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運動器の10 年・骨と関節の日(10/8)

金谷文則

琉球大学医学部整形外科学 金谷 文則

整形外科と運動器

運動器とは、四肢・体幹の骨格、関節、靱 帯、筋や脊髄・神経であり、身体の感覚を脳に 伝えて、反射あるいは意志に基づく身体の運動 を行う器官です。運動器により営まれる運動 は、脳や神経系を賦活し、循環系や代謝系の健 康を保つために重要な役割を果たしています。 日本整形外科学会は平成6年2月に10月8日を 「骨と関節(ホネとカンセツ)の日」と定め、 運動器を健康に保つことの重要性を広く市民の 皆様に訴えてきました。平成12年(2000年) からはWHOが提唱する「『運動器の10年』世 界運動」の開始に伴い、「運動器の10年・骨と 関節の日」と呼称を改めました。

身体の健康を保つために運動器の果たす 役割

もし、身体の運動が正しく行われなくなれば、 脳や神経のコントロール機能が衰え、身体に慢 性の痛みを来し、身体がスムーズに動かなくな るばかりか、心のストレスにも悩まされます。そ して、高血圧、高脂血症、糖尿病や心疾患の発 症の原因にもなってきます。毎日1時間以上の歩 行が死亡率のオッズ比を有意に低下させること も報告されています。”Life is motion, motion is life”ともいわれるように、運動は脳を働かせ、 生命を支え、人に幸せをもたらします。

この運動器障害の頻度は高く、患者の受診病 名上位を占めています(図1)。運動器障害は若 年者では生産性の低下をきたし、中高年では生産性に加えてADLの低下をきたします。さら に、今後急増が予想される高齢者に対しては ADLの維持と健康寿命の延伸が重要な課題に なっています。日本は世界最高の平均寿命を誇 っておりますが、男女とも平均寿命の最後の 10%は要介護または要支援になっており、その 原因として運動器障害がそれぞれ20%、28%を 占めています(図2)。運動器障害はQOL を低 下させるのみならず、生命予後にも大きな影響 を及ぼし、極めて大きな負担を社会に与えま す。しかしながら、癌や脳の障害に比べて、こ れまで社会から重視されてこなかったのが現状 であります。そこで、「運動器の10年」世界運 動がスタートしました。

図1.

図1

図2.

図2

「運動器の10年」世界運動のスタート

世界では、新しい世紀の始まりと共に「運動 器の10年」世界運動がスタートしました。この 運動は、スウェーデンのルンド大学・リドグレ ン教授が提唱したもので、2000 年1 月、スイ ス・ジュネーブの世界保健機構(WHO)本部 において、その発足が宣言されました。国連や WHO もこの運動を強く支持しており、アナン 国連事務総長は、「この運動は、世界中の多く の、筋骨格系の疾患や外傷に苦しむ人たちに恩 恵を与えるのみならず、社会経済に及ぼす影響 にも極めて大きいものがある」との声明を出し ています(図3)。

図3.

図3

「運動器の10年」世界運動の目標は、1)運 動器障害の実態を世界各国がWHOと協同して 調査し、患者、その家族、職場、社会や経済に 及ぼす負担を把握し、これを社会に周知する、 2)患者や市民に自らの運動器の健康管理につい て、より積極的な参加を奨励する、3)質が高 く、経済効率のよい治療・予防法を広く実施す る、4)より本質的な治療・予防法を開発するた めの基礎的研究を推進する、ことです。

運動器障害への各国の対応

1991年のスウェーデンにおける運動器障害へ の対応経費は、脳の障害への対応経費の4 〜 5 倍にも達しています。また、1995 年のアメリカ 合衆国における運動器障害の対応経費は、直接 経費、間接経費を合わせて2,149 億ドル(25 兆 7,880 億円、2002 年の日本の国民医療費は年間 約30兆円)と巨額に及んでおります。世界運動 の対象疾患として、数多くある運動器障害のう ち、1)関節疾患、2)腰痛を主とする脊椎疾 患、3)骨粗鬆症、4)重度外傷、が取り上げら れ、焦点が当てられることになりました。この 4 つの疾患は世界的にも頻度が高く、我が国も 例外ではありません。

「運動器の10年」世界運動へご助力を

「運動器の10年」世界運動には、現在、ヨ ーロッパ、アメリカ、アフリカやアジア・太平 洋の85カ国)と750を超える世界の有力な学会 が参加しています。我が国においても、日本整 形外科学会のほか、日本リウマチ学会、日本リ ウマチ関節外科学会、日本脊椎脊髄病学会、日 本骨粗鬆症学会、日本骨代謝学会や日本リハビリテーション医学会など、45の学会がこの運動 に参加し、「運動器の10年」日本委員会を組織 して、運動の推進に取り組んでいます(図4)。

図4.

図4

スウェーデン本部は、10月12〜20日を、「運 動器の10年、世界運動週間」と定め、世界各 国で同時に関連行事を開催することにより、マ スメディアを通じて、世界各国の国民や行政機 関へのアピールを計画しております。「運動器 の10年」世界運動を我が国でも積極的に展開 し、市民の健康と幸せに貢献するためにも、皆 様方のご理解とご助力を切に願っております。

「運動器の10年・骨と関節の日」
平成18年市民公開講座

日本整形外科学会では「骨粗鬆症」、「スポー ツと整形外科」、「関節リウマチ」、「腰痛」、「骨 折」、「関節の痛み」など毎年テーマを決め講 演・啓蒙活動を行っております。例年、沖縄県 整形外科医会では10月8日にあわせて、新聞紙 上で座談会を行っておりましたが、今年はそれ に加えて10月7日(土)に市民公開講座を予定 しております。今回のテーマは「肩の痛み」で す。肩の痛みは頚椎疾患(変形症、椎間板ヘル ニア)、頸部筋筋膜症、肩疾患(腱板損傷、イ ンピンジメント症候群、五十肩)などの運動器 疾患によるものばかりでなく心・大血管疾患、 呼吸器、消化器などの多くの疾患に起因するも のが含まれ、他科の先生方にとっても重要な疾 患です。今回は、肩の痛みに詳しい整形外科医 の講演に加えて医療相談、骨密度測定などを企 画しております。皆様ふるってご参加ください (図5)。

図5.

図5