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沖縄に多い緑内障「閉塞隅角緑内障」
−診断と治療の最近の進歩−

琉球大学医学部高次機能医科学講座
視覚機能制御学分野(旧眼科学)
澤口 昭一

【要 旨】

閉塞隅角緑内障は開放隅角緑内障とともに緑内障の2大病型として頻度の高い疾 患である。

特に急性閉塞隅角緑内障はいまだに失明原因として発展途上国はむろんのこと、 先進諸国においても重要な疾患の一つである。ここ10数年間でこの閉塞隅角緑内障 に関しては新しい検査機器の開発と臨床への応用が進みその病態の解明、病態に基 づいた治療法の開発など大きな進歩がもたらされた。

本稿では新しい診断機機で分かってきた閉塞隅角緑内障の病態とそれに対応した 治療法、我が国における疫学調査と発症頻度、さらに近年注目されてきた閉塞隅角 隅角緑内障にたいする治療的白内障手術の効果について要約して報告する。

Angle-closure glaucoma in Okinawa islands: Diagnostic and Therapeutic Updates

Angle-Closure Glaucoma is one of the two major types of glaucoma together with Open-Angle Glaucoma. Acute onset Angle-Closure Glauocma has still been a major cause of blindness not only in developeping countries but also in other advanced nations. In recent years, new technology has created new diagnostic instruments and that new informations of the pathogenesis of Angle-Closure Glaucoma has been disclosed not only in the research but also in the clinical field. Also treatment strategy for the Angle-Closure Glaucoma has dramatically progressed. In this paper, new treatment modality, epidemiology and prevalence of Angle-Closure Glaucoma, and furthermore the effect of primary caratact surgery for Angle-Closure Glaucoma are summarrized and reported.

1.閉塞隅角緑内障の病態

閉塞隅角緑内障(以下ACG)は眼の解剖学 的特徴がその発症原因として重要であることが 知られている1)。その特徴としてACGでは一般 的にまず眼が小さいことが挙げられる。この眼 が小さいことに関連して1)角膜径が小さい、 2)前房深度が浅く、前房容積が小さい、3)相対 的に水晶体容積が大きく、前方に位置する、4) 眼軸が短い、の大きく4つの要素が挙げられ本 症発症の重要な因子として考えられている。さ らに5)加齢による白内障の進行による水晶体の 膨化(水晶体は加齢とともに成長し、また硬化 と球状化する)による一層の前房深度の狭小 化、前房隅角の狭細化が関与し50歳以降の中〜 高齢者に発症することが知られている。この様 な眼の解剖学的特徴と加齢による水晶体の影響 が発症にどのように関係するか、つまり発症の メカニズムについてまず説明する。

1)相対瞳孔ブロック:狭小化した隅角が閉塞 する機序についてはまだ解明されていない 点も残されているが、近年開発され臨床に 応用され始めた超音波生体顕微鏡(以下 UBM)がその機序解明に大きな効果を挙 げている。ACGの発症に関して広く受け入 れられている考えは周辺虹彩による隅角閉 塞の発症に瞳孔ブロックが関与していると いう考え方である。眼の中には角膜、水晶 体、虹彩を栄養し循環している透明な水 (房水)があり、この房水は毛様体上皮で 産生され、後房〜水晶体前面と虹彩裏面の 隙間〜前房〜隅角を通過して眼外へ排出さ れている(図1)。(相対)瞳孔ブロックと はこの水晶体前面と虹彩裏面の接触によっ て生じる抵抗のことをいう。UBMで観察 すると正常の開放隅角(図2a)では隅角が 広く水晶体前面と虹彩裏面との接触は少な く、この部位で生じる抵抗が少ない。一 方、ACG(小さい眼では多かれ少なかれ全 ての眼)ではこの接触が大きく、抵抗が強 いことが理解される(図2b)。この抵抗が 大きいために後房圧と前房圧との圧較差が もたらされ、上昇した後房圧は柔軟性のあ る虹彩を周辺に圧配し、周辺虹彩による隅 角閉塞をきたす(図3b)。このため逃げ場 を失った房水は眼内に滞留し眼圧上昇を来 すことになる。

図1.

図1.房水の流路
房水は毛様体で産生され、瞳孔、隅角を経て眼外へ排出さ れる。水晶体前面と虹彩裏面には接触があり、相対瞳孔閉鎖 (ブロック)という。

図2a

図2a

図2b

図2b.正常開放隅角(a)と狭隅角眼(b)の超音波生体顕微鏡(UBM)による観察。 正常開放隅角(a)に較べ狭隅角眼(b)では隅角が狭く、前房が浅いことが理解される。また相対瞳孔閉鎖により 周辺虹彩が前方に膨隆していることがわかる。

図3a

図3a

図3b

図3b.急性緑内障(a)とその際の周辺虹彩による隅角閉塞(b) の所見。急性発作では充血、角膜浮腫、中等度散瞳(対 光反応消失)が観察される。相対瞳孔閉鎖による周辺虹 彩の膨隆により隅角は閉塞している(b)。

2)プラトー虹彩形状:もう一つのACG発症に 関する機序として受け入れられているのが 虹彩の特徴的な形状(プラトー虹彩形状) である。プラトー虹彩はやや前方に位置し た毛様体に乗ったような形状をとり、やや 厚めの虹彩が隅角周辺近くに位置し、隅角 は非常に狭い形態となる(図4a)。当然、 この様な形態では暗室や薬剤(交感神経作 動薬や副交感神経遮断薬)の影響で僅かな 散瞳を来しても隅角の閉塞を生じ、房水は 隅角から眼外への流出路を塞がれるために 眼圧は上昇し、緑内障を発症する(図4b)

図4a

図4a

図4b

図4b.プラトー虹彩形状の所見。 虹彩はやや厚く、隅角は狭小である(a)。散瞳により虹彩 根部は容易に閉塞する(b)。

3)白内障の進行:ACGは既に述べたように水 晶体の加齢による変化(厚みの増加)が最 終発症の引き金になる。このため発症は50 歳以降であり60歳後半から70歳半ばにかけ て発症年齢のピークがある。即ち相対瞳孔 ブロック、プラトー虹彩形状に水晶体の加 齢による厚みの増加が3大危険因子となる。

2.閉塞隅角緑内障の疫学と発症頻度

本邦における緑内障の有病率に関しては2000 〜2001年の多治見スタディが良く知られてい る2)。緑内障は成人人口(40歳以上)の約5% が罹患しており、本邦においては開放隅角緑内 障の中でも正常眼圧緑内障が3.6%であり(眼 圧値が統計学的な正常値の21mmHg以下)、こ の疾患による頻度が圧倒的に高く、海外の報告 と異なった結果として注目されている2)。一方、 正常眼圧緑内障はその進行が極めて緩徐であ り、また眼底写真などの成人病検診などで発見 されることが多くなり、さらに手術を含めた眼 圧下降などの適切な治療により失明へつながる 可能性は少なくなってきている。一方、ACGは 大きく急性(間歇性)発症と慢性発症に分類さ れるが、急性の場合はそれまで全く自覚症状の ない患者が突然激しい眼痛、頭痛、吐き気で発 症し、適切な治療が施されない場合短期間で失 明に至る重要な眼科救急疾患の一つである。ま た離島や夜間救急では眼科医以外の医師が診察 するため全科の救急疾患とも言える。ACGの 頻度は多治見スタディの第2報において0.6%と された(表1)3)。このACGの発症頻度は地域 差(沖縄県は好発地域4))、民族差(東アジア、 モンゴル、エスキモーで高頻度5、6))、性差(女 性は男性の3倍)があることが知られている。

表1.

表1.緑内障有病率(%、40歳以上日本人、多治見スタディ):文献3,7参照
閉塞隅角隅角緑内障の有病率は0.6%である。

3.最近の閉塞隅角緑内障の分類

ACG はこれまで慢性、急性(含む間歇性) とこれまで分類されてきたが、最近国際的には (1)閉塞隅角疑い(primary angle closure suspect, PACS)、(2)閉塞隅角眼(primary angle colsure, PAC)と(3)閉塞隅角緑内障(primary angle closure glaucoma, PACG)の3つ に大きく分類された(表2)7)。つまり緑内障と 診断するには緑内障性の視神経障害(視野障 害、視神経乳頭障害)がなければならないとい うかなり厳密な考え方に基づくものである。こ れまでの常識であった急性閉塞隅角緑内障はこ の考え方からするとprimary angle closureに 含まれるということになり、不思議なことに視 野障害が無ければ緑内障ではないという考え方 に変わった。

表2.

表2.閉塞隅角隅角緑内障の分類:文献7参照
緑内障視神経障害の有無で閉塞隅角隅角緑内障予備軍 (PAC,PACS)と閉塞隅角隅角緑内障(PACG)に分類された

4.閉塞隅角緑内障の検査・診断

ACGの検査としてもっとも普及しているの が細隙灯顕微鏡による前房深度の観察と周辺前 房の深度である。角膜厚みは約0.5mmであり、 正常の中央前房深度は2.5mm以上であるので おおよその判定が可能である(図5a、b)。周辺前 房深度はvan Herick分類が良く用いられる1)。 周辺角膜厚みと周辺前房深度を比較し、角膜厚 みの1/4以下をgrade2度以下としてACGの 予備軍とし、定期的な通院や一般的な緑内障検 査を追加する(図5a、b)。このvan Herick分類 の感度・特異度は70%前後といわれており、つ ぎに詳細な隅角鏡検査を行い診断をより確実に する必要がある。隅角鏡検査による判定基準に はShaffer分類が良く用いられる1)。Shaffer2度 以下は狭隅角としてさらに圧迫隅角鏡による検 査が必要となる。しかしながら上記の検査法は 検者の主観が入りやすく、また全く自覚症状の 無い患者への説明、治療の必要性を説得するの はかなり困難である。近年臨床応用されてきた 検査機器としてUBMが注目され、その結果が 報告されている。UBMは40〜50Hzの高い周 波数の超音波を用い、前房、隅角、毛様体など のいわゆる前眼部を観察できる(図2、3、4)。 操作にはやや熟練を要し、接触型なのでスクリ ーニングには不向きであるがACG の水晶体、 毛様体、虹彩裏面などこれまで直視下に観察で きない部位でしかも本疾患にとって重要な部位 の観察が可能であり、貴重な情報を提供してく れる。また患者へも正常者との比較や治療効果 の判定を含めて客観的なデータで説明できる利 点がある。UBM 以外にも近年、Scanning peripheral antreior chamber depth analyzer (SPAC)や前眼部測定光干渉断層撮影(前眼 部OCT)などが臨床に応用され始めている。

既に述べたようにACGの発症の仕方には急 性(間歇)発症と慢性発症がある。急性発症に は慢性に経過していた緑内障の急性転化と、全 く症状の無かった眼で突然発症する場合があ る。急性発症の場合、診断は容易であるが、見 逃した場合失明への危険性が高まるので注意が 必要である。急性発作の3主症状は1)眼痛、2) 頭痛、3)吐き気があり、ここに視力障害が加わ る。眼は充血し、中等度の散瞳状態で対光反応 は消失する(図3a)。患者は救急外来や離島で は眼科以外の医師に受診するため全科における 救急疾患として対応する必要がある。慢性の本 症では診断は一層困難であり、患者は眼精疲 労、霧視、充血や頭痛など不定愁訴を訴え、ま た内科や脳外科などへ受診することも稀ではな い。また眼科へ受診した際にも非発作時には診 断が困難な場合も多く、発作を起こして初めて 診断されることも稀ではない。

図5a

図5a

図5b

図5b.細隙灯顕微鏡所見。
正常の中央部前房深度(図a左)と周辺前房深度(図a右) と浅い中央部前房深度(図b左)と狭い周辺前房深度(図b左) を示す。図bの他眼は急性発作眼である。

5.閉塞隅角緑内障の治療8)

1)急性閉塞隅角緑内障::急性閉塞隅角緑内障 の発症に対してはまず発作の解除(発作の 緩解)を行う。高浸透圧利尿薬(グリセ オール、マンニトール)の急速静脈内点 滴、縮瞳薬(塩酸ピロカルピン)の点眼、 炭酸脱水酵素阻害薬(ダイモックス)の内 服、点滴がまず救急処置として行われる。

2)急性発作解除後(緩解)、及び慢性閉塞隅 角緑内障や閉塞隅角緑内障予備軍 (PACS,PAC):治療は閉塞隅角緑内障の 3つの病態(危険因子)を考慮して進める。 まず(1)相対瞳孔ブロックの解除である。 かつて周辺虹彩切除が行われていたが、こ こ20年はレーザー虹彩切開術が簡便で安全 な手技として広く用いられている(図6)。 しかしながら近年、このレーザー虹彩切開 術による合併症として角膜内皮障害とそれ による水泡性角膜症が問題となってきてい る。特に発作眼や既に角膜内皮に問題があ る症例では慎重に対応する必要がある。つ ぎに(2)プラトー虹彩形状に対してはレ ーザー周辺隅角形成術が行われる。周辺 虹彩のレーザー光凝固によって虹彩の収縮 と萎縮によって隅角形状を改善(開大)す るものである。(3)最後に水晶体の処理で ある。水晶体は厚みが約4.5mm程度あり、加齢とともに一層の厚みの増加をきたす。 この水晶体を摘出、あるいは薄い水晶体 (人工水晶体)に置き換えることによって 前房深度の増加、隅角の開大が生じ、ACG の発症に関与する病態(危険因子)は全て 解消することが想定される(図7a、b)。

図7a

図7a

図7b

図7b.閉塞隅角緑内障に対する治療的白内障手術。
白内障手術前は浅前房と狭隅角(図a)であったが、術後は前房深 度は深くなり、隅角も開大することが分かる(図b)。 解剖学的には閉塞隅角緑内障は治癒した状態と言える。

6.白内障手術の効果

慢性閉塞隅角緑内障あるいは急性閉塞隅角緑 内障の治療にレーザー虹彩切開術や周辺虹彩切 除術を行った場合、中〜長期的にかなりの症例 に緑内障治療薬の追加や緑内障の手術の追加が 必要となることが明らかになってきた9、10)。こ れに対して積極的に白内障手術を行い、ACG への治療効果を観察した報告が近年相次いでい る11)。既に述べたように白内障手術はACG発 症の危険因子である浅前房、狭隅角などの異常 を改善し前房深度の増加、隅角開大など、解剖 学的には治癒したといって差し支えない状態と なる(図7a、b)。また術後の短期〜中期的な眼 圧下降効果、眼圧コントロールに関してもこれ までの報告は概ね肯定的な結果となっている。

まとめ

ACG、特に急性閉塞隅角緑内障は眼科のみな らず全科の救急疾患であり、初期の正確な診断 と適切な治療が重要である。本症に対するレー ザー治療はその有効性とともに稀ながら角膜障 害という合併症が散見され報告されている。 このためレーザー治療の適応については今後一 層慎重に決定する必要がある。ACGに対して 白内障手術は今後の治療として注目され始めて いる。しかしながらまだ長期的な経過や、透明 水晶体への手術の是非に関しては一層の臨床デ ータの蓄積が必要である。ACGに対する新し い検査機器の登場は今まで以上に多くの情報を われわれ眼科医にもたらしてくれた。またこれ らの機器による客観的な視覚に基づくデータを 患者と共有することは眼科医療のみならず全て の診療科のこれからの医療にとって重要となる であろう。

文献

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  • 仲村優子,他:沖縄県における急性閉塞隅角緑内障の 発症頻度.あたらしい眼科 17:683-686,2000.
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  • Jacobi PC, et al.: Primary phacoemulcification and intraocular lens implantation for acute angle-closure glaucoma. Ophthalmology 109;1597-1603.2002.

著 者 紹 介

澤口昭一

琉球大学医学部
高次機能医科学講座視覚機能
制御学分野(旧眼科学) 澤口 昭一

生年月日:昭和30年1月4日

出身地:新潟県新潟市

出身大学:新潟大学医学部 昭和54年卒

専攻・診療領域
 眼科・緑内障

その他・趣味等
 ゴルフ・巨人軍・B級グルメ食べ歩き

Q U E S T I O N !

次の問題に対し、ハガキ(本巻末綴じ)でご回答いただいた方に、日医生涯教育講座 5 単位を付与いたします。

問題:55歳、女性。30歳後半より遠視の眼鏡 を装用。数日前より右眼の軽度の霧視と 軽度の頭痛と吐き気を訴え内科を受診し た。風邪症候群と診断され、風邪薬を処 方されたが次第に症状は悪化した。右眼 の充血、霧視と頭痛の一層の増悪、吐き 気があり、深夜に救急外来を受診した。 左眼は異常なし。

1)次の点眼薬で用いるものは

  • 抗アレルギー薬
  • 点眼麻酔薬
  • 抗菌剤の点眼
  • 縮瞳薬
  • 副交感神経遮断薬

CORRECT ANSWER! 6月号(vol.42)の正解

問題:漢方における陰陽の意味で病体生理を理 解するのに有用なものを選んで下さい。

  • 上下
  • 男女
  • 表裏
  • 体液と熱産生能

正解 4