっております。
○増田(医師会) そうしますと沖縄県の独 自性というか、特徴というのは今のスクリーニ ングのところに出てくるんですね。対策の特徴 としては何が一番か、1 つか2 つでいいんです けど、教えていただけますか。他府県と違う …、沖縄県独自ということはないんでしょうけ ど、沖縄県が若干力を入れている場所、部分と いうのはどういうところでしょうか。
○垣花課長 先ほどお話がありましたけど、 男性が全国の中に比べて全国は7 対3 でやはり 男性が多いんですが、沖縄の場合は8 対2 とい う、男性が圧倒的に多いということ。それか ら、20 代の自殺者が多いということがありま すので、その自殺者の原因でありますけれど も、精神の疾病を原因とした理由が多い。
もう1 つは経済問題。多重債務についてはや はり沖縄県は非常に高い比率を占めているんで す。その関係もありまして、行動計画の中で も、その部分については多重債務の対策は項目 をつけて設定をしているというふうなところは あります。
さらに、統合失調症、それからアルコールの 疾患についても項目をつけて強化していくとい うふうなところは設定させていただいていると ころです。
○司会(玉井) マスコミのほうから何か。
○大城(エフエム沖縄)
エフエム沖縄放送制 作部の大城と申します。
垣花課長にお伺いし たいんですけれども、 20 年度の事業計画の1 つとして、うつ病デイ ケアの医療機関、民間 の医療機関への技術移転に関して少し質問をさ せていただきたいんですが、先ほどのお話の中 で希望する病院のアンケート調査を終えられた ということなんですけれども、今、いくつぐら いの病院がうちでやってもいいですよというふ うに手を挙げていらっしゃるんでしょうか。
○垣花課長 総数で74 カ所にアンケート調 査をした結果、16 機関が「関心がある」と、 やる方向で示しておられます。ただ、これは 「関心がある」というふうなことですので、具 体的に、20 年度中とか、21 年度中とか時期が ございますけれども、時期を示して22 年度以 降も含めてやりますと、現在8 カ所になってき ています。その中でもこれから具体的には医療 機関の形も、クリニックのような形から精神科病院のような形までありますので、環境がちょ っと違いますので、今、センターで実施してい るようなデイケアがそのままの形でできるかど うかというのは、今後の検討になります。
○大城(エフエム沖縄) 昨年度末だったと 思うんですが、やっぱり技術移転の問題を含め て、一度うつ病だけ打ち切りという報道もあっ て、私もその当時取材をしたんですけれども、 民間への技術移転を含めて時間をかけて存続へ 向けた動きというのがあって、本年度もセンタ ーでのうつ病デイケアが実施されていると思う んですが、県としては今後どのぐらいの期間で、 センターのうつ病デイケアのプログラムという のを民間にどんどん移していくという具体的な 年数の話は出ていらっしゃるんでしょうか。
○垣花課長 技術移転計画を策定しているの は、精神保健福祉センターで所長を中心にして やっておられますけれども、何年でできるかと いうのは条件がございますし、また、技術移転 ということが、現在やっているうつ病のデイケ アの形をやることが技術移転なのか、それとも 診療の形のプロセスの中でやることも含めてや るのかというふうなことについては、まだ十分 に検証がされていないということです。
現在は移行があるのかどうなのかという実態 を把握しないといけませんので、そこのところ を今現在分析しているところです。ですからま だ目途はついていません。
○司会(玉井) 非常に大きな問題ですけれ ども、ほかに何か質問ありますか。
○佐伯(NHK)
NHKの佐伯と申し ます。
先ほど来の説明の中 でもLife Link さんの データがよく出てくる わけなんですけれども、 こういった問題で先ほ ども警察の統計の話もありましたけれども、や っぱり民間のNPO との連携というのは実態把 握の上では有効になるかと思うのですが、特に これだけ県内特有の事情もあるといわれている 中で、県内で連携が図れているような民間レベ ルの団体であるとか、先ほども「分かち合いの 会」がもうすぐできるという話もありましたけ れども、そういう民間レベルでの動向というの はどのような状況になっているんでしょうか。
○垣花課長 多重債務の部分で、県の県民生 活相談センターの対応をしているのは、NPO の生活の相談委員の皆さんですね。この皆さん は地域でやっています。それから連絡協議会の 中で民生委員・児童員協議会のところの皆さん にご参加いただいております。さらに労働組合 の皆さんとか、やはり民間の皆さん、地域の中 に根を張っている皆さんとは提携をしていきた いというふうなところで、今、委員としてご参 加いただいているところです。
○司会(玉井) 新垣先生。
○新垣(医師会)
中部地区医師会から 来た新垣です。県の取 り組みは何年前ぐらい から行われたんですか。 19 年の大綱ができてか ら始まった、すごくこ れは新しい事業なのか。 それとも10 年ぐらい長いスパンでずっと継続 的にやっているお仕事なのか。というのは、僕 もちょっと自閉症とか、そういったところで統 合医療のほうにかかわっているものですから、 キレーションセラピーとか、栄養面から改善が できないかというところに取り組んでいるの で、今回このアナウンスを受けて申し込んで、 きょうこの場に参加したんですけれども、県と してこれだけ素晴らしい取り組みをやっている というのは初めて聞いたものですから、そこら へんの取り組みと、今後の方向性として、実は 栄養面からのアプローチというのが今、アメリ カを中心に、水銀が体内に溜まることによって 自閉症が多いと。それがまたつながってくる。
例えば先々週、沖縄に栄養学の先生を呼ん で、中部地区医師会で講演してもらったんですけれども、沖縄の風土の中でやっぱりアルコー ルをすごくたくさん飲むと。1 人当たりのアル コール摂取量というのはすごいものがあって、 そうすると当然ビタミンB 群がすごく消費され て枯渇すると。それを補うだけのきちんとした 栄養を摂っていないから、ビタミンB 群不足 で、特にナイアシンが不足すると精神的にうつ になる。あるいは統合失調になりやすいという ことを言っていらっしゃる精神科の先生もいら っしゃるんだという話を聞いたものですから、 今日聞いた中では食のほうからのアプローチが 全くなかったものですから、もし予算があれば、 1 つの対策としてそこらへんのところも入れて いただけるといいんじゃないかと感じました。
○垣花課長 まず、自殺対策という限定的な テーマでセクションを決めてやったのは、17 年 度ぐらいからだと思っております。ただ、沖縄 県においては、長寿で健康な島・沖縄というこ とで、それが「26 ショック」ということで男性 の寿命が落ちたというふうなところから、もう 少し健康増進というのに考えなければいけない んじゃないかというふうなところのショックも ありましたけれども、沖縄では「がんじゅうプ ラン」と言いますか、「おきなわ健康21」とい うプランをつくっておりまして、その中で実は 自殺の問題についても対策を総合的にやらなけ ればいけないと。ですから自殺だけが突出して やっているのではなくて、沖縄県の健康増進を 図っていく。食育の問題もそうですし、それか ら農林の原産と原材料の問題もそうですし、そ れはすべてトータルとした形で沖縄の健康の増 進を進めていくというふうな取り組みはやって おります。
ただ、役所で「おきなわ健康21」を所管し ているのが健康増進課で、私どもが同じ福祉保 健部ではあるんですが、障害福祉課のほうで自 殺の対策をしている関係で、自殺の予防という ふうなことでは今のような行動計画になってい るんですけれども、トータルとしてそこも含め た形で健康増進は進めていくと。
ちなみに、健康21 の中で、現在の自殺者が ゼロになった場合は、平均余命が1.1 長くなる というふうなことになっておりますので、かな りの大きな力になるということで取り組んでい るところです。
先生がおっしゃられた食育も非常に力を入れ ておりまして、保育所ですとか、学校とか、こ れらも含めて進めていきたい思っています。
今、メタボ体操ということで、県庁の中でも 進めておりますけれども、ぜひそれも進めなが ら健康増進にするということで、福祉保健部と しては進めております。
○司会(玉井) マスコミのほうから何かあ りませんか。
○金城(週刊レキオ)
週刊レキオの金城で す。自殺というのは自 殺した本人よりも遺さ れた家族のほうの心理 的な負担、悔いという か、いろんなものが多 いと思います。そうい う方面への取り組みと いうのはされているんでしょうか。
それと、自殺報道のガイドラインを読みます と、もっともだというような気はするんですけ れども、報道すると自殺が増えるというような 解釈もあります。そうじゃなくて、もっと個々 のケースにわたって、例えばこういう自殺報道 をしたからという、もっと読み物のストーリー としてまとめられた研究というんですか、何か ないんでしょうか。そういうものがあればちょ っとご紹介いただきたいんですが。例えば自殺 予防メディアとか、自殺と報道についてのもう 少しまとまった研究はないんでしょうか。
○近藤教授 私が知っている事実として、自 殺に関する手段を含めた報道を行うと一時的に 群発自殺が増えるという海外の報告データがあ ります。
本来は、どのような報道をするとそれほど群 発も起こらないのか、とか、ポジティブな報道 をすると自殺が減るのか、などの報道内容の効 果を検討する研究もあっていいと思うのですが、なかなかそういったポジティブな研究は見 当たりません。それで、2000 年のWHO のメ ディアへの勧告という形の指針で終わっている ところがあります。
報道ガイドラインは、群発自殺を招かないた めの最低限のラインを示しているだけですので、 メディアの方にはもう少し前向きでポジティブ なメッセージを、自殺が起こる、起こらないに かかわらず、発信していただいたり、キャンペ ーンをはっていただければありがたいと思いま す。これは、報道各社の裁量により限りもある でしょうが、私たち関係者は大いに期待してお ります。
○上里主任技師
すみません、ちょっと追加させていただきた いんですけれども、先日メディアのほうで自殺 についての報道があって後に、相談機関はこう いうところがありますよ、精神保健福祉センタ ーも相談できますよということで、番号も併せ て報道をしていただいたことがありました。そ の後に未遂を繰り返していらっしゃるご本人さ んからセンターにお電話をいただいたというこ とがございました。だから自殺の報道をされて 後に、相談機関、きょうお配りしているパンフ レットの中にありますので、番号も一緒にご紹 介していただけると有難いと思っております。
それから、自死遺族のことにつきましては、 皆様にチラシをお配りしてありますが、現在の ところ毎月第3 土曜日にセンターのほうで「分 かち合いの集い」をやっております。
○司会(玉井) 石川先生、いかがでしょうか。
○石川(医師会)
今帰仁診療所の石川 です。
11 月に自閉症の方の ニキ・リンコ先生の講 演会を予定しているん ですけれども、その中 で、今、私もちょっと 本を読んでいるところなんですけれども、うつ とか不安が画像診断、脳の機能障害なので、そ れをIR を注射してCT で撮影をする。それを 10 年前くらいからやってアメリカのダニエル・ エーメン・クリニックというところがあるんで すけれども、それで見ると不安とかうつが脳の 基底核、辺縁系、側頭葉、帯状回、皮質の5 つ の場所の過剰活動、あるいは機能不全が影響し ている。特にアルコールとか薬物によって皮質 の機能低下とかがみられるとか、そういう脳の 精神疾患を画像診断しているらしいんですけれ ども、それで薬物の使い方も特に側頭葉の過剰 のときには自殺が多いとかいうふうなことがあ って、それとまた行動パターンが非常に一致す ると。ですからある程度問診でどこの過剰か、 どこの機能不全かがわかるというようなことを 言われていたんですけれども、ちょっと私も勉 強をしている状況で、もしそのへんのところを 今後、取り組まれるのでしたらぜひ取り組んで ほしいと思うんですけど。
○近藤教授 最先端の画像研究で、うつの病 態が明らかにされようとしています。うつの場 合、側頭葉の過剰活動は負の情動が活発に動い ている状態を反映し、前頭機能の低下は負の情 動をコントロールする活動が低下していること を示す、とされています。ですから、負の情動 が優位になって、それを認知的に補正できない という病態が脳機能画像にも現れており、納得 のできる結果です。これを診断的に活用すると すれば、状態像としてのうつの病状がこのよう な脳機能の活動になっていることを、患者さん に目で見てもらいながら説明することができる かもしれません。また、治療による改善につい ても画像的に客観的に提示できるので、治療の 指標としても非常に有効な方法ではないかと思 います。
閉 会
○司会(玉井) 議論は尽きないんですけれど も、重層的なアプローチが必要だということ で、一番最後に小渡副会長のほうで閉めの言葉 をいただきたいと思います。よろしくお願いし ます。
○小渡副会長 皆様、大変お疲れ様でした。
この自殺問題については、その原因が多岐に わたっているため、その対策についても議論は 尽きませんが、県が策定した自殺予防対策を着 実に実行し、市民一人ひとりがこの問題に関心 を持ってもらうことが大事であると思います。 また、うつ病についてもこの病気のことを多く の人に理解してもらい、精神科に対する社会的 偏見を無くすような啓発を行い、早期に受診に 結び付けるような努力が必要であると思いま す。国も自殺総合対策大綱を策定し、県も自殺 に対して網羅する形で取り組んできておりま す。我々医師会もここ数年にわたり、公開座談 会や自殺予防フォーラム等を行い、広報活動を 行っております。
本日は近藤教授に自殺についての統計的な資 料、後半ではマスコミへの要望や報道に関する 配慮して欲しい点についてまとめて報告して頂 ました。そして垣花課長からは、県の現在の取 り組み等々について詳しく説明して頂き、また 上里主任のほうからも現状の問題やリーフレッ ト等について説明して頂きました。医師会とし ても、今後も出来るだけこの問題に取り組んで 行きたいと思います。
本日は長時間にわたり、いろんな角度から議 論をして頂きまして、ありがとうございまし た。今後とも宜しくお願いします。
○司会(玉井) どうもありがとうございま した。