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平成18 年度第1 回マスコミとの懇談会報告

玉井修

理事 玉井 修

会場風景

会場風景

去る7月26日(水)、那覇市医師会館にて開 催されました。マスコミ側はNHK 沖縄放送局 の斎藤基樹記者、琉球放送の照屋信之記者、タ イムス住宅新聞編集長の徳正美様、週間レキオ からは仲宗根雅広取締役と赤嶺涼太記者、琉球 新報社からは佐藤ひろこ記者と新垣梨沙記者に ご参加頂きました。今回の懇談会は県民との懇 談会に引き続き、福島県大野病院産婦人科医師 逮捕の問題を取り上げさせて頂きました。

まず、事件のあらましに関して私(玉井)と 産婦人科医の立場から金城忠雄沖縄県医師会理 事、麻酔科医の立場から村田謙二沖縄県医師会 理事よりスクリーンを2分割して解りやすい解 説をしました。さらに産婦人科開業医に与える 事件の影響に関して永山孝南部地区医師会長よ りご発言頂きました。阿波連光弁護士には法律 家の立場から患者の安全管理について考えると 題してご発言頂きました。

マスコミを相手に、ややもすると敵対的な雰 囲気になるのではないかと危惧しておりました が、実際には懇談中、お互いに理解を深め県民 の福利の為に協力しようというムードが高まっ ておりました。マスコミ側からの質問には、沖 縄県における産婦人科医師確保の問題や、無過 失補償制度への質問など、かなり突っ込んだ内 容が多く、意識の高さと問題の深刻さを反映し て懇談は実りあるものになったと思います。

医療を取り巻く問題は、世論の影響を大きく受けます。マスコミに正しく理解して頂くこと はとても大切なことです。医療事故が生じると、 マスコミもその犯人捜しに躍起になって、どこ の誰がこの大惨事を招いた犯人なのかを追及し ます。悪者医師や悪徳病院を吊し上げてしまえ ば満足してしまう世論誘導もまた恐ろしいもの です。しかし、物事はそれほど単純な構造には なっていません。一人、または一つの病院をス ケープゴートにしてしまうことによって、実は もっと重要な社会構造の問題が見えなくなって しまう危険性さえあります。一つの事件の背景 に隠れているもっと大きな問題をしっかり見据 えて居なければ、事故は続いてしまいます。再 発を防ぐためにやるべき事は、単なる犯人捜し ではなく、事故の本質の徹底的な追求です。

医療は今や危機的状況にあります。訴訟のリ スクや勤務過剰傾向のある産婦人科や小児科か ら多くの人材が離れ、それがさらに医療事故を 誘発する温床ともなっています。医療を正しく 理解して頂くための努力をどこかで地道に続け る事が大切だと思います。

マスコミとの懇談会をやっていて思うことが あります。4年前に始めた頃は多くのマスコミ の方々の前で、ちょっと大げさですが、疑心暗 鬼の目に曝らされながらプレゼンテーションを していた気がします。しかし、今は医療人の誠 意を信じて頂きながらプレゼンテーションをし ています。マスコミも医師会側も基本的な信頼 関係が構築され始めてきています。4年間の蓄 積した歴史が徐々に我々の距離感を縮め、お互 いの立場の違いを超えて相互理解への可能性を 探り始めています。何ができるのかは未知数で すが、何もしなければ何も生じません。地道に この活動を続けていきたいと思います。

懇談会風景

懇談会風景

懇談会風景

懇談内容

○徳正美氏(タイムス住宅新聞)

徳正美氏

お話を伺っている中で、先ほど、村田先生で すか、輸血のところでお話があったんですけれ ども、出血が非常に多くて1時間半から2時間ぐ らい追加の輸血を足してくるのに時間がかかる ということだったんですけれども、これは今の 大型の病院であればそういったことは起こり得 なかった問題。例えば、病院の規模によっても 変わってくる問題だったりするんでしょうか。

○村田謙二氏(医師会)

村田謙二氏

非常にいい質問だと思います。

緊急時の血液確保というのがありまして、中 部病院ではどうしているかといいますと、血液 センターから取り寄せる時間的余裕がない場合 は、院内放送をしまして、職員から実際に血液をもらって、医学用語では「生血(ナマケツ)」 と言うんですけれども、これを輸血して助けて いるんです。

ただ、これは純粋に医学的にみると非常に乱 暴な治療だというふうに非難されかねないんで す。というのは、血液というのはやっぱり臓器 の一種ですから、臓器移植と厳密に言えば同じ なんです。

血液センターというのは、献血された人の中 から、例えば肝炎ウィルスであるとか、そうい うものを厳密に検査して排除して、でも、それ でもやっぱり年に何件かそれをすり抜ける血液 があるんですけれども、そういう安全性が確保 されているものしか普通は輸血されないんで す。ですから、生血という場合は、確かに命そ のものを助けることはできるんですけれども、 例えば肝炎ウィルスキャリアとか、本人が自覚 していなくてもそういうウィルスを持っている 人がいたとしたら、それをすり抜けてしまうこ ともある治療なので、非常に非難される、論議 される余地がある治療法なんですけど、とにか く救命するにはそういうシステムが必要だとい うのが中部病院の検証ですね。ただ、それなり の規模をもつ病院でないと、こういうのは多分 実施できないと思います。

○司会(玉井) ありがとうございます。

あと一度輸血のために取った血液は返せない んですよね。

○村田謙二氏(医師会)

ひと昔前は、どのぐらい準備をするかという のを多めに準備をしていても血液銀行に返すこ とができたんです。ひと昔前はこういう場合 に、先手先手を打ってかなり多めのものを準備 しているという時代があったのですが、現在で は、血液センターでも血液が非常に不足しており、又、いったん各病院に払い出した血液がど ういう保管状態かというのは、病院によってま ちまちなものですから、それをまた自分たちが 受け取ってほかの施設にまわしたときに何か起 こっては困るというので、原則的にもう絶対に 返品できないんです。そうすると余分に準備し ていた血液というのは、すべて病院側が金銭的 に負担をするという形になっています。

○司会(玉井)

司会(玉井)

ありがとうございます。

ほかに何か。マスコミの方からご質問ござい ますでしょうか。

○新垣梨沙氏(琉球新報社記者)

新垣梨沙氏

この事故調の報告がまとまった後も、福島県 のほうでは常勤医1人体制というのが続いてい たというふうに何かの資料で読んだ記憶がある んですが、その福島県の現状は今はどうなのか ということ。

あと、この福島県での報道が出た後に、あち らこちらで医師不足の取材をしている最中に取 材に応じてくれた医師の方から、医師不足の原因はマスコミのせいでもあるというようないろ いろお話をいただいたことがあって、認識をし ないままに記事を書いてしまう、その乱暴な記 事を書くことによって、今回の加藤医師のよう なことも触れていらっしゃったんですけれど も、それでやっぱり産婦人科医が怖くなって辞 めてしまうと。産婦人科医離れが進んでいるん だ、というようなお話をいただいたんです。そ ういう反応もやはりマスコミとしては真摯に受 けとめなければいけないなというふうには考え ているんですが、皆さんのマスコミ報道に対す る反応を聞かせていただきたいというのと、感 想も聞かせていただきたい。

あと、これは要望なんですが、医療関係の取 材をしていて出産が非常に危険を伴うものだと いうのを初めて知ったんですね。普通に生まれ てきて当たり前というふうによく皆さんイメー ジされていると思うんですけれども、そういう 危険性を伴うものだよというようなものを医師 会としてもっとアピールしていくことが必要と 考えます。

あと、今回の事故を契機に、例えば医師会と して県内の産婦人科医がどのように考えている のか、やっぱり辞めたいと思っているのか。そ の後の医療行為に影響が出ているのか等、アン ケートをしようとか、そういうアンケート結果 をもってこういう現状が県内でも起きています というふうな形で広く周知していく必要がある のではないかと思っているんですが、その点に ついてはどのようにお考えですか。

○永山孝氏(医師会)

永山孝氏

現在の福島県がどうなっているかというの は、僕は詳しいデータはございませんけれど も、ただし、各大学病院も1 人のところにはも う派遣しないということはどこの大学でももう 決定しています。2 人以上でなければ大学から の出向はさせないと。増やせるところはいいん ですけど、1 人だったところが結局、1 カ所は引 きあげて統合するというようなところが、特に 東北、北海道では非常に多うございます。そう いう報告は私のところにも来ていますし、つい 昨日でしたか、根室の市立病院もお産を取り扱 わないと。北海道大学からの1 人出向はもうや めたと。大学自身が8 月末日、引きあげなさい というようなことで、もうこういう影響という のは出ています。

それともうひとつ、私、マスコミにお願いし たいのは、今回の一番最初の共同通信の報道も そうだったんですけど、共同通信は、あれはも う明らかに医療ミスだというのを各通信社に配 信していますよね。それを沖縄では、沖縄タイ ムスも琉球新報もそういうような見出しで出し ていただろうと思います。それが果たして医療 ミスかどうかというのは、一番最初には言えな いはずなんですよね。そういう事故があったと いうのは、間違いなくそういう事故があったと いうような報道でしたら、まだ我々も本当に医 療ミスがあったかどうかというのはわからない ような状態で、これをこういうような出し方で 本当にいいのかどうか、というのが非常に私は 現場の産婦人科の医者として疑問に思っており ます。

この報道の仕方というのは、もうちょっと考 えてほしいと。やるなじゃないですよ。この報 道の仕方というのは、本当に記者の皆さん方 は、ちゃんと自分の考えで、信念で報道されて いるのかということに関しまして、僕はもうち ょっと考慮していただきたいと思います。

○司会(玉井) ありがとうございます。

玉城副会長、マスコミに対する先生のご感 想、あと、沖縄県の産婦人科医は少ないと言わ れていますけれども、今後、産婦人科の先生方に対するアンケート調査や及ぼす影響に関し て、今後、副会長としてどういうふうな調査を しようと考えていらっしゃるんでしょうか。

○玉城信光氏(医師会)

玉城信光氏

マスコミの視点というのは確かに先生方が言 われるように、両方あると思うんですよ。もの を1 つ見るときに、どちらの面から見るかによ って答えが全部違ってくるでしょう。

ただ、現実に自衛隊の先生が県立北部病院に 来て、3 カ月交代しているんですけど、1 人しか いないから実は何にも診療していないです。そ れで北部地区医師会病院に今度、那覇で働いて いた先生が8 月に戻って産婦人科をオープンす るんだけど、1 人だから産科はしないんです。 お産はしない。そうすると名護地区では開業の 先生が2 人いらっしゃって、要するに開業の先 生は1 人でお産しているんですよね。だから、 今の話が相当厳しくなると。

今回の大野病院も事故が起こってしまった。 それはもう途中でベテランだったら対処できた のか、できなかったのかといろんな問題が絡ん でくるんだけれども。ただ、この先生が勤務し て、これまで何十名、何百名が助かってきたか という報道が1 つもないわけね。だから、もし その先生がいなくなったら、全く今までの実績 もそうだけど、ほかのこれから先の地域住民が 受けるメリットも全てなくなってしまうという ことがあるわけです。

ですから、大学病院が今、人がいなくて医療 の問題で引きあげていて、沖縄県の産婦人科の 問題は県医師会も中心になって解決しようとしています。県でもいろんな動きをしていて、 「離島・へき地医師確保対策事業」というのも 起こっているし、それから産婦人科の問題は独 自に県医師会が産婦人科の大学と産婦人科医会 という、先ほどの先生方のグループがいらっし ゃいますので、それでどうにかできないかとい うことで、沖縄県の産婦人科の医会の先生方は 非常に積極的です。それで今、どうにか解決策 を見出そうとはしているんですね。

僕はもう前々から毎月、県庁の記者クラブで 沖縄県の病院とか診療所ではこんな非常に危険 な状態が常に起こっているということを、皆さ ん、県民の人が認識して、それをもとにお互い 同士で気を付けようということをやっていきた いというので、マスコミの皆さんも責める側じ ゃなくて、今の医者が足りないという話があり ますよね。じゃあなた方はどうしたらこの医者 を確保できると思うのかというアイディアを頂 戴したい。我々も考えるけど。

県といろいろな会議をしていますけれども、 いろいろ委員会の結論が出ます。誰が実行する のかと聞いたら、誰も「私」と言わない。委員 会は実行する主体は誰か。そういうことがこれ から大きく問われるんですね。

○司会(玉井) 産婦人科医も不足していま す。看護師もものすごく不足しています。それ はもう医療現場が疲弊しているからですね。も う皆さん逃げたいんですね。この場から逃れた いというのが本音だと思います。

○金城忠雄氏(医師会)

金城忠雄氏

先ほど、分娩、お産は安全かというふうに疑 問をもっていましたから、昭和48 年というと復 帰の翌年ですね。そのときに日本全国で800 名 の妊婦の死亡があります。昭和48年の沖縄でお 母さんが9人亡くなっています。

そして、平成15年、30年ぐらい経っている んですが、日本全国では69名のお母さんを失っ ています。現在は、沖縄で毎年1人は亡くなっ ている。大体そういう状況です。

確かにお産というのはおめでたいということ で、赤ちゃんを抱いて帰るというのが当たり前 ですけれども、ベビーを失うともちろん悲劇で す。もうこの医者は許しておけないと思うのも 間違いないでしょう。それから、お母さんを失 ってはなおさらです。福島でも誰にも会いたく ないというのも当然の話ですけれども、現実は そういうことですね。

○照屋勉氏(医師会)

照屋勉氏

一言、意見を言わせて頂きたいと思います。

今回、この事件の最大のポイントは、阿波連 先生からご説明頂いたように、逃亡の恐れや証 拠隠滅の恐れのないドクターを逮捕したという 事だと思います。先日、目にしたこの新聞記事 にある、柳田國男さんの論壇を参考に私の意見 を述べさせて頂きたいと思います。「この国は やがて壊れる・・・!」というサブタイトルの とおり、今の日本が本当にこのままの状態でい いのかという話が取り上げられているのです。

3 年前、大学病院の産婦人科へ入局した新人ドクターが300 人前後、今年が213 人というこ とで、約30%近くのドクターが減るのは既に確 実なわけです。

出生率の低下も大きな問題ですが、最近ではせ っかく産んだ子供を虐待死させる母親がいた り、超高齢化社会に向けていろいろな問題や事 件も数多く報告されています。

やはり、国・自治体という行政側も、住民・ 医師会・マスコミも含め、相当な覚悟をもって 一致団結して、この問題に取り組んで行かなけ ればならないというのが、私なりの結論です。

○司会(玉井) マスコミから何かご質問あ りますか。

○島貴子氏(週刊ほーむぷらざ)

島貴子氏

玉井先生のほうから最初に事件の経緯などを 説明していただいたんですけれども、本来、新 しい命の誕生を家族で一緒に喜ぶはずだった方 の、そういう家族の新しい命が誕生しながら母 親が、命が亡くなったというこの事実はすごく 重いなと。やりきれない思いをする半面、先ほ どの資料の中に、抗議文の中に、私はここを読 むまでちょっと医師のプロフィールとか、お人 柄というものがなかなか見えなかったんですけ れども、県立病院ですよね。この事件が起こっ た病院に1 人だけ配置されていて、地域医療を 支えていた医師であったということなんですが、 この事件の経緯、流れを聞いている中でも胎盤 剥離に取り組んでいたわけですけれども、おそ らく亡くなられた方の子宮を残したいという希 望も踏まえた上での対処であっただろうとも思 いますし、逮捕という結果になったことに対して、本人のショックも大きかったでしょうし、 まわりの患者や地域の方々の衝撃も大きかった 事件ではなかったかという気がしました。

それでは、どこに問題があったかというもの で、先ほどから流れを追っている中で、私も報 告書の印象として、対策の中に前置胎盤、金城 先生もおっしゃっていましたけれども、帝王切 開してみないと癒着胎盤なのかどうかという判 断は難しいという話もありましたが、そういっ たことも想定した上で、診断が求められると か、あと複数の医師による対応とかいろいろ並 んでいますけれども、何だかすごく他人事とい ったら失礼ですけれども、この報告書がすご く、ちょっと他人行儀な印象があるんですが、 もしかすると1 人で懸命にその状況判断をしな がら結果として救うことができなかったという ことですが、チームを組んで対処している中で お互い意見を交わしながらだと、また状況が、 もしかすると変わっていたのではという気もし ます。

それで、緊急提言というものが日本産科婦人 科学会で出されているということですけれど も、この事件はすごく衝撃的な内容だなという 気がするんですが、地域医療計画というものが 出されていますよね。人口30 万人から100 万人 を目途に産科診療圏を設定というふうに、医師 数であったりとか、病床数とかを設定するとい うふうに。実際、確保にあたることを提言とあ るんですけれども、実際、沖縄のほうでも産婦 人科医は十分な数とは言えない状況の中で、こ ういった取り組みというものが実際行われてい るのかどうか。

あと、この事件を踏まえて県の医師会として は、どういうふうな対応をやっていきたい。こ れは福島県だけの問題ではないですよね。地域 の問題ですし、県内の問題としてもとらえるこ とができると思いますので、医師会としてどう いう取り組みを行っていきたいという考えがあ ればお聞かせいただきたいと思います。

あと、阿波連先生のほうで業務上過失致死に ついての説明がありましたけれども、これは刑事事件という形にまで発展して、医師の逮捕と いうことにつながってしまったわけですけれど も、法制度の中でも整備も必要とお考えなのか どうか、という部分もお聞かせいただけたらと 思います。

あと、もう1 点は、過失のお話ですね。稲田 先生からも説明がありましたけれども、過失と いう形じゃないと補償であったりとかが厳しい というお話もありましたが、諸外国ではみられ るという過失がなくても賠償してあげる、無過 失賠償制度というのがお話がありましたが、こ れについての動きもあればお聞かせいただきた いと思います。以上です。

○司会(玉井) まず、県の対応ですね。こ れを踏まえて、沖縄県でどういう対応ができる か。玉城副会長、お願いいたします。

○玉城信光氏(医師会) 今、石垣、八重山 も足りないです。八重山は南部医療センターか ら産婦人科の医者を複数で派遣していて、たま たま新聞の報道にもなりましたし、鹿児島のほ うから先生が1 人赴任して、1 年契約ですけど、 その人を入れて複数になる。そして、南部医療 センターから行くものですから、南部医療セン ターが足りないから中部病院から出している。 中部病院からこちらに出すものですから、中部 病院から北部へ出せなくなるということもあっ て、絶対数が足りない。それで、足りないから 何もしないのかということではなくて、県も含 めて、沖縄県はどうするのかということですけ ど、沖縄県は何もしません。考えもない。

それで、お盆明けの日に、沖縄県の福祉保健 部と県医師会とのお話があるものですから、こ れに対して沖縄県は何を考えるかということ は、県立病院の事業だからということで、南部 医療センターが応援に行ってくれと。全体のこ とを考えるということではなくて、県立病院に なぜ産婦人科医がいないかというレベルでしか ものを考えていないんですよね。それでは沖縄 県はよくならないので、そこを医師会として僕 はしょっちゅう話をしているところです。

そして、先ほど産婦人科学会からの提言で30万都市ぐらいにひとつというと、この間、北部 に行きまして、県立北部病院と北部地区医師会 病院と医師会の先生と一緒に話をして、30 万都 市で1 つというと、名護と北部の人はみんな中 部病院に行きなさいということになってしま う。それではとてもお産とかそういうことはで きない。じゃ大宜味とか、奥からはどうして来 るの。だからやはり名護に基点を置きたいとい うのが、県立病院の院長の考えでもありました ね。それは県立病院と医師会病院がお互い同士 情報交換も何もなくてただ独自にやるのではな く、地域医療は医師会とその地域にある2 つの 病院が中心になる。

それと、今こういう問題で一番大きなこと は、石垣市長とか名護市長とか、行政が1 つも やらない。これが一番悪い。だから今、議会を 動かして、行政を動かして、地域の医療は地域 で守る。まずそこが前提。そこに県立とか、開 業医とかがどう絡んでいくか。それに対して県 医師会としては、行政とか県の大きなところと どういう調整役をするかということを今考えて いて、とにかく地域の、北部地区の医療は北部 地区の市町村と北部地区にいるドクターでまず 考えてほしいということを今投げかけていま す。そこからでないと出発できない。それをサ ポートする方法では、おそらく何かできるんじ ゃないかと考えています。

20 代、30 代の産婦人科の先生の7 割は女性で す。そして沖縄県の60 歳以上の産婦人科の医者 が20%から25%いるんですよ。そして、だんだ んお産をとらなくなる。だけど、先輩たちは技 量を持っているから、その先輩たちの技量をど こで生かそうか。実は那覇市内でも産婦人科を 辞めた先生がいて、みんな老健施設に行ってい るんですけれども、そういうところに行く前に お産をどこかに集約化して、そこに開業の先生 はお産までみていて、1 カ月前から送るという 方法で、実際の出産のときだけ。そういう方法 だったら外来もずっと続けられるんじゃないか なという感じを僕もしているものですから、そ ういうのも含めて新しい知恵を今、医師会が中心になって考えてみようと思っております。と にかく何かしないと行政は動きませんので、マ スコミの皆さんもご協力をお願いします。

○司会(玉井) 阿波連先生、刑法の今後の 整備はいかがでしょうか。

○阿波連弁護士

阿波連弁護士

刑法を変えるのはなかなか難しいと思うんです。

ただ、医師会と本当は警察庁あたりがルール づくりはするべきなんだろうと思うんです。処罰 してはいけないということではないと思うんで す。重大な過失とか、故意によるものは当然処 罰されるべきですし、ただ何でもかんでもという のが困るということと、人によって処分の基準 が違うというのはやっぱり問題があるんです。

今回の事件、僕らの世界では本当はもう1 つ 考え方、見方があって、何で逮捕したのかとい うと、多分このお医者さんが過失を完全に認め てなかった可能性があるんです。だから最後の 段階で一気に身柄をとって、それで本人に過失 を認めさせたうえで起訴するという。これは普 通のやり方なんですけれども、多分それと普通 の強盗とか、そういう事件と同じようなやり方 でやっているんですけれども、そうするとお医 者さんとか、そういう身柄拘束に慣れていませ んので、10 日もすればもう過失は間違いありま せんという形に、もうガチガチに固まってしま いますので。多分そういう流れをみたんだろう なというふうに思います。

あともう1つ、先ほどから県立大野病院の報告 書の件が問題になっているんですけれども、これ で保険金が払われるかというのは、実は保険会社が判断すべきことで、私のほうで知っている 保険会社は、この報告書があるからといって簡 単に保険金を払うような会社ではありません。

今、医療事後が多くて保険会社自体が医療保 険から撤退したいというような方向なんです。 保険金額の上限も前は2 億円あったのが、今は もう1 億円に切り下がっていて、実際保険料も どんどん上がっている。こういう背景ですの で、保険会社としては裁判で負けるのなら払い ましょうと。だけど負けるまでは自分たちは自 分たちの判断で、そう簡単には払いませんよと いうのがスタンスなんです。

ですから、医療事故の解決に時間がかかって いるというのは、そのあたりの仕組みにも非常 に起因しているんじゃないかというふうには思 います。以上です。

○司会(玉井) 無過失補償制度、稲田先生 いかがでしょうか。

○稲田隆司氏(医師会)

稲田隆司氏

今のご質問で、名古屋の患者さんサイドでず っと医事紛争、医療裁判に取り組んできた非常 に優秀で熱心な先生で加藤弁護士がいらして、 彼がNPO 法人をつくって無過失賠償責任保険制 度を全国運動として日本に確立しようとしてい るようです。詳細な冊子とか資料が医師会事務 局にありますので、後日、各社にお送りします。

その運動の中で今の阿波連先生のおっしゃっ たいろんな矛盾点も含めて、取り入れられてい て、何とか国民全体で患者さんも救い、医療関 係者も明日につながる気力が出るような制度設 計をしようじゃないかということで呼びかけが始まっています。

○司会(玉井) 斉藤さん、先ほど手が挙が っていましたけれども。

○斉藤基樹氏(NHK 沖縄放送局)

斉藤基樹氏

もうほとんど出てしまった話なので恐縮です が、私も報告書に初めて目を通したんですが、 あまりにも内容がなさ過ぎるので、これは報告 書のいわゆるエッセンスなのか、それとも報告 書はこれしかないんですか。

一読して、一体誰がどこに向けてどういうふ うな趣旨で出した報告書なのかというのが今一 つよくわからない感じで、今後の対策を見て も、これはごくごく専門の方が書かなくてもわ かるような話ですよね。「複数の産婦人科医師 による対応及び十分な準備が必要だ」と、こん な話は別にできればそれに越したことはないん ですが、それができない現状があるわけですか ら。ちょっと報告書があまりにもずさんだった もので。

沖縄県で、あまり考えたくはないんですけれ ども、一番こういうふうな件が発生したとし て、やはり先ほど話に出ましたけれども、事故 調査委員会の委員が3人しかいないとか、こう いうことは沖縄県の場合はあり得るのかという のをぜひ伺いたいというのが1 点と。

あと、加藤医師がどのような弁明をしたのか というのは、今日あまり話には出なかったんで すけれども、どのような形で加藤医師は自分の 医療行為は正当なものだったのかというのを主 張されたのか、それをちょっと知りたいという ことです。

あと最後の1点は、とかくマスコミが非常に一面的な報道しかしないというのは、これは大 変な重いご意見だと思ってこちらも受けとめた いと思うんですが、結局こういう報告書が出て しまって多分これに沿った形で報道すると、も うそういう報道にしかならないという現状があ るので、なかなかちょっと、私みたいな一記者 がどうこうできる問題でもないんですけれども、 やはり情報をきっちり公開して常にルートをつ くっておくということと、あとは報道機関と常 に話し合いができるような環境にしておかない と、やはりお互いが非常にストレスがたまるよ うな報道になってしまうと。こちらのほうとし ても自分がやっている報道というのが、非常に いい報道なんだと思ってやっていることが、実 は結果的に間違えた方向に導いてしまうという ことも十分に有り得るわけで、そうした意味か らも医師会が設けているこういう機会というの はもっと増やしていただき、非常にいろんな意 味で勉強させていただければなと思うので、大 変に有り難いなと思っております。以上です。

○稲田隆司氏(医師会) 大野病院の事故に 関するこのぺらぺらの報告書に関しては、私は これ以上は知らないのですけれども、沖縄県医 師会においては、内部で調査委員会をいろんな 事案に対してやるのですが、各科のそれぞれの 委員が十数名選ばれて議論します。そして特殊 な専門性の高い医療事故事案に対しては、オブ ザーバーとして複数の専門家をそのとき参加し てもらってディスカッションします。

そしてこれは内部資料ですが、そのときのそ れぞれが、誰が何を言ったのかというのを全部 逐語で記録に残しております。そしてその当事 者のドクターや関係者もそこに参加をして、自 分がどう思ったか、何を言いたいか、どういう 思いをしているか、様々なことを全部語っても らってそれをちゃんと記録に残しております。 このぐらいの作業をして必要な資料はいろいろ 集めてきますので、こんなぺらぺらの報告書と いうのは、県医師会においてはないです。県立 病院の世界についてはちょっと私はわかりませ んが、だから、大野病院のドクターのことにつ いてはちょっとわかりません。

○永山孝氏(医師会) 実は、大野病院では、 このことがあって直後からご家族には、こうい う状態になって誠に申しわけないと、すみませ んでしたということは謝ってございます。当然 ですね。それに対して先ほど言いましたよう に、ご主人はかんかんになって怒っているとい うのは、これは当然なんですけれども、でもお 父さんにあたられる方、おじいさんがなだめま して、先生の行為に対しては最善のことをやら れたというようなことは認めてございます。

それで、実は加藤先生は先ほどから話があり ましたように、その後も診療を続けまして、1 年数カ月、分娩あるいは帝王切開、その後の帝 王切開もなされています。

もちろん、当然その後の補償問題も現在に至 るまで進んではございませんけど、告訴はご家 族からは出ていません。この報告書の、これは 明らかに医療ミスだというようなことに受け取 られるような内容、この2 枚か3 枚ですか、そ れをもとにして警察が調べまして、しかもなお かつ逮捕したんですけど、もともと逮捕したと いうことがおかしいと。住居もちゃんと決まっ ているんだし、それから逃げも隠れもしない と。全部押収されていますから証拠隠滅もあり 得ないと。そういう状態で診療されたこの産婦 人科の医者に対してとった警察の態度というの が、どうもやっぱり腑に落ちないというふうに 産婦人科医の1 人として感じざるを得ないとい うような状況です。

それからもう1 つ、分娩というのはやっぱり 安全だと。要するに事故がないのが当然だとい うふうに思われているということ自体がやっぱ りおかしいんじゃないかなと。こういう情報と いうんですか、発信もしていなかった学会も悪 いし、医学会も、日本医師会もそういうもので はないはずなんです。いかなる医療事故にも絶 対安全だというような医療事故が本当にあるの かどうかということを再度考え直す必要がある んじゃないかなというようなことは感じます。

○司会(玉井) はい、ありがとうございます。

中田先生、何かございますでしょうか。

○中田安彦氏(医師会)

中田安彦氏

逮捕された方は医療ミスの話ともう1 つ、医 師法違反がありますね。この医師法違反です が、これはマスコミの皆さん、先ほど私たちに もいろいろ教えてくれというのがありました が、異常死届出義務違反というのがあるんです が、これは法医学、あるいは外科学会で全然定 義が違うんです。

だから、この異状死についても、先生、もし よろしければ皆様に、新聞記者でも、新聞にも その異常死について載せていただきたいんです。 学会で話が違っている。それを皆さん、それは 紙面の関係でカットしているかもしれないけど、 解説記事がやっぱり医療事故だとか、こういう 方の場合は必要じゃないかなと思います。

○司会(玉井) だいぶ時間が押してまいり まして、皆様どうもお疲れ様でございます。

これにてマスコミとの懇談会はいったん閉じ させていただきます。

隣の会場におきまして、ささやかな懇親会の 準備をしておりますので、ご移動いただきまし て軽食をいただきながら、また、今の異常死等 の話ももしご興味がありましたらお聞きになっ てください。

それでは、今日はどうもお疲れ様でございま した。以上で終わります。

注釈:話し言葉で議論されているものを、発 言者の内容趣旨を重んじながら、簡素 化してまとめさせていただきました。

広報委員会