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平成20 年度第1 回マスコミとの懇談会
「後期高齢者医療制度」について

玉井修

理事 玉井 修

平成20 年5 月21 日、那覇市医師会館におい て、マスコミ関係者10 名を迎えてマスコミと の懇談会が開催されました。「後期高齢者医療 制度について」というテーマはかなり社会の関 心が高く、マスコミからの発言も非常に活発で した。今回の懇談会の内容は後期高齢者医療制 度に関して、さらに後期高齢者診療料、後期高 齢者終末期医療相談支援料、在宅医療に関して と、かなり幅が広がり、懇談の内容も濃密であ ったと思います。生きること、老いること、そ してやがて死にゆくことといった人の生き方の 本質に迫る問題は医療関係者、マスコミ関係者 の垣根を越えた人本来の存在への問いかけで す。まさしくお互いの立場を越えた議論が出来 たと思います。今回の懇談会は出来るだけ発言 者の言葉をそのままお伝えしようと思います。 少々長くなりますが、現在耳目を集める社会問 題であり、沖縄では特に深刻な問題であります のでじっくり読んで頂きたいと思います。そし て、今現在社会全体に重くのしかかっている閉 塞感をどう理解し、少しでも良い方向に導いて いけるのかを考えてみたいと思います。格差社 会と言われる現代、社会の中に沈みはじめたら もう浮き上がってはこられないとしたら、この 漠然とした不安感は社会不安となってあちらこ ちらに悲惨な現実となって露呈していきます。 社会的弱者をいたわる社会、努力が報われる社 会、懸命に生きようと努力している人に対して 素直に賞賛を与える社会であってほしい。人の 温かさが失われ、冷え冷えとして、ギスギスし た世の中です。モンスター○○などといった自 己中心的な生き方が幅をきかせて、社会を席巻 するのは何かが狂っています。今回の懇談会の 様な意見交換があらゆるチャンネルで活発に行 われる事が大切だと思います。人に許されたの は、他人を許す事だけだと強く思います。

懇談内容

開 会

○司会(玉井) まず、本会を代表いたしま して、宮城信雄会長よりご挨拶をお願いいたし ます。よろしくお願いいたします。

挨 拶

○沖縄県医師会長 宮城信雄

宮城信雄

皆さん、本日は非常 にお忙しい中、当懇談 会に出席をしていただ きましてありがとうご ざいます。

今回は、非常に皆さ ん関心がある後期高齢 者医療制度について懇 談をさせていただきたいと思います。

この制度は4 月からスタートしております。 しかし、「消えた年金問題」と絡めて年金から 保険料を天引きするというような問題で、非常 に世の中が騒然としてきております。この不満 が渦巻いているという状態にあります。そうい うことを受けて、中央でもこの制度の見直しを しようとする話が出てきております。

この後期高齢者医療制度は、実は日本医師会 が提案をした制度です。後期高齢者医療制度と いうのは別立てで新たな制度を創設すべきだと いうのは、8 年前の日医のグランドデザインの 中に書き込まれているわけです。

ただ、中身は日本医師会が提案したものと随 分変わってきているということで、そのことに ついては医師会の案に沿った見直しを求めてい くべきだと考えております。そういう意味で、 後期高齢者医療制度はどういうものか、皆さん と一緒に考えていきたいと思います。

甚だ簡単ですけれども、挨拶にしたいと思い ます。ありがとうございました。

○司会(玉井) ぜひ県民のためにポジティ ブな何らかの活動ができるように協力させてい ただきたいと思っております。

では、宮城会長に後期高齢者医療制度につい て詳しくお話しいただきたいと思います。よろ しくお願いいたします。

懇 談

スライド1

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後期高齢者医療制度について 宮城信雄会長

この後期高齢者医療制度ができた背景につい て、なぜ日本医師会は別立てで後期高齢者だけ の保険制度を創設すべきだという提案をしたか ということを話したいと思います。

平成12 年8 月に日本医師会は、グランドデ ザインというのを出しております。きょうここ にお示しする資料というのは8 年前の資料です から、非常に古いものです。ご了解をしていた だきたいと思います。

スライド2

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これは年齢区分別人口の年次推移です。これ でもわかるように高齢者の比率が急速に増え続 けるということです。2007 年をピークに人口 が減っていくにもかかわらず、高齢者は増え続 けるという予測です。その中でも75 歳以上の いわゆる後期高齢者の人口が増え続けるという ことです。若年者は逆に減ってくるということ です。こういうことが日本の国で起こりますよ ということです。

皆さん、後期高齢者を、なぜ75 歳で分ける のかという疑問があるのですが、いわゆるいろ んな統計を出してくるときに、これは随分前か ら75 歳以上という形でやっているわけですね。 ですから75 歳以上が突然出てきたというもの ではないということです。

スライド3

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これは要介護高齢者の発生率です。これを見 てもわかりますように、75 歳以上になると急激 に寝たきりの高齢者が増えるということです。 それまでと比べて倍近くに突然増えるというこ とです。それは年齢と共に増え続けていくとい うことです。こういうデータがあるわけです。

スライド4

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高齢者の年齢別階層別に見た入院です。こ れは医療機関です。老人保健施設、あるいは 特養の割合ですけれども、医療機関でも75 歳以上の入院の比率というのが7 割ぐらいあ るということです。特養、老健であればもう8 割、9 割。老健も特養も入所している方、あるいは長期入院し ている方の大半 が75 歳以上とい う実態があるわけ です。

(スライド5) この資料の中に 「OECD 諸国の1 人当たりのGDP 比と65 歳以上の 人口比」という のがあります。日 本は4 番目のとこ ろにあります。こ ういう比率にな っているというこ とです。

スライド5

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人口が高齢化するに伴って当然、医療費とい うのは増え続けていくわけですが、日本という 国は、高齢化率では非常に高いにもかかわらず 医療費というのは低く抑えられているというこ とです。ですから高齢化が進んでいるにもかか わらずGDP あたりでは日本の医療費は安いと いうことです。

スライド6

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それから、入院医療費と対前年比伸び率の年 次推移ということですが、入院医療費が増え続 けているように見えているんですが、対前年比 でいうと、そんなに伸びてないわけです。これ は医療費を抑制してきた結果なんです。日本という国は医療費をずっと抑制してきました。で すから伸び率で言うと、20 %以上伸びていた 時期もあるんですけれども、最近は伸び率は限 りなくゼロに近い。対前年比で言うと伸び率は ほとんど伸びていない。これはいろんな制度改 革をして医療費を抑制してきた結果なんです。

スライド7

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これは外来の医療費の伸び率です。これも一 緒です。伸び率に関して言えばマイナスになっ た時期もあるということです。これもずっとこ の傾向は続いているということです。入院につ いても外来についても医療費を抑制してきた結 果、伸び率はかなり抑えられてきています。

スライド8

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老人医療費と国民医療費の推移ですけれど も、これははっきりしないのですが、下のほう が老人医療費です。全体も伸びていっているん ですけれども、老人医療費の伸びというのが非 常に大きい。特に75 歳以上の医療費というの が急激に増えてきているという傾向がありま す。これでははっきりしないんですけれども、 75 歳以上に分けるとそういう傾向がはっきり するということです。

スライド9

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国民医療費と老人医療費、これもそうです ね。8.5、9.0、9.5 ということで75 歳以上の医 療費が増え続ける。平成17 年までですけど、こ の傾向はもっともっと続いていく。75 歳以上の 高齢者の人口が増え続けているという資料をお 見せしましたら、この傾向がもっと加速度的に 増え続けるだろうという予測がされております。

どういう形で制度が変更したかということで すが、高齢者は老人医療というのがあったんで すけれども、75 歳以上は別立ての保険制度にもってくると。これが新しいいわゆる後期高齢 者医療制度ということです。ほかの保険はその ままだということです。

スライド10

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スライド11

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これが今年の3 月までは老人医療制度という のが、ここの中に組み込まれてあったんです が、75 歳以上は別立てにしますよということ です。これが現在の後期高齢者医療制度ですけ れども、日本医師会がこれを別立ての制度にす べきだという提案をしたのは、先ほども言った ように、医療費がずーっと増え続けていく。75 歳というのはほとんどの方が病気になる。病気 をもっているということから、保険制度という ことではなくて、社会保障、「保障」という形 でとらえるべきだということで、日医は提案を したときには、公費を9 割入れるようにという ことを言っているわけです。

ただ、実際に国が出してきた制度はどうなっ ているかというと、日医が9 割公費で持つよう にという提案をしたにもかかわらず、国は5 割しか持たないということですね。自己負担とい うのは保険料は10 %、ここにあるように公費、 税金は50 %、その区分というのは国が4、都道 府県が1、市町村が1 ということでこの割合で 50 %は税金で持ちますよと。1 割は保険料、4 割はどこから持ってくるかというと、保険者、 医療保険者、健保組合、国保組合から4 割をこ こへ支援金として出すということになっている わけです。ですからこの保険者というのは若年 者ですよね。いわゆる65 歳以下の方たちが医 療保険を出しているんですけれども、そこから 上にあげていくということです。ですから若年 者のほうにも負担を強いているということで す。これは65 歳じゃなくて74 歳の方たちから 上へあげるということです。これが後期高齢者 の費用の4 割をここで持つということになって おります。

スライド12

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これは日医が提案していることですけれど も、まず後期高齢者医療制度というのはどうあ るべきかということで日医は出しております。

1.目的:国民が「格差」に苦しむことなく安心 して高齢期を迎えることができるよう、公平な 医療を受けられることを約束する。

2.対象: 75 歳以上。(以下、75 歳以上を「後期 高齢者」という)。

3.保険者:保険者は都道府県を単位とする。

4.理念:後期高齢者は疾病が発症するリスクが 高く、保険原理が働きにくい上、保険料、患者 一部負担は後期高齢者にとって大きな負担にな る。したがって、後期高齢者が所得格差の不安なく過ごせるよう、国は「保障」の理念の下で 支えるべきである。

5.財源:「保障」の理念の下、給付割合を高 め、財源には公費を重点的(医療費の9 割)に 投入する。公費は原則国庫が負担し、財源の地 域間格差が生じないようにする。

「高齢者の医療の確保に関する法律」によ り、2008 年4 月の公費負担割合は給付費の5 割でスタートするが、これを段階的に引き上げ る。また、これに伴い後期高齢者支援金(従来 の老人保健拠出金)は廃止する。

保険料と患者一部負担は合わせて医療費の1 割とする。保険料の一部は所得に応じた負担と し、極力地域間格差が生じないような対策を講 じる。患者一部負担割合は所得によらず一律と し、さらに将来の引き下げを検討する。

6.診療報酬:外来は出来高払いとする。入院も 原則出来高払いとし、慢性期の一部を選択性の 包括払いとする。いずれの場合も、個々の病態 に配慮しない画一的な支払い方式に陥らないよ う柔軟な対応を行う。

地域間格差を助長しかねない都道府県単位の 特例診療報酬の設定は認めない。

2 年前にこの法律はできているんですが、残 念ながら衆議院で論議をしたときに日医はほと んど意見を言っていないんです。2 年前はどう いう状況だったかといいますと、ちょうど会長 選挙があったときなんです。植松前執行部の対 立候補として東京都医師会の会長が1 月に立候 補を表明したわけです。1 月に立候補を表明し て4 月の選挙まで日医は選挙運動、会長選挙を やっている。こういう重要な法案というのが、 国会、衆議院で論議をされているときに、医師 会としてはこういう考え方をもっているにもか かわらず、あまり法案の見直しを言わなかった という経緯があります。

ただ、日医の選挙が4 月に終わり、衆議院か ら法案が参議院に送付されたときに、やっぱり この関連法案というのはいろいろ問題があるか らということで、21 項目の付帯決議を付けさ せている。その中身は、今、予測されるような事態が起こらないような付帯決議になっている んですね。激変緩和とか、それから制度を十分 説明するようにとか。そういう付帯決議をつけ させているわけです。

ただ、残念ながら医師会が主張したような法 案にはなっていません。新しく後期高齢者医療 制度というのは別立てで創設すべきだという提 案は、日本医師会はやったわけですが、これは なぜかと言いますと、医療費がどんどん増え続 けていって皆保険制度の維持が難しくなること が予測される。特に75 歳以上の高齢者は、先 ほど言いましたように、ほとんどが病人です。 ほとんどが病人というのは、これは保険という のには馴染まないだろうということです。保険 というのは何か起こったときにお互いに助け合 って保障するというのが保険ですけれども、全 員がほとんどが病人であれば、これはもう保険 では成り立ちません。ですから日医としては保 障制度という考えで、国の公費を別立てで9 割 入れるべきだという提案をしているわけです。

実際に9 割税金で賄うことができるのかとい うことで、日医は具体的に提案をしております。

スライド13

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日医としては11 兆円のうち、公費は10 兆円 公費で持つ、税金で持つようにと。保険料の自 己負担は1 兆円ということを言っているわけで す。この保険料自己負担18 兆円というのがあ って、19 兆円に医療費があるわけですけれど も、日医の案でいきますと、1 兆円足りなくな るわけですね。下のほうに書いてあるように、 保険料率の公平化。それから上限の見直しで1兆円は出てくるだろうということを言っており ます。

もし、医師会の提案どおりにこの保険制度が 出来上がっていたら、こんな大きな問題は起こ ってないというふうに考えております。

それともう1 つ、75 歳以上の後期高齢者に入 った方は医療が制限されるのではないかという ことで姥捨山とか、もう治療は打ち切りだと か、いろんなことが言われておりますが、これ は診療報酬制度との関連なんですね。後期高齢 者の診療報酬の内容が決まったのは今年に入っ てからですが、保険料はもう2 年前から決まっ ていたわけです。どういう形で徴収するかとい うのは決まっていたわけですけれども、医療費 はどうなるのか、診療報酬がどうなるかという のは、ほんのつい最近わかったことなんです。 診療報酬が改定され、公になったのは3 月なん ですよ。ですからどういう中身になるかという のは3 月までわからなかったということです。

みんなが問題にしているような「後期高齢者 管理料」というのがあるんです。これはいわゆ る「かかりつけ医」というのを1 人決めて、そ こへ行って管理料を算定すると、ほかの医療機 関へ行った場合はそこでは管理料は算定できな いというような、非常に受診が制限されるよう な管理料になっているんです。

それについてはいろんな医師会が反対を出し ております。これは受診抑制になるし、診療の 制限になるということです。これは後期高齢者 医療制度とは関係なく、中医協で決まってきて いる診療報酬です。

それともう1 つあります。末期について本人 の意思確認をしたときに2,000 円という、これ も診療報酬点数がついているんですけれども、 これも「早く死ね」ということなのかと言われ ているんですけれども、これも本当はそういう ことではなくて、死をどういう形で迎えるかと いうのは、これは非常に大きな問題なんです ね。死をどういう形で迎えるかというのは、生 をどう生きているかと同じぐらいですけれど も、助からない方に対してもあらゆる治療をやっている。はたしてそれでいいんだろうか、そ れを本人が望んでいるんだろうかということ で、具体的に亡くなるときに自分はこういう形 で亡くなりたい、人工呼吸器も付けてほしくな い等、いろんな考え方があるはずなんです。そ れは診療報酬とは関係なく本来は医療の現場で 論議をされなければいけなかったんですね。そ れに点数がついてきたということで、「早く死 ね」というのを誘導しているという誤解につな がってきているわけです。本来はそういう意味 ではなかったということです。

質疑応答

○司会(玉井) 宮城会長、どうもありがと うございました。

マスコミの方に1 つお聞きしたいんですけれ ども、この後期高齢者医療制度に関して皆さん が現場とか、また、取材の現場で感じられてい る、例えば社会不安、渦巻いているいろんな不 満、不安、そういうものは75 歳以上の方たち が制度的に区分されるということの疎外感なん でしょうか。それとも年金から差し引きされる 経済的な問題なんでしょうか。こういうところ は実際、現場でどういうふうな感覚をお持ちな のか。もし、よかったらそのあたりを聞かせて いただけないかなと思っておりますけれども、 マスコミの方から何かご発言ないですか。

○玉城(琉球新報)

玉城(琉球新報)

今の取材で感じる不 安や不満ということで すが、実際75 歳以上の 高齢者がこの制度を理 解できるのかというと ころがまず問題で、こ の制度が始まる前後ぐ らい、特に保険料が決まってからなんですが、 その後からマスコミ報道も負担が増えるだとか というのが出てきて、高齢者としては制度に関 してはよくわからないが、マスコミが騒いでい て負担が増えるらしいぞ、自分たちは「姥捨 山」のように扱われるんじゃないかという、何となく不安をあおられているというのがまず1 点です。

実際、経済的な問題としては、特に低所得 者、これは後期高齢者医療制度だけの問題では ないかもしれないんですが、実際、今、生活が 大変なのにこれから負担を強いられた場合にど うなるのかという不安の2 点になるのかなと思 います。75 歳以上に関してはですね。私が取 材してみての感想です。

○司会(玉井) ほかに何か違うご感想を持 っていらっしゃる方はいらっしゃいますか。い かがでしょうか。

タイムスの黒島さん。玉城先生を取材されたん じゃないですか。そのへんはどうなんでしょう。

○黒島(沖縄タイムス)

黒島(沖縄タイムス)

「きのうまで74 歳、 きょうから75 歳、私の 何が変わったんだ」と いうのはあるようです。 病を持っている人は続 けて病を持っているわ けですし、健康な方は 続けて健康なわけですね。皆さん相対的に徐々 に体力が衰えていくということは、老いを重ね るごとに感じていますけれども、それにも個人 差があるという中で、やっぱり区切られるとい うことに1 つの拒絶反応というのは大きくある と思うんです。それは自分が例えば75 歳にな ったとしても今の状況はやっぱり疑問には感じ るんだろうなという気はします。

○司会(玉井) 漠然とした不安があると。

○黒島(沖縄タイムス) はい。漠然とした と言えば漠然としているんですけれども、多分 意識として根源的なところの不安だと思いま す。そういうことというのは、例えば日本医師 会が説明したように、75 歳からは例えばよく なるというような説明でなければ誰も納得はで きないんじゃないでしょうか。

○司会(玉井) 社会保障という考え方です よね。

病院の先生方から何かありますか。現場ではどういう混乱がありますか。また、いかがでし ょうか。ご苦労もされているとは思いますがい かがでしょうか。

○山里(医師会)

山里(医師会)

うちの診療所で実は4 月の診療報酬のあては め作業をやってみたん ですよ。実際に外来で 診ている後期高齢者の 方の診療報酬を今まで の出来高払いでやった ときと、後期高齢の診療料で算定したときにど うなるかということをやってみたら、まちまち なんですね。出来高払いで必要な医療、検査と かいろいろやる人は、後期高齢者の診療料をや ると、患者さんのほうの負担が減ってしまうん です。医療機関は逆に持ち出しになってしま う。逆に割と落ち着いていて特別なことをやら なくてもいい方は、逆に患者さんの負担が増え て、診療所の収入が増えるということで、患者 にとっても医療を提供する側にとってもどうも 出来高じゃないということの矛盾が非常に大き いんじゃないかなというのが実感ですね。

ですから日医のほうは社会保障としてこの制 度を見直しをして、公費をもっと入れて患者の 医療費の負担を減らして、しかも基本的には出 来高でというような提案をしていますよね。そ のとおりにやられたら、多分こういう大きな問 題は起こらなかったと思うんですけれども。ど うもこの制度の当初の狙いが医療費の適正化、 要するに医療費を抑えたいというのがやっぱり 厚生労働省の本音じゃないかなと思いますね。 ですからその延長線上にこの診療報酬の設定が されて、点数の設定が多分600 点という形にな ったものですから、一人一人に合ったきめの細 かい医療の提供が現場では非常に難しくなっ て、必要だが検査を控えてしまうとか、逆に患 者さんから「大したことやってないのに、なん でこんなに点数上がるの」という形で、医療を 受ける側からも、提供する側からも、納得がし づらいような制度じゃないかなというのが実際 にあてはめ作業をやってきての私の実感なんで すね。日本の医療というのは、これまでそれぞ れの専門の分野で実績を積んで、それが外来を やって、その専門性のところで患者さんに医療 サービスを提供して、必要な医療をやって、出 来高によって診療報酬が決まるということでし たら、これをいきなりこういう制度で変えてい くのは、私は相当無理があるんじゃないかなと 思っているんですよね。

ですから、将来、包括的に高齢者の医療を担 うような医者を教育して、そういう時代を経た 後であればまだ矛盾はないんでしょうけれど も、今までの制度にいきなりこういうものを持 ち込むというのは、相当現場は混乱していま す。患者と医者の信頼が壊れていく危険性、医 師同士の連携も非常にまずくなるんじゃないか なというような気がしております。そういう点 では、今、宮城会長から説明があった日医の提 案とは似ても似つかないような制度になってい ますし、全国的にも医師会でその廃止を含めて 見直しというような声が相当広がってきていま すから、やっぱり私はこれはもう少し日医の提 案が真面目に検討されて、本当に国民のために なるような医療制度に変えていくことをやらな いと、医者も患者も大変困るんじゃないかなと いうのが率直な感想です。

○司会(玉井) ご発言、ご質問ありません でしょうか。

○黒島(沖縄タイムス) 日医の提案の中 で、一般は保険料と自己負担19 兆円とありま す。保険料と自己負担については一般は公費を なくしてということですが、これは例えば保険 料がそのときは一般の方はどのぐらい上がりそ うだとか、例えばここの中で上がってくるのは これまでに国が下げてきた企業の負担になるん ですね。企業の負担がどのぐらい上がるのかと いうような詳しい試算とかというのはないんで すか。

○宮城会長 今、一般のほうに公費が5 兆円 入ってきているんですね。しかし、そのうち4 兆円は後期高齢者のほうに支援金という形で出ているわけです。と言うことは、一般のほうに は1 兆円しか入ってない。4 兆円を後期高齢者 の支援金として出す代わりに、日医としては一 般の公費負担分5 兆円をそのまま後期高齢者へ まわして公費を10 兆円に増やすということで す。そのかわり一般には公費は入れない。公費 を入れなければ差額の1 兆円が不足するわけで す。その1 兆円を生み出す方法として、先ほど 言った料率の公平化。保険者間の保険料です ね。保険料には非常に大きな差があるんですよ。

皆さん、どの保険に入っていますかね。

○黒島(沖縄タイムス) 政管健保です。

○宮城会長 政管健保。政管健保は非常に料 率が高いんですよ。ただ、大きな組合の料率は 低く抑えられているんですね。ですからそれを ならしていけば、1 兆円は出てくるという計算 です。

それだけではなくて、先ほど言ったように、 例えばある一定の所得がある人は保険料という のは頭打ちになるわけですから、それを少し上 げるということです。頭打ちの額を例えば、年 間所得が1 億円あっても、2 億円あっても、 1,000 万円あったとしても保険料というのは上 限があるわけですから問題がある。ですから多 く所得がある人については少し上限をアップす ることによって、この1 兆円が生み出されると いうことなんです。

ですから公費、税金を9 割入れたとしても、 この制度は成り立ちます。今までわりと優遇さ れているところから保険料を徴収することによ ってできるということなんです。

先ほど山里先生が言った保険制度と診療報酬 というのは、また少し別なんですよ。日医が警 戒をしているのは、診療料というのは後期高齢 者管理料という形で診療報酬で点数が決まった んですけれども、これは導入されてすべてに波 及していったら非常に困る。一般にもすべて。 ということは、外来は診療所でしか見れないと いう登録制にして、そこでしか診療は受けられ ないという方に移行しようとすることに非常に 警戒しているわけです。ですから基本的には後 期高齢者医療制度であったとしても、医療の提 供に関しては制限をしないようにということを ずっと言っているわけです。

○小渡副会長

小渡副会長

宮城会長から説明が あったように、財源を どのように確保するか、 負担の在り方をどのよ うにするかが問題です。 負担のあり方に応益負 担と応能負担がありま す。応能負担はその人の能力(所得)に応じて 負担する、例えば所得の高い人は高いなりに負 担するという方法です。現在は応益負担の形を 取っていますが、これは自己責任という形をと るので、どの人も負担して下さいという形にな ります。小泉改革の基本は、アメリカ型の自己 責任型で小さな政府を目指したので応益負担に なっているわけです。そうなると今回のよう に、年金の少ない人からもそれ相当の金額を天 引きすることになり、今、社会問題になってい るわけです。今後はその応能負担か応益負担で やるかについては、充分な議論をして検討する 必要があると思います。

それからこの制度についてマスコミは、何故 75 歳で区切るのか、それはまるで姥捨山では ないか、何故年金から天引きするのかという点 ばかりを強調して議論をしているように思いま す。75 歳というのは、老人保健の統計的な数 字から出てきた一つの区切りです。これは、何 故成人が20 歳からか、定年が60 歳からかとい うことを議論していることに似ており、あまり 意味があるとは思えません。また年金からの天 引きは、集めやすく、確実性があり、集める経 費も少なくて済むという理由で、全国の市町 村でも国に要望しています。すでに介護保険 でも、我々の社会保険も天引きがされていま す。ただし、今回これがクローズアップされ、 高齢者から不満が多く出たのは、失われた年 金問題で年金の支払いもきちんと整理がつか ないままに、天引きの話がでたのが大きいと思います。また、少ない年金で生活している人か らも、先ほど話した応益負担の考え方で天引 きすることに不満が爆発したと思われます。さ らに今まで扶養家族が支払っていた人も、今 後75 歳になると保険が別立てになるという家 族を分断するようなイメージを与えたことが問 題だと思います。しかしこれらは、この後期高 齢者医療制度を作らなければいけない理由と しては本質的な議論ではないように思います。 マスコミはもっとこの制度が必要かどうかの本 質的な部分を取り上げて、国民的な議論にし て欲しいと思います。

この制度が出来た背景は先ほど会長から説 明があったように、総医療費33 兆円のうち約 11 兆円が65 歳以上の老人医療費であり、その うち75 歳以上の人が9.5 兆円を使っていると いうことです。その内訳は殆どが入院による医 療費です。このような状況を勘案して、国は2 年前にこの制度を含めた医療制度改革を行い ました。そして療養病床の削減を行い在宅医療 への転換を図っています。これは高齢社会の医 療のあり方を議論するというより、単に高齢者 の医療費を抑制する一つの手段として在宅医 療型を持ち出して来たようにも見えます。国は 高齢者の医療の制限を行うというものではない と主張しているが、この辺はマスコミも国民も しっかり見極めて行く必要があると思います。 この制度に伴って在宅医療型が良いのかどうか を、マスコミは国民にもっと問うべきだと思い ます。後期高齢者医療制度はそういう意味で これからの医療のあり方について、国民が関心 を持つ大きなきっかけになったと思います。マ スコミもその点に着眼して報道をして頂きたい と思います。

○宮城会長 制度がスタートしたというのは 今年の4 月ですけれども、これはすべて予測し ているわけですよ。医師会はこういう考え方を もっているんですよと。もう1 年以上前にこう すべきだということは言っているわけですよ ね。だけどなかなかそのときはマスコミも取り 上げていないわけですよ。こういう事態になる だろうということを言っているわけです。

先ほど小渡先生が言ったように、後期高齢者 医療イコール在宅医療、これから脱却すべきだ と。そういう考え方で国は進めているけれど も、そうあってはいけない。みんな家で亡くな りたいというのは理想かもしれないんですけ ど、現実はそうじゃないということですよね。 すべて医療費抑制のほうへ抑制のほうへという 形で政策が組まれていっているものですから、 問題が非常に大きいということです。それにつ いてはきちっとあるべき姿、基本的な考え方と いうのは述べてありますので、その中から今の 制度というのを検証して、どうすべきかという のは出てくると思います。

○司会(玉井) 見えにくい話もあったかも しれませんけれども、マスコミの方、非常にい い機会ですので率直な質問をどうぞぶつけてみ てください。

○玉城副会長

玉城副会長

75 歳以上の線引きが 今悪いほうへ向いてい るような雰囲気があり ます。75 歳になりまし たね、おめでとうござ います。これからあな た方の保障は国が責任 をもって医療費も全部面倒を見るから心配しな いで長生きしてくださいという設計ができた ら、75 歳の線引きをみんな喜ぶんですよ。で はそういう方向にはどうしてもっていくか。今、 お金がないから医療費を減らそうということに もっていったんだけど、年金にしてもすべて75 歳までお国のために、日本のために皆さん大変 頑張っていただきましたと。これから後の老後 は心配しないで生きられるように国が責任をも って皆さんの面倒を見ますという設計ができる かどうかですね。

だから今回のこの話はちょうどいい機会です から、そういうふうにするためにはどうしたら いいかという議論に変えていったらいい。先ほ ど言われたように75 歳の線引きからばら色の老後が待っているという設計ができるかどうか にかかっていると思うんですよね。

○石川(医師会)

石川(医師会)

今帰仁診療所の石川 と申します。

この制度の問題は、2 点あると思います。違 う視点からですけれど も、1 つは実際に聞いた 声なんですけれども、 国のやっていることは非常に無駄が多いんです よね。いらないところにお金を使っている。そ ういう省庁の無駄とか、国会議員の数の削減と か、そういうところでもっと国家予算を浮かせ ることもできるんじゃないのか。それをやった 上でこういうことをするのであればまだ話はわ かります。それでもちょっとやっぱり高齢者の 負担というのはかなり、年金天引きというのは かなり問題があると思うんですけれども、それ が1 つです。

それから、この後期高齢者の問題をつくり出 したのはどちらにしても5 年、10 年後には高齢 者がかなり増えてくる。その中で若い世代が高 齢者の医療費、年金をすべて負担できるかとい うと、それは絶対にできないわけですね。その ために何か手を打たなければいけないというこ となんですけれども、その中で定年が今のまま だったら絶対無理なわけです。実際には仕事が できる状態なのに仕事が終わってしまう。そう いうふうな社会の仕組みから変えていかなけれ ばいけないですね。もっともっとお年寄りに元 気になってもらうというのが一番いいだろうと 思うんです。

「葉っぱで2 億円稼ぐおばあちゃんたち」と いう本があります。この本の帯には「時給に換 算したら銀座のお姉ちゃんよりも稼いでいる よ」と書かれてあります。徳島のある村で料亭 で使用するつまの葉っぱを出すことで、それを 生き甲斐におばあちゃんたちが非常に元気にな るということです。

各地域、地域にできることはいっぱいあると 思うんです。お年寄りが元気になるいろんな方 法ですね。

実際に今帰仁でもおじい、おばあたちは野菜 をつくっているんですけれども、無農薬でつく るんですね。それも旬の野菜をみんな同じよう に無農薬でつくるものですから、つくっても余 ってしまうんです。子供たちはアメリカナイズ された食文化で野菜を食べない。どこに行くか というと畑で腐ってしまうんですね。結局はつ くる意欲がなくなって野菜づくりもしない。そ れで元気がなくなっていく。都会のおじい、お ばあたちはまた別の方法で元気になる方法はあ ると思うんですけれども、そういうふうに実際 に、おじい、おばあだけではなくて若い世代も 含めてなんですけれども、もっともっと元気に なる方法というのはあると思うんですけれど も、そういうふうなところを変えていかない と、なかなかこの問題は50 年先には非常に深 刻な問題になると思うんですね。

○照屋(医師会)

照屋(医師会)

てるや整形外科の照 屋と申します。ご存知 の事とは思いますけれ ども、今年の4 月から 「後期高齢者診療料」を 算定するか否かという 大きな問題が起こって おります。もし仮にA 診療所で算定するとB 診 療所では算定できないということになります。 しかし、「診療計画書の作成」・「定期的検査 の実施」・「指定研修の受講」など算定要件が 煩雑であること、同一月内は出来高算定が不可 であること(ただし、丁寧に説明を行い、患者 さんの同意があれば算定も可能!)、包括した 点数が600 点と低いこと、1 人の患者を1 つの 医療機関が診るということで「フリーアクセ ス」が制限されるということ・・・。このよう な難しい問題点が指摘されています。各県によ って「後期高齢者診療料」届出状況にかなりの 温度差があるようですが、このままでは、病診 連携、病病連携、診診連携、つまり医療機関同士の連携の崩壊につながるのではないかと危惧 しております。あそこで「後期高齢者診療料」 取ってしまうと、こっちで取れない。こっちで 取れないから診療できないのか・・・?と、い う事になりかねません。患者さんとドクターと の関係も重要ですけれども、医療機関同士の関 係がとても心配になりうる制度であることを、 ぜひ県民にもわかってほしいと思いますし、マ スコミの方々にもこの問題をもっと前面に出し てアピールして頂きたいと思います。

ところで、青森市の大竹整形外科の大竹進先 生から面白い川柳がメールで送られてきていま したので、本日、持ってまいりました。例え ば、「病院が消えて立派な道路でき」、「終末期 計画一体誰のため」、「楽しみを1 つ我慢で医療 費へ」、「この国は老人長生き喜べない」、「天引 き後通帳確認負担増」、「団塊の命がじゃまな厚 労省」・・・。国家予算の特別会計の中の、公 共事業や天下り問題などに使われている部分の ほんの数パーセントを、社会保障というどんぶ りの中に持ってくるだけで、いろいろな問題は 解決できるということは周知の事と思います。 75 歳以上を後期高齢者とする定義の問題や、 公費負担・自己負担・支援金の問題などが先 行して、根本的な社会保障の問題がないがしろ にされているような気がいたしますので、そこ のところを少なからず強調しておきたいと思い ます。

○當銘(医師会)

當銘(医師会)

後期高齢者医療制度、 細かい制度上の問題が いろいろあると思うん ですけれども、ただ、1 つ大きな問題点は何な のかというと、日本医 師会は国民皆保険制度 というのを一生懸命守ろうとしているわけです ね。その国民皆保険制度を守るという立場と、 国民皆保険制度はもういいんだと。もっと自由 診療制度にもっていくべきだという考え方がぶ つかり合っているわけですよね。そのぶつかり 合いの中で、今の自民党や厚生労働省というの は一貫した低医療費政策をやっていることで、 自由診療制度というのを導入したいという、非 常に大きな動きをもっているわけです。後期高 齢者医療制度というのも本来、医師会の提案と いうのはこれはもう保険制度ということではな くて、社会保障だという考えで提案したにもか かわらず、これを保険制度として皆保険制度を 突き崩す1 つのとっかかりになるような問題と して、逆に出してきているというのが一番大き な問題だと思うんですね。

ちょっと細かい年度は忘れましたが、閣議決 定というのが医療制度のことに関して非常に大 きな問題が2 つあると。1 つは1980 年代に出て いる医者の数はもう増やすなという閣議決定。 それから2000 年前後に出た構造改革で医療費 は− 2,200 億円のマイナス改定をして、医療費 の膨張を抑えるという閣議決定をやることによ って、政府の試算では膨大に膨らんでいく医療 費を抑えようとしています。

後期高齢者医療制度もそうですけれども、医 療崩壊ということが今言われていて、本当に病 院が潰れて道路ができるというふうなことがあ るんですけれども、今一番問われているのは国 民皆保険制度を守っていくようなファクターで 進んでいくのか、それともアメリカのような自 由診療制度、あるいは医療に株式市場を開放し て、そういうふうな医療制度を目指すのか、こ の大きな2 つの選択を迫られているような状況 になっていると思います。

○黒島(沖縄タイムス) 国はそういう意味 ではものすごくプロパガンダが上手なんです ね。マスコミもその一翼を担っているという か、医療費が年々上がるというのは毎年発表も ので、今年もこれだけ老人医療費が上がりまし た、これだけ医療費が上がりました、将来の予 測としてこうなります。という不安を国民に何 十年も流してきた結果だと思うんです。国はそ こで上手に誘導してきていると思うんですね。 だけども、先ほど言ったように諸外国と比べた りとか、あとは75 歳以上の後期高齢者の医療費の伸びにしたって、人数が増えているわけで すから、人数が増えていることと医療費の伸び と、いったいどの程度増しているのかというこ とをもっと厳密に調べないといけないはずなの に、人数が増えているということと、医療費が 伸びているということを同時に出すんだけども これとの関連性というのはどこでも説明されて いないというような状況がある。だからイメー ジだけ、75 歳以上というのはものすごく医療 費がかかるというのはある。

そのプロパガンダというのは、市町村の役場 とか、一人一人の課長さんとかのお話を聞く中 でも、ものすごく浸透している。だから医療費 を抑えなければいけないと大変だと。このまま だと地方自治も立ちいかなくなると。それをま た患者も言うんですね。患者の皆さんも申しわ けない。自分の医療費がかかっている。だから 減らさないといけないと思うから、しょうがな いのかなという人のほうが大半なんですよ。新 聞で取り上げているように声を挙げているとい う人というのは、自分の権利に目覚めて声を挙 げているという人というのは、ごく一部という ところに根本的な問題が、認識のあり方に根本 的な問題があるということ。

もう1 つ、年金天引きがなぜこれだけ注目さ れるかというと、年金は社会保障だからだと思 うんですね。そこから自己責任として応益の益 の部分が取られているという矛盾に、世の中の 方たちは怒っている。だから給料から天引きさ れるのとはちょっと意味が違うのかなと。高齢 者が年金天引きに怒るというのは、私はやっぱ り当然だと思います。

もう1 つ、在宅医療なんですけれども、理想 かもしれませんが、やっぱり私たち個人個人み んなどこで死にたいかといったら、最終的には 自分の家でとか、自宅でというふうなことをだ れしも考えていると思うんですね。今の例えば 医者の数とか、もちろんマンパワーも含めてお 金とか、そういうことでは日本では今実現はな かなか難しいところではあると思います。た だ、患者の究極のニーズではある。患者と医療 が例えば究極のニーズに向かって共存していっ たときに、初めて国が医療費の方向とかという プロパガンダを打ち破ることができるのかな、 患者も本当に医療のために道路を削ってでも病 院はつくったほうがいいだろうとか、ほかの財 政はやらなくてもここにはこう公費を投入した ほうがいいだろうというような意識をもってい くのかなという気がしましたけれども。

○喜久村(医師会)

喜久村(医師会)

問題点が2 つあって、 年金から引かれる保険 料の問題とか、そうい うことが今盛んに話さ れていますけど、最初 にもどって、なぜ75 歳 以上かとか、また、そ ういう議論もいらないという話もありましたけ れども、後期高齢者という言い方、これは専門 用語だと思うんですよ。「日本老年医学会」が ずっと言っていて、昭和50 年頃からそういう ことを言い出していて、それをそのまま取った んですね。後期高齢者、年をとるというのは40 代、50 代、60 代ずっといきますけど、年代ご とに症状が重くなっていくんですね。例えば目 が悪くなるのは50 代。60 代になったら耳。臓 器ごとにどんどん悪くなっていくんですよ。各 科ごと、整形外科、外科、耳鼻科、皮膚科等の 病気が重なって、そういうのをまとめてどうい うふうにみるかということで老年症候群という 言葉、術語まであるんですね。そういう歴史が ありますし、最近、長寿医療制度とかいう言い 方をしていますけれども、もともとは後期高齢 者は専門用語だと思います。

あと、「廃用症候群」というのは聞いたこと があると思うんですけど、寝たきりでずっと放 っておくといろいろ障害が重くなってきて、本 当に動けなくなってくる。そういうものをどう するかとか、そういう講習会があるということ を現在小耳にはさんでいます。

今、見直し、廃止を含めてとか、そういう話 もありましたけれども、私はそれは必要だと思うんです。時期尚早で混乱があって、医療費の 裏づけもないとか、そういう問題はありますけ れども、将来的には先ほど玉城先生が言われた 「75 歳になったらご苦労様、ばら色の人生が 〜」と、そういう感じで私たちは期待していた んです。老年医学会の方は。でも実際出来上が ったものはアクセスを阻害するとか、いろいろ な問題があって、そういうのはダメだというこ ともありますが、日本医師会が提案したという のはそういうバックグランドの意味があると思 いますし、少し時間をかけてでもいい方向にも っていってほしいと思います。

大きな問題は、先ほど出ました国の予算の抑 制政策、それは医療の限界というものを越えて 現場の医師がすごく熱心にやっていますよね。 そういうところを認めてほしい。厚生労働省と かそういう方たちは分かりはいいと思います が、問題は財政諮問会議、財務省の関係のとこ ろに、予算の改善、行動が起こせたらいいとい う感じはします。医師会をバックアップする体 制が必要だと思いますけど、沖縄県医師会は、 そういう大きな目で、少し長い時間はかかるか もしれませんけれども、粘り強くやっていただ きたい、そういうふうに思います。

○司会(玉井) 源河先生、終末期医療の話 がちょっと出たんですけど、先生のお考えの在 宅、または終末期医療ということでお話しくだ さい。

○源河(医師会)

源河(医師会)

実は終末期医療につ いて丁度今、私の真向 かいにお座りの高良記 者の取材を先日、受け たところです(琉球新 報5 月11 日朝刊掲載)。 その時にも申し上げた のですが、今回の後期高齢者医療制度の中で、 先ほどから話題になっている「後期高齢者診療 料」(600 点)と並んで問題になっているのが 「後期高齢者終末期相談支援料」(200 点)なん ですね。終末期を迎えるのは50 歳、60 歳でも、 もっと若い人達にもいるのに、なぜ75 歳以上 の方に対してだけ終末期相談支援料を設定した のか、先ずこの点に納得いかないという意見が 多く出ています。この「終末期相談支援料」と いうのは、医師・看護師と患者本人あるいは家 族が「終末期になったらこういう医療をお願い します」ということを話し合って相談し、同意 して文書にしたら、2,000 円が医療機関に入る という制度です。この場合、こういった終末期 になって初めて相談をして、果たして患者さん が自分の本当の気持ちを言えるのかどうか、大 いに疑問があります。「きっと家族に迷惑をか けるから、もう何もしないでほしい」という患 者さんもいると思います。このようなリビン グ・ウイル(生前発効の遺書)は心身ともに健 全な状態の時に表明すべきであると考えます。 なぜなら、このリビング・ウイルは状況に応じ て常に変化するものです。健康な時はもっと長 生きしたいと思うし、病気になると家族にも迷 惑をかけ、介護負担もかかるから早く人生を終 りたいと思う人だっておられます。

私は尊厳死運動に関心をもっている者の一人 として、その観点から申し上げますと、「尊厳 死の宣言書」を持っている方が全国的に次第に 増えていますが、彼等は尊厳死を1 回宣言した ら、その効力が一生涯持続するのではなく、1 年に1 度くらい、見直すことになっています。 心身の状態で人の意思は変わりますので、それ を終末期になって相談しても本当の気持ちを表 明できるかどうかという問題があります。

日本尊厳死協会では後期高齢者終末期相談支 援料の導入によって、リビング・ウイル普及の 追い風になることは評価できるとしています が、その運用面では慎重な配慮が必要であると して、舛添厚生労働大臣に要望書を提出してい ます。また75 歳以上に限って終末期相談支援 料を設定した点について、これは「医療費削減 のために高齢者は早く死ね」という制度ではな いかという批判が国民の間から出ています。

このような医療現場の混乱をみて慌てた厚生 労働省はその後、後期高齢者終末期相談支援料の算定に当たっては、患者の意思を尊重して意 思の決定を迫ってはならず、患者の希望が確認 できない場合は「不明」、「未定」等とすること で差し支えないと言っています。しかし終末期 相談支援料の設定が、終末期の高齢の患者さん に早くあの世に逝かせることを強制する事にな るのではないかという懸念を拭い去ることが出 来ません。

関連して申し上げますが、厚生労働省は在宅 でのターミナルケアや在宅での看取りを誘導し ています。平成20 年4 月1 日に改定された診療 報酬点数によると、「在宅患者訪問診療料」の 中で在宅ターミナルケア加算として、死亡日前 14 日以内に2 回以上の往診又は訪問診療を実施 した場合は2,000 点、さらに死亡前24 時間以 内に訪問して当該患者を看取った(死亡診断を 行なった)場合は10,000 点という非常に高い 点数が設定されました。これによって今後、在 宅で終末期を迎える患者さんが増えるかどう か、よく判りませんが注目したいと思います。

繰り返し申し上げますが、終末期を迎えるの は後期高齢者に限らず、どの年齢にも起こり得 ることで、命の重みに老若の差はない筈です。 後期高齢者の医療費が嵩むからといって、後期 高齢者だけに終末期の延命治療の中止、不開始 を押し付ける危険性がある今回の終末期相談支 援料は、高齢者の気持ちを無視したものである と言わざるを得ず、大多数の国民の同意が得ら れないのは当たり前であると私は思います。以 上です。

○司会(玉井) ありがとうございます。

何かご意見、またはご質問ございますか。

○中田(医師会)

中田(医師会)

先ほど会長もおっし ゃったように、今一番 問題なのは何かという のは、国にお金がない ことなんですね。お金 があれば医療費を抑え るという話はないんで すけどね。お金がないのはなぜかというと、税 金がないからだと思いますね。みんなどうして 税金を上げるのを嫌かといったら、国が無駄遣 いしているからじゃないかというのが一番多い と思います。だけど今まで道路とか、いろんな 年金とか、無駄が出てきたということですが、 医療費で本当に無駄というのが今まであっただ ろうか。私が思うには医療費はほとんど無駄は 実際なかった。医療費のほとんどは人件費にな っているんですね。

そういう意味でイメージを変えてほしいんで すが、医師会は基本的に格差を小さい社会にし たい。それから社会保障を守っていきたいとい うのが医師会のスタンスだと僕は思います。日 本医師会自体もそういうことを考えて、後期高 齢者に関しては保険という考えではなくて社会 保障という考えでやろうといったんですが、と ころがいろんな道路族の人たちなどが骨抜きに してしまったのではないかと思います。

社会保障制度が非常に整備されていけば、貧 乏な人は税金が上がったら生活できないだろう というんだけど、実際には社会保障があれば財 産がなくても生きていけます。

先ほど在宅でみんな亡くなりたいと患者さん は思っていますよという話がありました。私の ほうも在宅のほうで看取りをしたりとかいろい ろやっているんですが、在宅で本当にできる人 たちの条件というのは4 つあるんですね。1 つは 介護されているご家族の方が死を看取る心があ る人たち。それと時間、空間、お金なんですよ。

現実に並みの人たちが在宅をするというのは なかなか難しいです。

だからそういう意味で本当に、今、日本政府 が在宅を進める、病棟をなくすといっているん ですが、今、受け皿がないまま在宅をやってい けばどうなるかといったら、本当に大阪じゃな いけど病院の職員が公園に捨てていかないとい けないことがあるかもしれない。

それと、皆さん、政府は情報が多くて、だれ に聞いたらと言うんですが、ぜひこういう会議 に出て聞いてくれていると非常に有難いんです が、日医のホームページを見たり、あるいは県医師会に問い合わせていただければ、おそらく 今の資料をどんどん出してくれます。そういう ことをやりますので、ぜひマスコミの皆さん、 政府の話ばっかり聞いて載せないで、後期高齢 者の問題が出たら枝葉の問題も含めて追いかけ てくれると非常に有難いです。

ほとんどの先生は自分たちの利益の前に、や っぱり自分の目の前の患者さんが苦しくないの を望むんですね。心があるから。心がないと医 者になれないと僕は思っております。それを知 ってほしいなと思ってこの発言をさせていただ きました。ありがとうございました。

○喜久村(医師会) 今のお話、全部賛成で す。そういう立場ですけど、付け加えます。先 ほど政府はプロパガンダがうまいとか、誘導し ているとか言っていますが、後期高齢者医療制 度というのは評判が悪いですよね。「長寿医療 制度」とかそういう言い方をしているけど、そ ういうのはまたおかしいですよね。

きのう県医師会で理事会があったというこ と、今朝の新聞で見ましたけれども、ああいう 報道をしてほしいし、あなた方の見出しのつけ 方がすごくアトラクティブでいいんですよ。後 期高齢者はどういう言い回しがいいかとか、あ なた方が考えてほしい。その前に「後期」に対 して「前期」というのがあるんです。前期高齢 者65 歳以上の人ですね。その人たちをどう呼 ぶのか、あと、医師会でよく使われているのが 「症例検討会」とかあるのですが、そういう 「症例検討会」とか、「剖検する」とか、「解剖 する」とか、そういう冷たい言葉がたくさん出 てくるんですよ。そういうのが一般的にマスコ ミに出たときに、非常に反発をくうのではない かというのがちょっと私のささやかな心配で す。医者は患者さんを冷静にみる、死と向かい 合っている患者さんをみる時冷静に診断、治療 をする。患者さんを診終わってから「症例検討 会」、「剖検」、「解剖」をするのです。

そういうのがあるということを、皆さんは報 道のプロだと思うので、ネーミング等を考えて ほしい。もうちょっと社会をよくしていくた め、医療制度が崩壊の危機にあると言われてい ますから、マスコミの協力も得ていかなければ いけないし、その力も大切ですよね。県医師会 は先頭に立ってやっていますから、ぜひサポー トはしていただきたい。

○司会(玉井) 時間が押してまいりました ので、きのう取材を受けた玉城先生にまとめて いただきたいと思います。

○玉城副会長

私の両親、女房のほうも含めて4 名亡くなり ましたけど、2 人はかなり介護の世話になった。 2 人はがんでスッと死んでいった。最後はがん で死んだほうが楽なんですよね。すぐ死ねるか ら。介護になると延々と何年も生きていく。だ から沖縄の中でも、僕ももうそろそろお互いが 終末はどういう生き方をして、どうして死んで いくかということを本気になって議論すれば、 今言われたように「あなたどうしますか」なん て変な紙を出して2,000 円もらうとか、何千円 もらうとかケチなことはしないで済むんじゃな いか。それも含めて今回ちょうどいい機会なの で、この機会に皆さんも相当勉強をしていただ いて、我々もよりよい制度はどうかということ でこれからも提言をしたり、日本医師会を通じ ながら議論が起こると思うし、沖縄県でも考え ていきますので。沖縄県の高齢者が豊かに過ご せる方法を探していければと思っております。 みんなで頑張らないとできませんので、そうい う方向を求めて、また、次の会もあると思いま すので、本日は本当にありがとうございました。

○司会(玉井)

それでは、この場はこれでお開きといたしま す。どうもお疲れ様でございました。