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編集後記

最近、早起きをしてお日さまを拝みます。ビ ルの狭間から曙光が差しはじめるのを見ながら アファーメーションをくり返し、一日の計画を 練ります。ある日ふと考えたんです。日本の医 療界に曙光が差す日はあるのだろうかと。

病院でとても不思議な光景があります。大部 屋におばあちゃんが4人います。1人のおばあち ゃんが朝食を食べている横で、別のおばあちゃ んはポータブル便器で排泄をしています。病院 では日常の光景ですが、世間では決して見かけ ることのない不思議な風景です。医療界の常識 は世間の非常識です。医療界の非常識は世間の 常識です。「何でこうなっちゃんたんだろう か?」って考えます。「制度の問題だ!」「医療 人だけでなく患者さんのモラルの低下も問題 だ!」と叫んでも何も変わりません。何ができ るのかを考えることが必要です。知恵をつかわ なくっちゃあいけません。

よかれと思ってやったことが、逆に反感を買 うことがあります。与えられているとそれが当 たり前になっちゃい、与えられ続けないと不平 不満が出てきます。今の医療界がまさにそんな 気がします。互いが権利ばかりを主張し、義務 を果たそうとしません。相手より、より多く、 より早く、より良いもの、より高価なものを求 めようとします。資本主義の世界ではその欲望 で人類は進化し、高度な文明を築き上げてきま した。今や行き過ぎた文明を止めることは出来 ません。医療も文明の部分集合です。文明の暴 走を止めることが出来るのは、文化だけです。 文化の重要性に気付いたときにはじめて文明の 暴走を止めることが出来ます。競争する社会は 終わりです。時代は、理性や感覚の時代から感 性の時代になっちゃいました。しかし、観念や 概念が邪魔して、行動が出来ません。常識をど のように打破するかが問題です。高失業率、低 賃金、基地問題、環境保全etc沖縄の問題点は 山積みです。でも沖縄の魂と経済、つまり文化 と文明を交換しちゃあいけません。

玉城信光先生が県政策参与に就任し、その激 励会の模様が報告されています。離島医療問 題、県立病院の赤字問題、医師不足問題、小児 医療、救急医療、多くの問題が累積されていま す。理性だけでは解決出来ない問題ばかりで す。右手にロマン、左手にソロバンをもって取 り組むのを期待いたします。医師の倫理に関す る講演会の記事は、興味深く読ませていただき ました。倫理観の欠如は医療人だけの問題では ありません。家庭、学校、職場、国いろんなと ころで倫理観がなくなっています。医療人であ る前に人間としての倫理観を磨きたいもので す。兵頭先生と岩田先生にはアカデミックなお 話を書いて頂きました。IVR手技と成績の進歩 には目を見張るものがあります。また、ヒト咬 傷についても学ばせて頂きました。

伊江朝次先生のインタビューでは、離島医療 のご苦労が伝わってきます。4Sを理念として掲 げ、「信頼を得るには何十年もかかるが、信頼 を失うのは瞬時である」という座右の銘には共 感を覚えます。久田友治先生には医療安全に対 する認識の変化を述べていただきました。奇し くも文化が変わったと書いております。エール を送りたくなります。

今月の随筆は宇宙と旅がテーマでした。星に 夢を抱き、宇宙に思いをはせる。宇宙と旅は感 性との出会いです。旅は出会いです。同級生と の出会い、素晴らしい景色そして人情との出会 いがあります。物理学者、科学者は真なる美を 追究します。アインシュタインや湯川秀樹が最 後にたどり着いたのも感性の世界でした。藤原 正彦氏も論理よりも情緒、祖国とは国語である と述べています。大切なものを忘れちゃいけま せん。

広報委員 久高 学

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