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「チャングムの誓い」に学ぶ診察術

具志一男

ぐし こども クリニック 院長 具志 一男

近年、「冬のソナタ」以来、韓国のドラマを見る機会が増えている。最近では衛星放送では終了したが、地上波で放送中の「宮廷女官 チャングムの誓い」にはまっている。時代は朝鮮王朝第11代 李中宗(イ・チュンジョン:在位1506〜1544年)の頃。両親を失った少女チャングムが、母の遺言で王の食事を調理するスラッカンに入り成長していく物語だ(最後までは見ていないので結末は知りません)。第4話「母の教え」にわれわれも学ばなければいけないエピソードが語られている。

宮中に上がって間もないチャングムが、ある夜、上司のサングン(尚宮:女官の役職名)に「飲み水を持ってきなさい」と言われる。チャングムはすぐ水を持ってくるが、サングンは飲まずにもう一度持ってくるように言う。再度水を持ってくるが、サングンは翌朝持って来るようにと言うだけで飲まずにそのまま寝てしまう。翌朝からチャングムはいろいろ考えお湯を持ってきたり、水に柳の葉を浮かべて持ってきたりするが何も言わずにまた持ってくるようにと繰り返し言われてしまう。数日後、チャングムはふとしたことから母がしていたことを思い出し、水を持ってくる前にサングンにたずねた。

チャングム:「お腹は痛くありませんか」

サングン:「ありません」

チャングム:「お通じはありませんか」

サングン:「ありました」

チャングム:「喉が痛いときはありませんか」

サングン:「喉が痛いことは良くある」

その後、チャングムは温かいお湯に塩をひとつまみ入れて持ってきた。「一度に飲み干さずにお茶を飲むようにゆっくりとどうぞ」といって差し出した。サングンは満足そうな笑みを浮かべてそのお湯をゆっくりと飲み始めた。そして、「料理を出す前には食べる人の体調や好き嫌い、体が受け付けるものを聞く必要がある。水でも器に盛られた瞬間から料理になること、料理を作るときは食べる人への配慮が一番だということ、料理は人への気持ちだということです。」と語った。

このエピソードを見て、はたと思ったのは、われわれの診療もこれとまったく同じだということだ。問診で具合を聞く、患者さんの主訴をしっかり聞くことも大切だが、医師の側から診断の助けになるような質問をして状態をしっかり把握する必要がある。医師からいろいろと質問されれば、患者さんも他の症状を付け加えてくる。「熱と咳がある」というだけの患者さんにもたくさん聞くことがある。

「何日くらいになりますか」

:熱の期間が長いときは、インフルエンザや細菌感染などを疑い、短かければかぜ症候群の可能性が高くなる。咳が長いときは、マイコプラズマや結核、後鼻漏なども疑う。

「どんな咳ですか」

:湿性咳嗽の時は気管支炎や肺炎など下気道炎を、乾性咳漱では咽頭炎などの上気道炎を主に考える。去痰剤か鎮咳剤かが異なる。犬吠様か、レプリーゼはあるかも聞かなければ患者さんから言ってくることは少ない。

「汗はかきますか」

:抵抗力ができるまでは自然発汗はなかなかなく、改善してくれば発汗により解熱してくる。

「食欲はありますか」

:食事が取れるようであれば、それ程重症な状態ではないと考えられる。

「尿は出ていますか、尿の色は」

:尿量や濃さにより、脱水の有無を知ることができる。

「喉は痛くありませんか」

:熱や咳など他の人にも分かりやすい症状だけを訴え、自分だけしか分からないような症状を訴えない患者さんもいる。聞き出すしかない。

「周りに同じような症状の人はいませんか」

:伝染性の強い病気がないかどうかは診断の助けになる。潜伏期間のチェックも重要だ。

などなど主訴の10倍くらいの質問をして症状を確認、患者さんがどの症状を一番解決したがっているのかも聞きだす。それらに合った病名を考え、それから診察し、必要であれば、検査や処置を行い、診断となり、投薬や今後の過ごし方の説明を行う。慢性疾患の患者さんでも日々の生活の話を聞きながらQOLを判断、次回来院までの必要な処方日数の確認と称して残薬の数を聞くことにより、怠薬の有無をチェックすることができる。「ちゃんと飲んでいますか」と聞くだけでは、「はい」としか答えない。さまざまな患者さんとの対話の中でより良い満足度の高い診療ができるというものだ。

また、第18話「料理人の信念」でのエピソード。チャングムとサングンは、長旅で体調を悪くした糖尿病の明の使者をもてなすときにも、山海の珍味ではなく、野菜料理を用意した。高官に何故ご馳走を出さないのかと正され、チャングムが答えた。「料理人としてお体に害となると分かっているお料理をお出しするわけにはまいりません。糖尿病で大事なのは薬ではございません。食事を工夫しなければ薬を飲んでも無駄でございます。おいしい料理は体には毒になるのです。」

現在にも通じる話であり、特に男女とも早世率(65歳までに死亡する確率)の高い昨今の沖縄には耳の痛い話である。診療の場でもただ、薬を出しましたではなく、どのようなときにどのように使うのか、食事や生活、運動の指導まで総合的に行わなければならない。

「宮廷女官チャングムの誓い」は、地上波では全54話の内、まだ20話くらいしか放送されていません。今ならレンタルで見始めても追いつけると思います。是非一度ご覧あれ。

★リレー状況

  • ー平成14年以前掲載省略ー
  • 17.西平守樹先生(西平医院)Vol. 39 No. 2
  • 18.澤口昭一先生(琉球大学医学部眼科学講座)Vol. 39 No. 3
  • 19.安里良盛先生(安里眼科)Vol. 39 No. 5
  • 20.照屋 勉先生(てるや整形外科)Vol. 39 No. 6
  • 21.国吉 毅先生(南部徳洲会病院)Vol. 39 No. 9
  • 22.吉川朝昭先生(西崎病院)Vol. 39 No. 11
  • 23.濱崎直人先生(沖縄リハビリテーションセンター病院)Vol. 40 No. 1
  • 24.永山盛隆先生(豊見城中央病院整形外科)Vol. 40 No. 2
  • 25.武内正典先生(武内整形外科)Vol. 40 No. 5
  • 26.長嶺功一先生(前県立那覇病院長)Vol. 40 No. 7
  • 27.奥島憲彦先生(ハートライフ病院)Vol. 40 No. 10
  • 28.豊見山直樹先生(那覇市立病院)Vol. 40 No. 12
  • 29.仲間 司先生(県立那覇病院)Vol. 41 No.5
  • 30.新里 讓先生(沖縄赤十字病院)Vol. 41 No.11
  • 31.友利正行先生(ともり内科循環器科)Vol. 42 No.2