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脳動脈瘤に対する血管内治療
−切らずに治す脳動脈瘤の治療−

琉球大学医学部脳神経外科 兵頭 明夫

【要 旨】

脳動脈瘤に対する治療の最大の目的は脆弱化した動脈瘤からの出血(破裂脳動脈 瘤の場合は再出血、未破裂脳動脈瘤の場合は初回出血)を予防することである。血 管内治療は開頭術による脳動脈瘤の頚部クリッピング術に比較すると遙かに低侵襲 であり、切らずに治す脳動脈瘤の治療といえる。切らずに脳動脈瘤の治療が行える ということは、非常によいことであるが、良いことばかりというわけにはいかない。 血管内治療は脳血管造影と同様の技術、方法で行うが、あくまでも治療であり、周 術期の合併症は開頭術同様にある可能性があることを理解しなくてはならない。う まくいけば体に優しいすばらしい治療法であるが、ひとたび合併症が起こると死亡 したり重篤な後遺症を残すこともある。本稿では脳動脈瘤の血管内治療の利点、欠 点について述べるとともに、実際の症例について供覧し理解を促す。脳動脈瘤の血 管内治療の現状、今後の動きと将来への方向についても述べる。

はじめに

脳動脈瘤とは脳の動脈の一部が瘤状に拡張し たものである。正常の脳動脈は弾力性に富み丈 夫であり、自然に破裂することはないが、脳動 脈瘤の拡張した部分は通常の血管壁に比べ弾力 繊維などを欠いているなど薄く脆弱化してお り、血圧や血流の変化に耐えきれずに破綻する ことがある。脳動脈瘤ができる脳血管はほとん どがクモ膜下腔にあるため、動脈瘤が破裂する とほとんどはクモ膜下出血を来す。

クモ膜下出血は我が国における成人死因や要 介護原因として重要な位置を占める脳血管障害 の一つである。頻度は急激に発症する脳血管障 害(いわゆる脳卒中)の約9 分の1 であるが、 発症すると約半数は死亡するか寝たきりの生活 を余儀なくされる結果となる恐ろしい疾患であ る。クモ膜下出血の原因の大半(約80%)は 前述の脳動脈瘤の破裂であり、残りの約5%は 脳動静脈奇形の破裂、原因不明のものが10% 前後存在する。

前述のごとく、クモ膜下出血を来すのは原因 となる脳動脈瘤が破裂することがほとんどであ るが、ひとたび破裂するとその時点で約20%は 死亡する。幸運にも死亡を免れた症例は一時的 に止血されているからであるが、血栓などの不 安定な状態で止血されているのみであり、その 後短時間の間に非常に高率に再出血をきたし、 それが症状悪化や死亡の最大の原因となる。ま たクモ膜下出血を来すと、その後1週間前後に 脳血管攣縮という脳血管の狭窄をきたし、重篤 な場合にはその結果広範な脳梗塞を来して死亡 することもある。

従ってくも膜下出血の治療においては脳血管 病変(特に脳動脈瘤)からの再出血を防ぐこと が最も重要であるが、再出血のメカニズムは高 い血圧を持った血液(動脈血)が動脈瘤内に流 入することにより、出血後脆弱化した動脈瘤壁 が再度破裂することによる。従ってそれを防ぐためには動脈血が瘤内に流入する事を阻止でき ればよい。このことを目的とした動脈瘤の根治 術には、動脈瘤の頚部(血流の入口部)を外か らクリップで挟むことにより動脈瘤への血流を 遮断しようとする操作である、開頭術による脳 動脈瘤の頚部クリッピング術(図1)と、瘤内 に塞栓物質を密に充填することにより動脈血が瘤内に流入する事を阻止しよ うとする操作である脳動脈瘤 の血管内治療(図2)があ る。従来から行われている脳 動脈瘤の治療のスタンダード である開頭術による脳動脈瘤 の頚部クリッピング術は、き ちんと行われれば確実性は高 いが、操作を行う際には開頭 術を要し、周辺の組織、すな わち脳及び血管に外部より直 接触れたり圧迫したりするこ とが避けられない。一方血管 内治療は、動脈瘤の頚部を 外からクリップで遮断する方 法と比較すると、動脈瘤の頚 部の大きさや、血流と動脈瘤 の方向により、動脈血が瘤内 に進入することを完全に遮断 するという意味での確実性に は若干劣るものの、その再破 裂予防効果が非常に高いこ とは既に報告されており1)、 直達手術による動脈瘤の頚 部クリッピング術と比較した 際の最大の利点は開頭術を 要しない、すなわち脳及び血 管に外部より直接触れたり圧 迫したりすること無しに行う ことが出来るという点であ る。近年欧州を中心として破 裂脳動脈瘤患者を対象に行 なわれた多施設共同無作為 比較試験では、これまで開頭 術が有利だと思われていた前方循環・小型・軽 症の患者での血管内治療の優位性が証明されて いる2)

図1

図1:開頭術による脳動脈瘤の頚部クリッピング術中顕微鏡写真
 動脈瘤頚部にクリップをかける前(左、点線矢印が動脈瘤)及びクリップをかけ た後(右、点線矢印が動脈瘤、実践矢印がクリップ)。クモ膜下出血により術野は血 腫で薄く覆われている。

図2

図2:GDCを用いた脳動脈瘤の瘤内塞栓術のシェーマ
 動脈瘤(矢印、以下同様)内にマイクロカテーテル先端を挿入し(1)、初めに入 ると思われる最も大きな、最も長いコイルを選択し挿入する(2)。次いで順次サイ ズダウンしながら密に充填されたら(3)、マイクロカテーテルを抜去して終了する (4)。

一方近年頭痛や軽微な頭部外傷の精査中や脳 ドックなどにより、未破裂脳動脈瘤が発見され る機会が多い。前述の如く破裂脳動脈瘤の予後 は非常に不良であることを考えると未破裂脳動脈瘤を発見して治療することは非常に意義のあ ることと思われるが、近年の報告によると未破 裂脳動脈瘤の自然破裂率は大きさや部位にもよ るが、平均すると年間約1%前後とそれほど高 いものではなく、治療のリスク(直達手術、血 管内治療ともに約3〜5%)を考慮すると微妙 な判断を要する。従って未破裂脳動脈瘤の場合 には症例ごとに患者の希望を含めた十分な適応 の検討を要し、その後に慎重なinformed consent の基に行うことが望ましい。その場合にも 血管内治療はその低侵襲性ゆえに重要な役割を 担うことになると思われる。

本稿では脳動脈瘤に対する治療において「切 らずに治す脳動脈瘤の治療」という観点から、 脳動脈瘤の血管内治療(特に脳動脈瘤内のみを 閉塞する瘤内塞栓術)について述べる。

脳動脈瘤に対する血管内治療

1.概説

脳動脈瘤を発症から防ぐためには、前述のご とく動脈血が瘤内に流入する事を阻止できれば よい。血管内治療は開頭術とともに、このこと を目的とした動脈瘤の根治術のひとつである。 脳動脈瘤の部位や形状にもよるが、動脈瘤内の みを閉塞できる場合と、動脈瘤とともに母動脈 そのものも一緒に閉塞しなければならない場合 がある。動脈瘤内のみを閉塞できる場合とは、 嚢状動脈瘤で動脈瘤の入り口(動脈瘤の頚部) がはっきりしている場合(図2)であり、解離 性脳動脈瘤や、動脈瘤の頚部が広い動脈瘤(特 に巨大脳動脈瘤など)では、拡張した動脈瘤と 母動脈の境界がはっきりしないため、根治を目 的とすれば動脈瘤とともに母動脈そのものも一 緒に閉塞しなければならない。

脳動脈瘤の血管内治療に用いられる塞栓物質 (脳動脈瘤内へ充填する物質)として、従来は 離脱型バルーンが用いられていたが3)、その取 扱いは困難であり一部の特殊技術を持った医師 によってのみ用いられ行われていた。しかしな がら、1990年代初頭の新しい離脱型マイクロコ イル(Guglielmi detachable coil(GDC))の開発4,5)により状況は一変した。すなわち、脳 動脈瘤にマイクロカテーテルを挿入し、それを 通じて瘤内へGDCを密に挿入し、動脈瘤を血 流から遮断することが比較的安全確実に、しか も普遍的な方法として可能となってきたのであ る。欧米では既にGDC導入から15年以上が経 過し、ヨーロッパにおいては脳動脈瘤の根治術 の7割以上に血管内治療が応用されるに至ってい るし、アメリカにおいても、最近は脳動脈瘤の 根治術の約半数に血管内治療が行われている6)。 保険診療上の手続きのため、我が国において GDCが一般的に使用できるようになったのは 1997年3月のことであり、その後脳動脈瘤に対 する血管内手術は徐々に普及してはいるが、 2006年でも動脈瘤に対する根治術の約2割を占 めるに過ぎない6)。本邦で動脈瘤に対する血管 内治療の割合が欧米に比べて低い理由はいくつ かあり、血管内治療ができる医師が直達手術が できる脳外科医に比べて圧倒的に少ないこと、 脳動脈瘤に対する血管内治療に用いる新しい機 材が欧米に比べて少ない(日本でなかなか認可 されない)ことなどがある。しかしながら治療 の低侵襲性を生かし、これらの障害を乗り越え て今後も脳動脈瘤の血管内治療は増加する可能 性があるが、現在脳動脈瘤の血管内治療のスタ ンダードともいえる離脱型マイクロコイルを用 いた脳動脈瘤の瘤内塞栓術の実際、および脳動 脈瘤の血管内治療における今後の動きと将来へ の方向について述べる。

2.離脱型マイクロコイルを用いた脳動脈瘤の 瘤内塞栓術

脳動脈瘤に対する血管内手術は動脈瘤内に塞 栓物質を密に充填することにより、動脈瘤内を 血流から遮断しようとする操作である。この目 的を達するために如何に安全確実に動脈瘤内に マイクロカテーテル(離脱型マイクロコイルを 動脈瘤内へと導入する細いカテーテル)を挿入 し、離脱型マイクロコイルを密に充填すること ができるかであるが、以下にその一般的な方法 を述べる7)

(1)ガイディングカテーテルの挿入留置

全身の動脈硬化が非常に強く、やむなく頚部 頸動脈の直接穿刺で行う場合を除き、ほとんど の例は大腿動脈経由のセルジンガー法にて行 う。まずマイクロカテーテルを目的とする動脈 瘤まで安定して挿入するために、マイクロカテ ーテルを通すガイディングカテーテルを内頸動 脈あるいは椎骨動脈の遠位部まで挿入留置す る。ガイディングカテーテルと後述のマイクロ カテーテル、マイクロガイドワイヤーの間は、 血栓形成を予防すると共に、マイクロカテーテ ルおよびマイクロガイドワイヤーの操作性を向 上させるために、ヘパリン化生理食塩水で環流 する。

(2)マイクロカテーテルの瘤内への挿入留置

マイクロカテーテルの動脈瘤近傍までの導入 は通常のマイクロカテーテルの挿入操作と同様 である。適当なマイクロガイドワイヤーとの組 み合わせで動脈瘤近傍まで導入する。脳動脈瘤 内へのカテテリゼーションでは、ミリ単位の操 作を心がけるべく、できるだけ拡大したディジ タルサブトラクションアンギオグラフィー (DSA:放射線撮影透視装置)ロードマップ下 に慎重に行う。

瘤内でのカテーテル先端の位置の調整、離脱 型マイクロコイルの挿入に際しての重要なポイ ントはDSA及び透視を行う際の角度を動脈瘤の ネックが最もはっきりと見える方向で設定する ということである。これにより離脱型マイクロコ イルをネックぎりぎりまでより密に充填可能に なるし、離脱型マイクロコイルの母動脈への逸 脱もすぐに発見可能となる。すなわち完全な塞 栓術を目指すためにはこの点が非常に重要であ る。この最も適切なワーキングアングルを設定 するためには、従来は異なる方向で何回もの DSA撮影をくり返す必要があったが、近年開発 された3D-DSAを用いることにより、1回の回転 DSAを行うのみで適切なワーキングアングルを 決定することができるようになった(図3)。

図3

図3:3D-DSAを用いることによる、適切なワーキングアングルの決定
 3D-DSA画像を任意に回転して(図上段5枚、小矢印が動脈瘤。実際はX、Y、Zす べての軸での回転可能。)ワーキングアングルとして最も良い角度を選択し(図右下)、 実際のワーキングアングルの透視角度を決定する(図左下)。

(3)離脱型マイクロコイルの瘤内への密な充填 (図2)

離脱型マイクロコイルを瘤内へ密に充填する ためには、初めに入ると思われる最も大きな、 最も長いコイルを選択し挿入する。このコイル で外枠を形成し、順次内部を埋めていくことに より密な充填を図る。以下順次サイズダウンし ながら密な充填を図る。最終的に透視下に離脱 型マイクロコイルのメッシュの隙間が見えない 程の密な充填ができたり、最 小、最短のサイズのコイルが 入らなくなれば終了する。挿 入したコイルの動脈瘤の容積 に対する比率を計算し、一定 基準以上挿入されたことを確 認して終了する方法もある。 最終的にはガイディングカテ ーテルからの造影で造影剤の 流入がほぼみられなくなるこ とを確認すれば塞栓術は完了 する。

動脈瘤のネックが比較的小 さくコイルがおさまりやすい 場合には、前述の1本のマイ クロカテーテルを動脈瘤内に 挿入したのみの方法で離脱型マイクロコイルを密に充填できるが、動脈瘤の ネックが広くコイルがおさまりにくい場合(こ れらは原則的には血管内手術の良い適応とは言 えないが)には、バルーンカテーテルによる neck plastyやステント併用瘤内塞栓術などの 特殊なテクニックが必要である。

バルーンカテーテルによるneck plastyは動 脈瘤のネック部分を覆うようにバルーンカテー テルを挿入し、瘤内にコイルを挿入する際にバ ルーンカテーテルを膨らませてコイルが瘤内に おさまるようにする方法である(図4)。 Remodeling technique8)、あるいはバルーンア シスト法ともよばれる。近年非常に柔軟なバル ーンカテーテルが開発され、応用範囲は広がっ ている。ただし瘤内にコイルを挿入するマイク ロカテーテルの他にバルーンカテーテルを挿入 しなければならないことから、手技はより複雑 になり、塞栓性の合併症を来しやすくなるた め、全身ヘパリン化は必須である。

図4

図4:wide neckな脳動脈瘤に対するバルーンカテーテルによるneck plastyのシェー マバルーンを拡張しコイルを挿入しているところ(左)及びバルーンを収縮 しコイルの離脱準備をしているところ(右)。実践矢印は動脈瘤で破線矢印が バルーン。

ステント併用瘤内塞栓術は動脈瘤のネック部 分を覆うようにステントを留置する方法で、バ ルーンカテーテルによるneck plastyをさらに 強力にした方法である。かなりwide neckな動 脈瘤にも応用可能であるが、動脈瘤のネック部分まで確実に誘導できるステ ントが限られている。欧米で は容易に誘導可能な専用の 頭蓋内ステントが使用可能で あるが、未だに国内では使用 できない。我が国では冠状動 脈用のステントを流用してい るのが現状である。

(4)瘤内塞栓術後の管理

瘤内塞栓術は従来の開頭 術による脳動脈瘤の頚部クリ ッピング術と同様の効果を意 図した処置であり、破裂脳動 脈瘤からの再出血あるいは未 破裂脳動脈瘤からの出血予 防が目的である。従って、破 裂脳動脈瘤の場合にはくも膜 下出血に対する治療としての様々な保存的治 療、水頭症に対する処置(脳室、脳槽ドレナー ジ、脳室腹腔シャント術など)、脳血管攣縮に 対する治療は同様に行なう。また、瘤内塞栓術 後は塞栓性合併症を来すことがあり、アスピリ ンなどの抗血小板薬を投与する。

(5)瘤内塞栓術に伴う合併症と問題点

血管内治療は開頭術に比べて低侵襲ではある が、合併症を来す可能性という点からいえば、 ほぼ同様にあるといわざるを得ない。すなわ ち、方法は脳血管造影を発展させた形で行ない うるが、治療のリスクという点では手術的治療 と同様に考えなければならず、検査感覚で行な うわけにはいかない。

合併症には動脈瘤の穿孔などによる出血性合 併症、マイクロカテーテルやコイルを血管内に 挿入することに伴う塞栓性合併症があり、両者 を合わせて症候性合併症は約3〜5%程度おこる。 出血性合併症は頻度は少ないが、ひとたびおこ ると死亡する場合もあり(死亡率は一般に0.3〜 0.5%といわれている)、重篤な結果につながるこ とが多い。合併症を来さないようにするには、 十分な知識と経験に基づく準備が必要であり、 合併症を来した場合にも、その後の重篤な結果を避ける迅速的確な判断が必 要である。

血管内治療のもう一つの問 題として、挿入したコイルが 長年の経過中につぶれてき て、動脈瘤が再開通すること があることで、慎重な経過観 察と場合により追加処置が必 要になることがある。

しかしながらこれらの問題 点を考慮しても、近年欧州を 中心として破裂脳動脈瘤患 者を対象に行なわれた多施設 共同無作為比較試験では、 これまで開頭術が有利だと思 われていた前方循環・小型・ 軽症の患者での血管内治療 の優位性が証明されている2) わけであり、血管内治療の開 頭術に比べた低侵襲は大きな 利点であるといえる。

3.代表的症例

57 歳男性、脳ドックで発 見された未破裂脳動脈瘤。

脳血管造影(3D-DSAを含 む、図5-1,5-2)で最大径約 9mmの前交通動脈瘤を認め た。動脈瘤頸部が広いがバル ーンカテーテルによるneck plastyを用いれば十分コイル 塞栓術は可能と判断、直達 手術、血管内治療、自然経過観察の3つの選択 肢を提示し、それぞれの利点欠点を述べた後 informed consentを得た。患者自身により脳 血管内治療が選択された。

全身麻酔下に脳血管内治療を施行。大腿動脈 からガイディングカテーテルを左内頸動脈に挿 入、それを通してマイクロカテーテルとマイク ロバルーンカテーテルを左前大脳動脈へと挿 入、マイクロカテーテルは前交通動脈瘤内に、 マイクロバルーンカテーテルは動脈瘤頸部に留 置した。コイルが動脈瘤頸部からはみ出ないよ うにマイクロバルーンカテーテル膨張下に挿入 し(図5-3)、最終的に計5本67cmのコイルを挿 入しほぼ完全閉塞を達成した(図5-4)。

術後経過は良好で数日後に独歩退院。2年後 の経過観察でも動脈瘤の再開通は認めず、もち ろん経過中に破裂も認めていない。

図5-1

図5-1:代表的症例の術前脳血管造影。左は右内頸動脈造影正面像。中央および右は 左内頸動脈側面像(中央)および正面像(右)。矢印部分に動脈瘤を認める。

図5-2

図5-2:同症例の左内頸動脈造影による3D画像。脳動脈瘤の大きさ、形状、比較的 wide neckであることがはっきりと認められる。

図5-3

図5-3:同症例に対する最初のコイル挿入直後のDSA画像(上)およびライブ画像 (下)。ライブ画像ではバルーンカテーテルがふくらんだ状態でありコイル は動脈瘤内にきちんと収まっている。DSA画像ではバルーンカテーテルは 収縮しているがコイルは動脈瘤内に収まったままである。

図5-4

図5-4:同症例に対する最終のDSA画像(上)およびライブ画像(下)。DSA画像で は動脈瘤内に造影剤は全く入らず、ライブ画像では動脈瘤内に挿入したコ イルが非常に密に充填されている様子がよくわかる。

4.脳動脈瘤の血管内治療の今後の動きと将来 への方向

脳動脈瘤の血管内治療の弱点である、いわゆ るwide neckの動脈瘤に対する治療や、血管内 治療後の再開通の問題に対して、それらを克服 すべく様々なアプローチが考えられている。

いわゆるwide neckの動脈瘤に対して安定し た瘤内へのコイルの挿入を行うために、現在行われている方法には既に述べ たバルーンカテーテルによる neck plastyやステント併用 瘤内塞栓術があるが、欧米で は頭蓋内に応用可能なステン トの開発や臨床応用が進んで いる。

また、離脱型コイルは技術 的にも安定して普遍化可能 であり安全確実であることか ら広く普及するに至っている が、いくら密に充填してもせ いぜい容積の30〜40%程度 がコイルで埋まる程度で、必 ず隙間が存在しその隙間は血 液で埋められるという欠点が ある。この欠点を解消する方 法として、隙間を血液以外の もので埋まるような工夫が開 発されている。

一つの方法として、コイル の表面、あるいはコイル内部 に組織が増殖する物質をつけ たものを開発することが進ん でいる。その一つである Matrix TM coil9)はある物質を コイルにコーティングするこ とにより結合組織の瘤内への 増殖をはかり、それによって コイルの隙間を埋めようとす るものである。欧米で既に動 物実験の後に臨床応用が行わ れているが、かなり有望な方 法であると思われる。今後これらを含めたデバ イスの進歩発展により、脳動脈瘤の血管内治療 はさらに確実なものとなることが期待される。

すでに述べた如く、我が国における動脈瘤に 対する血管内治療の割合が欧米に比べて低い理 由の一つに、血管内治療ができる医師が直達手 術ができる脳外科医に比べて圧倒的に少ないこ とがあるが、これについても日本脳神経血管内治療学会において脳血管内治療専門医養成に努 め、教育の機会を広めるとともに質の向上を図 るため専門医試験を行い、専門医、指導医の認 定を行っている。すでに400名近い専門医(84 名の指導医を含む)が認定されており今後の増 加が期待されている。ちなみに本県においては 指導医は私一人であるが専門医はほかに2名お り、さらに専門医受験を目指す若い医師が控え ている。

おわりに

以上脳動脈瘤の血管内治療(特に脳動脈瘤内 のみを閉塞する瘤内塞栓術)について、現在そ のスタンダードともいえる離脱型マイクロコイ ルを用いた脳動脈瘤の瘤内塞栓術の現状につい てまとめ、脳動脈瘤の血管内治療における最近 の動きと将来への方向について述べた。

現在我が国における脳動脈瘤の根治的治療の スタンダードは開頭術による脳動脈瘤の頚部ク リッピング術であるが、欧米での実績を参考に すれば、現在の我が国における血管内治療の割 合、約2割という数字はかなり低いと考えられ る。今後の社会情勢の変化、医師や患者の意識 の変化に伴って、今後我が国においても脳動脈 瘤の根治的治療としての血管内治療の占める位 置は益々重要なものとなっていくことが予想さ れる。



文献

1) Vinuela F, Duckwiler G, Mawad M: Guglielmi detachable coil embolization of acute intracranial aneurysm: perioperative anatomical and clinical outcome in 403 patients. J Neurosurg 86:475-482,1997

2) International Subarachnoid Aneurysm Trial (ISAT) of neurosurgical clipping versus endovascular coilings in 2143 patients with ruptured intracranial aneurysms: a randomized trial. Lancet 360:126-1274, 2002

3) Serbinenko FA: Balloon catehterization and occlusion of major cerebral vessels. J Neurosurg 41:125-145,1974

4) Guglielmi G, Vinuela F, Sepetka I, et al: Electrothrombosis of saccular aneurysms via endovascular approach. Part 1: Electrochemical basis, technique, and experimental results. J Neurosurg 75:1- 7, 1991

5) Guglielmi G, Vinuela F, Dion J, et al: Electrothrombosis of saccular aneurysms via endovascular approach Part 2:Preliminary clinical experience. J Neurosurg 75:8- 14,1991

6) ボストンサイエンティフィック・ジャパン社内資料

7) 兵頭明夫、根本繁 編:GDCを用いた脳動脈瘤血管 内手術、医学書院、東京、1999

8) Moret J, Cognard C, Weill A, et al: The Remodeling technique in the treatment of wide neck intracranial aneurysms: Angiographic and clinical follow up, about 56 cases. Interventional Neuroradiology 3:21-35,1997

9) Murayama Y, Vunuela F, Tateshima S, et al: Cellular responses of bioabsorbable polymeric material and Guglielmi Detachable Coil in experimental aneurysms. Stroke 33:1120-1128,2002



著 者 紹 介

兵頭明夫

琉球大学医学部脳神経外科 兵頭 明夫

生年月日:昭和26年8月21日

出身地:東京都 練馬区

出身大学:千葉大学医学部 昭和52年卒

略歴
 昭和52年 3月千葉大学医学部医学科 卒業
 昭和52年 4月筑波大学附属病院 研修生
 昭和52年 6月筑波大学附属病院 医員(研修医)(外科系ジュニアレジデント)
 昭和54年 4月筑波大学附属病院 医員(脳神経外科シニアレジデント)
 昭和56年 4月財団法人脳血管研究所美原記念病院 脳神経外科医師
 昭和58年 4月筑波大学附属病院 医員(脳神経外科チーフレジデント)
 昭和58年 11月筑波大学 講師(臨床医学系、脳神経外科)
 昭和61年 3月アメリカ合衆国ハーバード大学医学部
        マサチューセッツ総合病院脳神経外科(Roberto. C. Heros 助教授)に留学
 昭和63年 3月筑波大学 講師(臨床医学系、脳神経外科)
 平成4 年 3月文部省在外研究員(短期)、アメリカ合衆国カリフォルニア大学
        サンフランシスコ校神経放射線科(Grant.B. Hieshima教授)
 平成4 年 4月筑波大学 講師(臨床医学系、脳神経外科)
 平成11年 5月琉球大学医学部脳神経外科講座 助教授
 平成15年 4月琉球大学医学部高次機能医科学講座脳神経外科 助教授
 平成17年 10月琉球大学医学部高次機能医科学講座脳神経外科 助教授、診療教授
        現在に至る

専攻・診療領域
 脳神経外科、特に脳血管障害の外科、脳神経血管内治療

その他・趣味等
 旅行



Q U E S T I O N !

問題:脳動脈瘤の血管内治療を開頭術による動 脈瘤のクリッピング術と比較して正しい のはどれか、2つ選べ。

  • 1)低侵襲である。
  • 2)安全である。
  • 3)我が国では動脈瘤のクリッピング術より多く 行われている。
  • 4)ヨーロッパでは動脈瘤のクリッピング術より 多く行われている。
  • 5)動脈瘤のクリッピング術より予後が悪い。

CORRECT ANSWER! 4月号(vol.43)の正解

問題:胸部単純写真において、肺の容積の増加 する病態を1つ選択せよ。

  • 1)マイコプラズマ肺炎
  • 2)器質化肺炎
  • 3)閉塞性肺炎
  • 4)気管支肺炎
  • 5)クレブシェラ肺炎

正解 5)